現在、ポルシェにおけるラインアップは多岐にわたる。
911、718ボクスター/ケイマン、カイエン、マカン、パナメーラ/パナメーラ・スポーツツーリスモ、そしてつい最近、初の量産EVとなる「タイカン」も発表された。
ポルシェ911は現在、24種類もある
そして、各ラインアップにおける「バリエーション」も増大した。
たとえば、911カレラを見てみよう。
911カレラ、911カレラS、911カレラ4、911カレラ4Sとそれぞれのカブリオレ、そして911カレラTもある。
さらにはタルガ、GTS、ターボ、GT系といったバリエーションを持つに至り、全部合わせるとなんと「24種類もの」911が存在するのだ。
カイエンの登場以後、ポルシェは変わってしまったのか?
話を少し前に戻したい。
ポルシェはそれまでも911以外のラインアップを持っていて、914や924、928、944,968といったモデルも作っている。
その後には経営状態が芳しくなかったポルシェを立ち直らせるきっかけとなった「ボクスター」も登場した。
ここまでのラインアップは、紆余曲折あれど「いずれもスポーツカー」だ。
だが、2002年に発表された「カイエン」は違う。
当時ポルシェは、過去に959をラリーに参戦させていたことを引き合いに出し、オフロードもポルシェのDNAの一部であり、カイエンは正しい血統を持つポルシェだと主張した。
オフローダーではあるが、レースというスピリットは持っている、と。
だが、世間はそう認識しなかったようだ。
カイエンはこれまでポルシェとは縁がなかった層を呼び込むことに成功はしたが、結果的にポルシェの中心的価値であった「レース」イメージを希薄にしてしまったとボクは考えている。
そして、いつの間にかポルシェもカイエンとレースとを関連付けることをやめてしまったようだ。
さらにその後、ポルシェは2009年にパナメーラ、2013年にはマカンを発表した。
そのマカンはポルシェにとって大きなヒットとなり、2017年においては世界販売246,375台のうち約97,000台を占めている。
カイエンは約64,000台で、911シリーズは約32,000台、718シリーズは約25,000台だ。
この数字を見る限り、ポルシェの屋台骨を支えるのはSUVである。
それは否定できない事実だ。
ポルシェはもともとスポーツカー”だけ”を作ろうとしていたわけではない
こういった現状を見て、多くのポルシェファンは嘆いていることと思う。
ポルシェはもはやSUVメーカーになってしまった、と。
しかしボクはそうは思わない。
ポルシェを設立したのはフェルディナント・ポルシェ博士だが、彼がスポーツカーを愛していたことは間違いないだろう。
ダイムラーに移籍して最初に設計したのものスポーツカーだったし、何よりも自分で自動車を設計しようと考えたのは「最初に周囲を見渡したとき、自分が夢見てきた”小型で軽量、高効率なスポーツカーはどこにもなかった。だから自分で作ることにした」と語っている。
だが、ポルシェ博士にはもう一つの側面がある。
それは、フォルクスワーゲン・ビートルを設計したことだ。
これはヒトラーの依頼という事情もあるが、その依頼に飛びついたのは「国民すべてが自動車を手に入れることができるように」というヒトラーの提案と、ポルシェ博士の持つ夢とが一致したからだとも言われている。
そして、その夢を実現させるのにヒトラーの提案は資金や各種便宜を含め「渡りに船」だったのだろう。
そう、ポルシェ博士はスポーツカーを愛する一方、広く自動車を普及させることをもう一つの夢としていたのだ。
これについては今となって立証することはできないが、ひとつのエピソードがここにある。
ビートルの生産が開始されたのは1938年だが、ポルシェ博士は第二次大戦終結後の1945年に戦争犯罪人として収容されることになった。
その後、息子であるフェリー・ポルシェ氏の尽力によって釈放されることになるが、ポルシェ博士は息子とともにビートルの工場を見に行き、完成して続々と工場から出てくるクルマを見るに、感極まって涙を流したという。
自分が設計したクルマが、これだけたくさん生産され、そして多くの人の生活を便利にするであろうという事実がポルシェ博士を感動させたのだ。
<小見出し:ポルシェ創業者の魂は今なお末裔にまで宿っている>
そして、最近ボクはひとつの動画を目にした。
ポルシェが公開した「Porsche Top 5 : Wolfgang Porsche’s most favourite cars」というタイトルだが、ポルシェ博士の孫であるヴォルフガング・ポルシェ氏お気に入りのクルマ5選、というものだ。
この動画の中で、ヴォルフガング・ポルシェ氏(もちろん今もポルシェの経営に携わっている)はこう語っている。
「993ターボが一番好きだ。このクルマがもっともシンプルでポルシェらしいから」。
このコメントは、ポルシェ博士が最初に自分でクルマをつくろうと決めたときのコメントに似てはいないだろうか?
さらにヴォルフガング・ポルシェ氏は今でもポルシェ博士が住んでいた屋敷に居を構えている。
父、息子、孫と三世代を経ても「シンプルなスポーツカー」が好きなポルシェ一族のことだ。
ポルシェ博士が理想的なスポーツカーの実現とともに抱いていた「自動車を幅広く普及させる」という夢が孫の代に至るまでDNAに刻まれていも不思議はない。
だからボクは、ポルシェがそのラインアップを拡大し、より多くの需要に応えようとするのはポルシェ一族の使命なのであろうと認識している。
そして、ポルシェがそもそもスポーツカーメーカーであると決めつけたのは消費者なのかもしれない。
ポルシェにおけるDNAのひとつがスポーツカーであることは間違いないが、同時に自動車を広め、人々の生活を豊かにするという願望もポルシェ一族の根底にあるのは間違いなく、そこを見落としてはならない、とボクは考えている。
[ライター・撮影/JUN MASUDA]
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