高温多湿な部屋では、カーペットや畳などにダニが繁殖します。クルマのなかはどうなのでしょうか? やはり、ファブリックシートやフロアマットなどにダニは発生するのでしょうか?
埃や食べかすを長い間、車内にそのままにしておくと……、考えただけでもゾッとします。
暑さの残る秋に要注意 高温多湿な車内まじヤバい! 意外に忘れてるクルマのダニ対策 やったほうがいい?
そこで、実際にダニが車内にいるのか、ダニ発見&退治キットを使ってテストしてみました。
文/高根英幸
写真/高根英幸、Adobe Stock(トビラ写真/Adobe Stock@crevis)
■高温多湿な車内にダニはいるのか?
蚊に刺されたわけでもないのに痒いときはダニを疑う。食べかすやチリが落ちているカーペットがダニの温床となっている。家のダニと同様、クルマのシートやフロアマットはダニは繁殖するのだろうか?(Adobe Stock@aijiro)
我々の生活の中には微生物の存在が欠かせない。発酵食品は乳酸菌や納豆菌、酵母や麹などの微生物によって作られているのは周知のことだが、医薬品やサプリメントの製造にも微生物は関わっている。そうしたヒトの生活に役立っている微生物もあれば、厄介な存在もある。
そんな微生物(厳密にはダニは微生物ではないようだが、素人から見れば微生物と同類と言えるほど小さいものだ)の中では最大級と言えるのがダニである。ダニは節足動物で蜘蛛の仲間だが、とても小さい。
ダニは自然界に4万5000種類も存在し、大きさも様々で小さいモノは0.1mm程度しかなく、肉眼でその存在を確認することは不可能だ。そして一般の家庭やクルマの中に住み着くダニは、大きく分けて3種類ある。
コナダニは、何かの粉に見えるほど小さなダニで、家庭では食品や畳などを餌にして増殖する。小麦粉などの保管に気をつけないと、容器内部に入り込んでしまい、増殖してアレルギーの原因にもなるようだ。チリダニと言われるヒョウヒダニもコナダニと同じくらい小さく、ヒトの垢やフケ、髪の毛などや他のダニの死骸や糞、埃などを餌に増える。
ツメダニは、コナダニやヒョウヒダニが繁殖すると、それを餌にして増えるダニだ。ダニの中にも食物連鎖があるのだからおもしろい。ヒトの皮膚に噛みつき、湿疹などを引き起こすイエダニはネズミに寄生して運ばれるので、ネズミが出ない家庭ならほとんどいないようだ。まれにツメダニも噛むらしいが、清潔にしていれば大丈夫らしい。
野山には動物の血を吸い、恐ろしい病原菌に感染させるマダニなど大型のダニ(最大10mm程度にまで膨張する!)もいるが、家庭やクルマの中に住み着くことはなさそうだ。
ともかく、人が起こすアレルギーの実際の原因の80%はダニによるものとも言われているから、我々の生活に相当な影響を与えているのは確かだ。
ところで「クルマの中にはダニはいない」という説が長い間、定説のようにまかり通っていた。というのも、ダニの餌となるヒトの皮膚や髪の毛、食べ物のカスなどはクルマの中にも落ちているし、カーペットなどダニが好む環境が整っているように思えるが、真夏は車内が高温になるためダニは死滅してしまう、というのが根拠だったのだ。
筆者もその説を疑いもせず信じてきた。それは今のように情報が豊富に伝わっているような状況ではなく、またダニを捕獲したり、ダニの存在を確認できるアイテムも手に入りにくかったこともある。
しかし情報化社会の今、ネットを漁ればダニ被害を防ぐアイテムも簡単に手に入るようになった。そこで本当に車内にはダニがいないのか、実験してみることにした。
■ダニ目視キットを車内に置いたら……
筆者は仕事柄、クルマで遠方に取材に行くこともあり、また家族でキャンプや車中泊をしてきたが、自宅はもちろん車内でもダニに刺されたという記憶はない。もちろんダニのアレルギーもないので、これまでダニに悩まされた、という経験はない。
したがって車内にダニがいる、という意識はないのだがまったくいないのか、それともある程度はいても生活に影響がないだけなのかは分からない。そこでダニ目視キットを使って、ダニが車内にいるか検証してみた。
ダニ目視キットの内容。15倍に拡大して見れるルーペやスマホ用のマクロレンズ、写り込みを防ぐ板なども揃っていて、素人でもダニをチェックしやすい 。価格はAmazonで935円
これはダニを引き寄せる誘引剤が塗られたマットを透明なプラスチックのカバーで覆い、隙間から侵入してくるダニを粘着シートでキャッチして保持、カバーの上からルーペやスマホでダニの有無を確認できる、というもの。
撮影用にスマホを乗せるための台(紙製)や、写り込みを防止して目視キットのマットを見やすくするための忍者レフ板、スマホカメラに取り付けるマクロレンズもセットされており、ダニの有無をAIが判定してくれるスマホアプリもダウンロードできるなど、
もちろんこれらはクルマ用ではなく一般家庭用なのだが、クルマ用のダニ退治用品など存在しないし、温度環境が家庭よりも幅広いくらいで、クルマに使えないということはなさそうだ。
ダニは暗いところを好むというので、目視キットをフロアカーペットの上に置いて、上から黒い不織布を被せて光を遮ってみた。
ダニが潜んでいそうな助手席の足元(食べかすが落ちている可能性大)にダニ目視キットを設置した。1週間置いてもダニは見つからなかったため、その後シート下へと移してさらに2週間置いてみた
最初は助手席の足元付近に置いて1週間様子を見たのだが、ダニを発見することができなかった。そこで続いてシートの下に目視キット本体を設置、そのまま2週間置いておいたところ…ようやくダニを発見。スマホアプリによるAI判定でも最大4匹を捕獲していた。
スマホアプリの「ダニAI判定」は、ダニ目視キットを購入すると無料でダウンロードできる。画面を目視キット本体に合わせて撮影すると、4匹のダニがいると判定された
ダニ目視キットで確認できたダニ。形状からツメダニと思われる。ツメダニだけが単独で存在することはないようなので、他のダニもいると思っていい
ツメダニは0.3~1.0mm。名前の通り、爪をもち、カーペットやクルマのフロアマットなどの繊維に潜んでいるという(Adobe Stock@KPixMining)
スマホのカメラをズームにしてさらにルーペを使って拡大してみたところ、ダニの種類を判別することまでできた。どうやら筆者のクルマにいるのはツメダニのようだ。
このツメダニは、さらに小さいコナダニの捕食者なので、もっと時間をかけて探せばコナダニも見つかる可能性は高い。やはり車内で飲食した際にこぼれたカスなどでコナダニが発生し、ツメダニも現れたと考えるのが正しい推察だろう。
ダニの数が少ないのは、このダニ目視キットを設置した2日後に、クルマで外出し、炎天下の駐車場に半日置いていたことも影響していそうだ。しかしそれは逆に考えれば「炎天下の車内でもダニは生き残る」ということを証明しているとも言える。
ダニは通常50~60度の気温で死滅すると言われている。布団乾燥機などの温風でダニを死滅させる機能があるのも、こうしたダニの特性を利用したものだ。冒頭の「車内にはダニはいない」という説は、こうした環境から生まれたものだが、正しくはなかった。
■ダニを根絶することは不可能、ならばどうする?
車内温度がどれだけ高温になっても、すべての空気が同じ温度になるわけではなく、温められた空気は上へと登っていくから、車内でも上部のほうに熱い空気が集まっていくことになる。
それによって下層の空気も温まっていくから、シートの下の空間やわずかな隙間などは対流の影響を受けずに若干低い温度のまま維持される空間もあるハズだ。
つまりダニはクルマの中で温度変化によって増減を繰り返している可能性が高い。そしてダニは1匹が半年で1万匹にまで増えるといわれるほど繁殖力が高いので、環境が整ってしまうと急激に増えてしまうことは避けられない。
頻繁に掃除機をかけるのはもちろん、ダニを捕集するケミカルを利用しても、繁殖は別の場所で行われていることを考えれば、ダニの絶対数は抑え込めても、完全に根絶させることはできないことになる。
つまり完全に退治することはできないから、真夏が過ぎてから、特に暑さの残る9月~10月には、またダニが増殖する状況になりやすいので、ダニが気になるオーナーはダニ退治のケミカルを設置することをお勧めする。それによって増殖した際にも、絶対数を抑え込むことができるハズだ。
今回はダニ取りロボとブラックホールの2種類を購入してみることにした。ダニ取りロボは実績もある商品だが、ダニがどれだけ取れたかは分からないし、置く場所によっても効果に差がある可能性があるので、今回は設置完了でヨシとした。
ダニ取りロボ(写真左、Amazonで1729円)とブラックホール(写真右、2個入り1100円)。どちらもレビューでは高い効果を実感されているだけに、効果は期待できる。今回は置き場所を変えて、両方設置してみたが、どれだけ取れているかはわからなかったので評価はしないことにした
住宅用のカーペット用クリーナーを利用してダニの繁殖を抑える、というやり方もある。ダニ抑制効果を謳うクリーナーを手の届く範囲で散布して取り去ることで、ダニも一緒に除去できる。
ダニが住み着きにくいということだけで考えるなら、駐車場の環境は屋根のない方がいいのかもしれないが、クルマの内外装にダメージを与えるからそれは理想的とは言い難い。
やはりクルマの中は2週間に一度は掃除機をかけて、屋根のある駐車場に保管するほうがクルマのためにはいい。車内を家庭の延長と思うか、単に隔絶された屋外かと思うかで、クルマの扱いや清潔ぶりは分かれることになりそうだ。
クルマの中での飲食は避けようと思ってもコロナ禍の現在、店舗で食事するよりテイクアウトしてプライベートな空間でゆっくりと食したいと考えるオーナーも少なくないだろう。その際は、シートやフロアマットにこぼしたお菓子や埃、チリなどはダニの格好の餌になっていることを忘れずに。
人間よりも長く地球に生き続けている先輩のダニを完全に排除することは不可能なのだから、繁殖期である春から秋までは増殖を抑えるために対策することが、快適な生活のためには重要なのかもしれない。
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