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連休明けに重要発表も……大丈夫?? 「新トヨタ」体制方針説明会に垣間見える危機

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連休明けに重要発表も……大丈夫?? 「新トヨタ」体制方針説明会に垣間見える危機

 ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。

 第十八回目となる今回は、新体制決定から2カ月、佐藤恒治新CEO就任から1週間というスピードで開かれたトヨタ説明会。その中身に切り込みます。

連休明けに重要発表も……大丈夫?? 「新トヨタ」体制方針説明会に垣間見える危機

※本稿は2023年4月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真・画像/TOYOTA、HONDA ほか
初出:『ベストカー』2023年5月26日号

■佐藤新CEO就任からわずか1週間で開かれた「新トヨタ」説明会 4つのポイント

2023年4月7日、新体制方針説明会でEV戦略を全面的に見直すと発表したトヨタ。左から宮崎洋一副社長、佐藤恒治社長、中嶋裕樹副社長

 佐藤恒治新CEOは新体制決定後からわずか2カ月、CEO就任からなんと1週間(実働では4日目)という驚きのスピードで「新体制方針説明会」を開きました。

 そうは言っても、わずか2カ月でトヨタが進めていかなければならない完全で詳細な方針が説明できる段階ではないと考えていました。

 ふたを開ければ、2026年で150万台ものEV販売台数を新目標に掲げる驚きの展開がありました。

 しかし、総じて継承を俯瞰する内容が多く、進化への躍動感が物足りなく変革は充分に煮詰まっていないとの印象です。

 新体制方針の重要なポイントは大きく4点あったと考えます。

 第1に、豊田章男新会長の基本戦略とクルマづくりの哲学を継承していきながらも、カーボンニュートラルと移動価値の拡張を実現させる会社とクルマへの進化を目指します。大胆な決断と実行のスピードを大幅に加速化させる考えです。

 第2に、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、新目標を発表しました。メディアはほとんどこの事実を報道していませんが、非常に重要なステップです。CO2を2030年までに2019年比33%、2035年に50%削減という具体的な目標値を掲げました。

 実は、トヨタは2030年の具体計画を示せておらず、環境(E)・社会(S)、ガバナンス(G)の解決を目指すESGスコアで優れていません。これほどハイブリッド技術で世界の環境に貢献しながらも、環境アクティビストなどから非難を受ける立場に甘んじていました。

 第3に、この実現に向け「マルチパスウェイ(全方位)」戦略を堅持します。EVを真剣に強化しながら、プラグインハイブリッドの普及を目指し、燃料電池車は商用車を中心に量産化へチャンレンジ、カーボンニュートラル燃料の開発へも注力する考えです。

 最後に、モビリティカンパニーへの転換という企業パーパスの具体化を進めた「トヨタモビリティコンセプト(TMC)」を新たに設置しました。最終的に社会システムの一部となるべくクルマを進化させ、産業と社会の活力を伸ばそうという考えです。

■2026年までにEV150万台 EV専門会社を新たに設立?

新体制発表会での主な発表内容。上から5項目目に「ワンリーダーの下で動くBEV専任組織を作る」とある。GW明けの動きに注目だ

 EV戦略においては、多くの具体策の説明に踏み込みました。2026年までに10の新EVモデルを投入し、同年に150万台へEV販売を高める驚きの発表がありました。

 2026年に電気走行レンジ(AER)を2倍に高めた次世代EV専用プラットフォームを導入します。

 最も驚いたのは、新しいEV生産技術を導入し、1)工程数を半減、2)内製投資半減、3)開発原単位半減を目指すとしたことです。

 工程数を半減するということは、単純に言って部品点数を半分に削減することとほぼ同じ意味です。サプライヤーへの影響も多大で、これほど思い切った大変革のアプローチを掲げたことは高く評価できます。

 その実現に向けて、次世代EV開発の専任組織を新設し、ワンリーダーの下で開発・生産・事業を包括するオールインワンのチームで運営することも示しました。

 それは、100%のEV化を宣言しているレクサスカンパニーを分社化し、開発から生産・事業にわたるEVビジネス全体を新しいアプローチで進めようとしているのではないかと筆者は感じました。

 まず残存するハイブリッドからの収益を最大化させながら、バリューチェーン収益の拡大と原価低減力を合わせて、EVやモビリティへの構造転換費用のネガティブ要因を吸収する。そして持続的な収益成長の実現を目指し、「強いトヨタ」の復活を宣言したと言えます。

 しかし、持続的に成長する「強いトヨタ」を実現するには、(1)2026年のEV販売150万台、(2)2026年から始まる新しいEV事業の競争力確立という、2つの条件がそろわないと、実は達成が困難なのです。

■EVの成功なくして全方位は成立しない

 bZ4Xの不振で出鼻をくじかれた格好のトヨタのEV販売が、わずか3年で世界トップレベルの150万台を達成できる蓋然性は見えていません。

 この生産にはざっと100ギガワット時の電池が必要です。しかし、トヨタは40ギガワット時の自前能力増強への投資が決まっているにすぎません。

 この目標を、どのプラットフォーム、電池、工場で生産する考えであるのか、詳細はベールに包まれているのか、決まっていないかのいずれかでしょう。

 150万台目標が大きく未達に終わったとしたら、2026年時点の収益は好採算なハイブリッドで強く支えられても、その後は規制対応コストやEVへの基盤変換コストが増大し、その先の成長を期待することが難しくなります。

 最悪、2026年からのEV事業で充分な競争力が確立できなかった時は、コストが大幅に増大し、トヨタは収益衰退の崖に迫っていくことになるのです。

 カーボンニュートラルを実現するために、マルチパスウェイ戦略を堅持することは非常に合理的な考えです。しかし、マルチパスウェイの確立の順序を間違えると、企業の競争力衰退を招きかねないのです。

 EVの成功なくして持続可能性の高いマルチパスウェイ戦略はないと考えます。

「マルチパスウェイ戦略は正しい、だから企業の競争力が保てる」という命題は、現在の世界的なEVシフトの下では真ではないのです。

 佐藤新体制はトヨタの固定概念を破壊し、まったく新しいトヨタへの進化を急ぐことが求められていると考えます。

●これまでの連載はこちらから!

●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数

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