四輪駆動に4気筒ターボエンジン
初代アウディS3は、時代を先取りした存在だった。現代のハイエンド・ホットハッチといえば、四輪駆動に4気筒ターボエンジンが定石。その両者を小さなボディに詰め込んだS3は、1999年にリリースされている。
【画像】現代に通じるパッケージ 初代アウディS3 同時期のS4 現行のS3とRS3 写真で比較 全102枚
先進的といえたパッケージングだが、20年前のモデルだということは隠さない。直感的なシフトフィールがうれしいマニュアルは、従来より1段多い6速ながら、当時のターボエンジンらしく明確なラグもある。
もっとも、ブーストが高まりパワーの波に乗る感じは、病みつきになるのだが。タービンの甲高い響きも悪くない。
初代アウディS3が搭載したエンジンは、1.8Lの4気筒20バルブ・ガソリンターボ。2001年までの最高出力は210psを誇り、それ以降、モデルチェンジされる2003年までは同じユニットながら225psへ増強されている。
アウディの高性能モデルとして、駆動方式は四輪駆動。一般的にクワトロと呼ばれているが、S3はフォルクスワーゲン・グループで共通して採用されていた、ハルデックス方式を積んでいる。
通常の走行時は前輪駆動で、フロントタイヤだけでは約不足な時にリアタイヤへもパワーが伝達される。燃費を向上させつつ、大きなパワーを効率的に路面へ展開することを可能としている。履いているタイヤが、ちゃんとした状態なら。
0-100km/h加速は6.6秒。現代でも不足ないダッシュ力を披露する。
ドライバーの興奮を誘うブースト圧の高まり
ちなみに、今回ご登場願ったダークグリーンのS3は、ドイツのチューニングガレージ、MTM社によるアップグレードを受けている。専用ECUで最高出力は250psを得ており、0-100km/h加速は6.0秒へ縮めているという。
ノーマルのS3でも、中回転域でのブースト圧の高まりはドライバーの興奮を誘う。ターボが本領を発揮すると、高まるエンジンサウンドに合わせて、爽快な勢いで路上を突き進みだす。
S3の車重は軽いとはいえず、ステアリングホイールの操舵感も重め。それでも高速でコーナーへ侵入すると、鋭敏とまではいえないまでも、充足感のある回頭性を楽しめる。
限界領域へ迫ると、コーナー外側のリヤタイヤが出口に向けてパワーを展開している感覚を掴めるはず。クワトロの効果だ。
サスペンションは、ホットハッチとして硬すぎることはない。郊外の道を意欲的なスピードで走るのに、適正なセットアップといえるだろう。それでいて、高速道路を淡々と快適にも移動できる。上級ブランドのコンパクトモデルらしく。
インテリアには高級感が漂う。製造品質は高く、素材の質感も悪くない。ダッシュボードの装備は20年以上前のクルマなことを実感させるものの、車内から受ける印象は変わらず良好。居心地がいい。
ラリーカー級の走りにグランドツアラーの快適性
初代S3は、ホットハッチの動力性能に、ラリーカーのような走破性とグランドツアラーの快適性が融合している。日常的に乗れる万能選手的モデルとして、レシピは今でも美味しいままだ。
当時のアウディらしい柔らかいカーブを持つ、クリーンでタイトなスタイリングも魅力といえる。むしろ近年の見た目より好き、という読者もいらっしゃるだろう。
中古車の価格は、後期モデルの方が高いことが一般的ではあるものの、全体の状態がそれ以上に反映する。英国市場を調べてみると、少なくないS3の中古車が流通しているが、状態は様々。かなり走り込んだ例も少なくない。
年式にとらわれず、しっかりメンテナンスされてきた例を選ぶべきという条件は、このモデルにも当てはまる。丁寧に比較して、ベストの1台を見つけたい。
新車時代のAUTOCARの評価は
鋭くコーナーへ侵入しアクセルペダルを緩めると、オーバーステアへ持ち込める。完璧なホットハッチとはいえないかもしれないが、魅力的であることは間違いない。
速く実用的でスタイリッシュ。運転で得られる興奮も小さくない。(1999年8月18日)
購入時に気をつけたいポイント
エンジン
アイドリングが不安定ではないか、滑らかに高回転域まで回るかを確かめる。マスエアフロー・メーターや点火コイル、ディバーターバルブの不具合が原因になりがち。
水温計の針が正常に動かない場合は、サーモスタットや温度センサーの不調だろう。始動時にクーラントの量が少ないと表示されるものの、リザーバータンクがフルの状態なら、ヘッダータンク部の水量センサーの故障かもしれない。
吸気マニフォールドに付くブリーザーパイプの状態を確かめる。バキュームパイプと一緒に、予防的に交換しても良いだろう。
トランスミッション
クラッチの繋がりを試乗で確かめる。走行距離が長い例では、スレーブシリンダーとクラッチ、フライホイールの交換を前提としておきたい。
サスペンション
足まわりを確認してブッシュが古いままなら、一式交換したい。前後のアンチロールバーのブッシュも同様。腐食が原因で、サスペンション・スプリングが折れることがある。タイヤは4本ともに同じ銘柄で、偏摩耗していないか観察する。
ブレーキ
ブレーキペダルの奥にあるブレーキセンサーと、ブレーキサーボ・パイプが不調になる場合がある。弱点の1つだ。
ボディ
ウインドウやドアの開口部を囲う、ラバーモール裏側で錆びることがある。ドアの下側も、確認しにくいもののチェックポイント。ルーフレール周辺なども錆びやすい。
積極的に運転されがちなホットハッチだから、事故歴も確かめたい。ボディの塗装が不自然だったり、パテが盛られていないか観察する。
インテリア
メーターパネルなどのドット表示が欠けていないか確かめる。エアコンは冷気が出るか実際に動かしてみる。グローブボックスなどのヒンジやラッチは壊れやすい。
専門家の意見を聞いてみる
アレックス・グリーン氏:フォンテイン・モーターズ社
「初代S3のパッケージングは、現代の高性能ホットハッチが共通して採用するモノに通じます。これが正しかったでしょ、とアウディも考えているでしょうね」
「既に20年以上が経過していますが、まだモダンな内容といっていいでしょう。クルマの状態を保つため、適正な整備が施されてきたかどうかは重要です。実際にシャープに走るかも、試乗で確かめたいところです」
「サスペンションはへたりますし、酷使されればエンジンもくたびれます。整備部品の入手はしやすいといえます。英国にはS3を得意とするショップも多く、熱心なオーナーズクラブも存在します」
「価格はまだ高騰していません。でも、望ましい例を探すことが徐々に難しくなってきました」
知っておくべきこと
初代S3は、2002年式から2003年式の方が15psほどパワフル。同じタイミングでフェイスリフトを受けており、新しいヘッドライトとテールライトなどを獲得している。インテリアトリムも、小さいながらアップデートされた。
アルミホイールは、年式を問わず17インチが標準。レザー仕立ての電動レカロシートに、スタビリティとトラクション・コントロールも備わっていた。
英国ではいくら払うべき?
3000ポンド(約48万円)~4999ポンド(約79万円)
走行距離がかなり伸びた、初代S3が英国では売られている価格帯。多くは20万km超えのようだ。事故歴や整備履歴、改造の内容などを慎重に確認したい。
5000ポンド(約80万円)~8999ポンド(約143万円)
走行距離が16万km以下のS3が出てくる価格帯。状態は値段が高いほど良くなる。
9000ポンド(約144万円)~1万1999ポンド(約191万円)
良好な初代S3を英国で探すなら、この価格帯から。
1万2000ポンド(約192万円)以上
走行距離が短く、キレイなS3を狙える。アウディに詳しい専門ショップが販売する例が多い。
英国で掘り出し物を発見
アウディS3 1.8クワトロ 登録:2003年 走行距離:8万500km 価格:1万2911ポンド(約206万円)
最終年式となる、225psのエンジンを積むフェイスリフト後の初代。走行距離は長すぎず、写真上ではショールーム・コンディションを保っている。イモラ・イエローのボディが鮮烈な印象を与える。ベストな初代S3をお探しなら、まさにコレかもしれない。
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