フルモデルチェンジを受けた新型フォルクスワーゲン「ゴルフ」の今尾直樹による試乗記。前編は、新型の概要と1.5リッター・エンジン搭載モデルについて。
先代との違い
スリムなグリルにLEDのヘッドライトを得た新型フォルクスワーゲン・ゴルフの実物は、フロント・グリル中央のVWマークがなければ、いずこのプレミアム・ブランドかと思っちゃうような高品質オーラを放っていた。矛盾するようだけれど、それでいて、これは新型ゴルフであるな、と察することができるスタイルをまとっている。
全長×全幅×全高は、4295×1790×1475mmで、先代(第7世代)と較べると、30mmだけ長くて、10mm細く、5mm低い。2620mmのホイールベース は15mm短くなっている。ごく大雑把に申し上げれば、ボディ・サイズは先代とほぼおなじだ。
細かく申し上げると、オーバーハングが前後合わせて45mm、先代より長くなっている。より低く、よりスリムで長くなったプロポーションはエアロダイナミクスに貢献している。ドア・ミラーやリアのリーフ部分の形状、ボディの下をカバーするパネルにより、空気抵抗係数(Cd値)を先代の0.3から0.275に低めてもいる。全幅をスレンダーにした効果で、前面投影面積が小さくなり、低燃費と風切り音の低減につなげているのだ。
日本仕様には大別して、1.0リッター3気筒(1.0eTSI)と1.5リッター4気筒(1.5eTSI)の、ふたつのエンジンがある。前者にアクティブ・ベーシックとアクティブ、後者にスタイルとRラインという、それぞれ2つのグレードの設定がある。Rラインはスポーティ仕様で、フロントのバンパーが独自のデザインになっている。
プレミアム・ブランドにググッと近づく
われわれが最初に試乗したのは、1.5リッターのeTSIスタイルである。ホイールベース、全幅と全高の数値が先代よりちょっぴり小さくなっているとはいえ、居住空間は先代と遜色ない。というのがフォルクスワーゲンの主張であり、筆者の感想でもある。
ウィンド・スクリーンはクーペのように寝ており、しっかりしたセンター・コンソールが設けられていることもあって、適度なタイト感はある。それはスポーティな印象ともつながっている。ドライバーの眼前には、メーターとインフォテインメント用、ふたつの液晶ディスプレイがあり、そのおかげでダッシュボードのスイッチ類がすっきり、シンプルになっている。
7速DCTのシフト・レバーは電気信号で伝えるシフト・バイ・ワイアの採用で小型化されている。それもあってセンター・コンソールは広々している。それなのに安っぽさを感じさせないのは、フェイシアのデザイン、素材の選びがうまいからだろう。
走り出して驚いたのは、乗り心地のすばらしさである。従来のゴルフをミキサーで細かくし、よく乾燥してから、ふるいにかけ、ツブツブをよりわけて、それからまた再構築したというような、ごく簡単にいうと洗練させた感じ。より滑らかで精緻な印象である。
225/45R17という扁平タイヤゆえ、基本的には硬めだけれど、低速でもショックらしいショックはまるでない。ボディがソリッドで、東名高速道路の出口に隣接した御殿場アウトレット方面へと向かう一般道はかなり舗装が荒れていて、ドッシンバッタンと、ときに音の侵入を許すものの、基本的にはたいへん静かで、加速がスムーズでもある。
スムーズな加速の秘密は、フォルクスワーゲンとしては初採用の48Vマイルド・ハイブリッド・システムにあると思われる。後述する1.0リッター3気筒ターボの1.0eTSIと、この1.5eTSI、いずれのユニットにも、12Vのスターター・モーターとは別に、ベルト駆動式のスターター・ジェネレーター(BSG)と48Vのリチウム・イオン・バッテリーが組み合わされている。BSGは最高出力13psと最大トルク62Nmを発揮して、発進時にはエンジンを助け、アイドリングやコースティングのときに停止したエンジンを再起動する。
発進時にエンジンを助けるというのは、いわば坂道ののぼりでゼーゼーいっているときに背中を押してもらうようなものだ。実際、いかなるときも1497ccの4気筒ターボは苦しそうなそぶりも見せず、どこかゆとりをもっているように感じる。
1.5eTSIとも呼ばれるこのエンジンは、先代ゴルフVIIの1.4TSIの74.5mmのボアはそのままに、ストロークを80.0mmから85.9mmに延ばしたもので、ターボチャージャーの力を借りて、最高出力150ps/5000~6000rpmと最大トルク250Nm/1500~3500rpmを発揮する。先代は140psと250Nmだったから、1.5eTSIユニットは排気量アップにもかかわらず、性能上、むしろラクをしているともいえる。
6500rpmから始まるレッド・ゾーン近くまでまわしてみると、ぎゅーんというメカニカルな、心地よい金属音をやや控えめに発するだけで、ガサツさがみじんもない。
東名高速を御殿場でからあがり、裾野までUターンしてみると、可変ダンピングのないサスペンションはしなやかに動いている。高速スタビリティは十分で、快適でもある。ブレーキは強力で、頼もしく、まるでスポーツカーのようなフィールだ。
ステアリングは軽めで、ものすごくスムーズなことが印象的だ。ギア・レシオは先代の15.0から14.6に、よりダイレクトになっている。先代よりアジャイル、敏捷になっているけれど、敏捷すぎることはない。
じつに上質で、その意味において新型ゴルフはプレミアム・ブランドの仲間に入れてもよい、と筆者は思う。マイルド・ハイブリッド・システムを効果的に使い、NVH、快適性の基準をプレミアム・ブランド並みに引き上げているのだ。仮に筆者がエライひとであったなら、ゴルフ第8世代殿を屋敷に呼び、こう称賛するであろう。
面をあげい。もそっとちこう。こたびは見事である。今後は、プレミアム国民車を名乗られよ。こと小型車の分野においては、ドイツ御三家にあらず。ドイツ四天王と申すべし。あっぱれである。
ははぁ。恐悦至極に存じまする。
残念ながら筆者はエライひとではないので、以上は単なる妄想に過ぎないわけですけれど、新型ゴルフが価格も含めて、プレミアム・ブランドにググッと近づいたことは疑いない(後編に続く)。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)、フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン
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みんなのコメント
クルマは進化しても、自動車評論家の書き方は進化してない。
ネット社会なのだから、です。まず。口調の方が今の時代にふさわしい。
ゴルフはいいクルマだと思う。