クリエイティブムーバー=生活創造車と呼ばれたモデル
クリエイティブムーバー。最初にこの言葉を聞いたとき、そう来たかぁ、ホンダも考えたなぁ、と思った。たとえばスポーツカーで○○psのパワー、0→400m加速○秒! と言われても、そういうクルマの運転の仕方をしない人にはあまりピンと来ない、自分とは別世界のクルマと思ってしまうかもしれない。
まさに「走るラブホ」だった「S-MX」! メーカー自ら「恋愛仕様」と謳う「究極の車中泊カー」だった
だが、クリエイティブムーバーと言われたら「ン? 何それ? そのクルマに乗ると何か創造的なことが起こるの? 新しい生活スタイルが送れるの?」と、広く普通の人にもメッセージが届く。
今でいうなら、年会費を払って休日の混んだ駐車場待ちの列に並んででもコストコへ行き、ヨソでは買えない物すごいサイズのピザとか豚肉肩ロースとか鶏肉の丸焼きとかサーモンとかディナーロールとかをカートに入れて持ち帰って料理を作り、「コストコの食材で作った料理はヨソで買ってきた食材で作るのとはひと味違うよね、また来月も行こうね」などと会話を弾ませているみたいなもの、かもしれない。
どのモデルも個性的で斬新で存在感があった
別の側面でいうと、クリエイティブムーバー路線の拡大により、ホンダからスポーツカー・メーカーのイメージがやや薄らいでしまった。それどころか主力であるはずのシビック、アコードといった乗用車系の商品群でさえ、何やら影が薄くなってしまった感すらあった。直近では軽自動車のN-BOXが大ヒットを飛ばし続けているのはご承知のとおりだが、まあ時代がそうだから……ということなのかもしれないが。
話を主題に戻すと、クリエイティブムーバー(生活創造車)と呼ばれたモデル群は、どのモデルも個性的で斬新で存在感があり、確かに“ツカミはオッケー”だった。
第1弾として登場したのはミニバン「オデッセイ」
まず最初に登場したのはミニバンのオデッセイ(1994年)だった。オデッセイというとセットであのアダムスファミリーのイメージキャラクターが思い浮かぶ。だが、確かにファミリーとはいえ、お化け一家を抜擢したあたりがすごかったものの、オデッセイが乗用車ベース(具体的にはアコード)のまったく新しいミニバンであることのアピールには成功。
さらに、さすが架空のファミリーがキャラクターだけあり生活感がないというか、既存のミニバンとは違う上質な室内空間、走りなどは注目を集めた部分。全幅が1770mmと当時の乗用車としては決して小さいとはいえなかったが、それでも平日に奥さまがスマートに乗りこなせることでも評判がよかった。簡単な操作で床下へフラットに沈ませて畳めるサードシートも秀逸だった。「ちょっと狭いけど、まあいいんじゃない」と、ニューヨークではイエローキャブとしても使われた。
第2弾はコンパクトSUV「CR-V」
次に登場したのがCR−V(1995年)。オデッセイがアコードをベースとしたように、このCR−Vも乗用車のシビックをベースに仕立てたSUVだ。それまでのゴツいクロスカントリー型の4WDとは一線を画す、ライト感覚のSUVとしてトヨタRAV4などとともに市場の人気を集めたモデルだった。
205mmと最低地上高をしっかり確保しつつ、フラットで前後席のウォークスルーも可能な室内、ハネ上げ式のガラスハッチと横開きのゲートを組み合わせた2WAYテールゲートなど、実用性、使い勝手がさりげなくいいのも魅力だった。デュアルポンプ式4WDの採用で、何気なく高い走破性をもっていた点も見逃せなかった。“ホンダ買うボーイ”の広告コピーには、駄洒落が決して嫌いではない筆者も苦笑させられたが。
ファミリーから支持された第3弾「ステップワゴン」
そして1996年に登場したのがステップワゴン。このクルマは全幅を1695mmとキッチリと日本の5ナンバーサイズに収めて、見るからに箱形の実用車として仕上げてきたことが最大の特徴だった。全高は1830mm(FF車)とタップリとられ、縦長のテールランプは後ろ姿だけみてステップワゴンだと分かる特徴のひとつでもあった。
CR−V以上に床は全面的にフラットかつ低かったため、もうとにかく大勢で乗っても何を載せてもいいから存分に使ってください……と言わんばかり。2列目シートを後ろ向きにし回転対座モードが作れたり、チップアップさせてラゲッジスペースを拡大させたりと、シートアレンジの豊富さは日本のミニバンらしいところ。乗車定員は8名乗り(5名乗りの設定もあった)と、使い勝手のいいピープルムーバーだった。
若者に人気の高かった第4弾「S-MX」
そしてクリエイティブムーバーの4番手として登場したのがS-MX(1996年)だった。カタログを開くと“恋愛仕様。”のコピーが目に入るこのクルマは、一連のクリエイティブムーバーのなかで、もっともハジけたクルマだった。
4mを切るコンパクトなボディ、少し高い位置の着座ポイントなどが特徴。前席はコラムシフト+ベンチシートで、そのほかにフルフラットや後席300mmロングスライドなどへアレンジでき、要は使い方はオーナーのアイデア次第といったところ。
今では珍しいが片側スライドドアを採用し、奥側をフルフラットにした状態では、あたかもベッドサイドテーブルのように使うことができる、心楽しいひとときをより楽しく演出します(カタログより)という、利便性を考えたデザインに。インパネのデザインは、今見ると非常にシンプルかつ機能的で好ましい。
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