“点線国道”と呼ばれる道路の存在をご存じだろうか。国道でありながら、車両通行ができない区間を指すものだ。有名なものでは国道339号線の一部(青森県)が階段歩道のみで結ばれており、「階段国道」と呼ばれている。ほとんどの場合、道路幅が狭い峠道で徒歩での通行を余儀なくされることから、“酷道”とも称される。
ちなみに国道は、道路法に基づいて国が指定するもの。国が管理しているように思われがちだが、実は各都道府県が管理を行っている場合もある。車が通れない点線国道、その“道なき道”の手前、車で通れる最終地点はどうなっているのか? 今回、点線国道のひとつに実際に出向き、その道路環境を調査した。
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文・写真/大音安弘
「道なき道」 長野県の山間にある点線国道へ
向かうは国道152号線。長野県上田市から静岡県浜松市を結ぶ国道で、静岡県と長野県の境にある青崩峠と長野県の地蔵峠の2か所が点線国道となっている。今回は、飯田市と大鹿村を結ぶ地蔵峠の点線部分に飯田市側からアクセスしてみた。
国道152号線の点線区間を目指し、中央道・松川ICを降り、市街地を抜け、崖っぷちの細い区間を含む県道251号線をひた走る。
さらにいくつかの集落を抜けると、南アルプスにも近い山岳部であるため小川路峠道路という全長6kmの長いトンネルに繋がる。これが自動車専用道路として整備が進む三遠南信自動車道(国道474号)の一部区間である。
この道路が完成すれば、長野県飯田から愛知県新城市を経由し静岡県浜松市までスムーズなアクセスを可能となる。
そのトンネルを抜けると程野インターチェンジがあり、目指す国道152号線と直結。ただインターチェンジといっても分岐があるだけ。その国道152号線を大鹿村方面へと進む。
「通行不能」標識の先には意外な光景が!
冒頭の「152号通行不能」標識の分岐。どう考えても左側が“国道っぽい”が、本物の国道はハスラーがいる右側の狭道だ
そのインター下りてすぐの案内標識で飛び込んできた文字は、「152号通行不能」という、この先の難所を連想させる言葉……。
常識人なら、まずここで引き返すだろう。ただ今回は調査が目的。ひるむことなく突き進む。
ちなみに大鹿村には、この分岐で大鹿方面に向かい「蛇洞林道」を通ることで到達可能だ。我々は、中央線のない細道となった152号をひた走る。右に山林、左に河川と、雰囲気はまさに林道だ。途中には落石注意の標識も見られ、そうそうに通行不能となることが予測された。
標識から「国道152号線」を進むと、早くも落石注意の看板が……
ところが……、10分ほど行くと、急に道が開け、中央線のある2車線道路が出現。この展開には、取材班も戸惑った。
河川敷に目を向けると、意外にも立派なキャンプ場が出現! 先ほどの「通行不能」という標識からは、予期しなかった展開である。どうも「大島河原河川公園オートキャンプ場」というらしい。
なぜか道が急に開けた!? 道路脇には「国道152号線」を示す標識も!
調べてみると「標高1000mの水辺で、夏でも快適に過ごせる環境が自慢」とあり、シャワーやランドリーまで備える近代的な施設であった。こんな施設があるなら、先ほどの標識は……と、正直思いつつも、先を急ぐ。
道はついに舗装路から砂利道へ
キャンプ場を過ぎると、道は再び急激に細くなり対向車とすれ違うどころか、1台しか進めない幅となった。さらに道路脇には「冬期通行止め」の看板と封鎖用のゲートも設けられ、いよいよ点線国道の迫りを感じさせた。
やはり、通行量が限られるらしく、道路上には落ち葉や木の枝などが散見させるように。また道自体も上りが続き、さらにブランドコーナーが多くなってきた。
木の枝が無造作に落ち、通行車がいないことを示すかのような道。すれ違いは出来ない幅員だ
道幅が細く、ガードレールさえない区間もあるため、対向車の出現やUターンを考慮し、コーナー先を徒歩で確かめながら、車を進めた。
回り込むようなコーナーに出くわすたびに「ここまでか」と思いつつ、車を降りて、歩みを進めると、意外にも先に進めてしまう。
そんなことを繰り返して15分程進むと、ついに路面は舗装路から砂利道へと切り替わった。道の傾斜もきつくなったが、路面状態はさほど悪くなく、山並みにへばりつく様な道路を進む。
写真、手前が舗装路と砂利道の境。ここからはグラベルの「国道」だ
ついに終着点到着! ここが点線国道の始まりだ!!
そこから7分くらい進むと、急に道が開けた、というか広い河川敷に出た。その先に目を向けると、ブルドーザーが道を均した跡があり、どうやらここがゴール。つまり、ここが「点線国道」の始まりというわけだ。
ここが車で行ける国道152号線の最終地点。思いのほか明確に、車両が通行できる道は途切れていた
ただ、点線国道は、道自体は存在するというが、152号線については、獣道に近い様子。ここが車で通れる最終地点となる。
マップで測ると冬季通行止めとなる区間の全長は1.2kmほど。このまま河川敷を進めば地蔵峠の側の152号へとアクセスできるようだった。
車道がここで止まった理由は? 背景に潜む歴史ロマン
別アングルから見た国道152号線の車で行ける最終地点。この先は徒歩でしか通行不可。正直、どこが道なのか判然としないが、川沿いが“点線国道”として、地蔵峠まで国道となっている
しかし、152号線は、この地点から点線国道となっているのだろうか。
この区間を管理する長野県飯田建設事務所に問い合わせてみると、国の道路計画については不明とのことだが、道路自体は、1970年に国から長野県へ管理が移管された当時のままで、道路の延長は行っていないという。
今でも週に一度、道路パトロールを行っているそうだが、「今まで対向車に出くわした経験はない」とのこと。つまり、この道路を走る車はほとんどいない。また「徒歩を含め、利用者は釣り人くらいに限られるようだ」とも教えてくれた。
そんな国道152号の歴史を振り返ると、なんと縄文時代から信州に太平洋側から塩を運ぶ「塩の道」として活用されてきたという。
戦国時代には、武田信玄が上洛(この時代は京都)を目指し、進軍した街道でもあった。つまり、この地の人々の生活と結びつきの強い道路だったのだ。
それが国道として道路計画に含まれたが、山間部を自動車が通り抜けるため道路として作り上げることが困難だと判断され、当時の技術で可能な部分までが自動車の通行可能な道路として整備され、そのまま現在に至るということのようだ。
現在は、先にも述べたが、その先には林道を使えばアクセスが可能なため、道路計画が進むことがはなく、より広域を早く結ぶ三遠南進自動車道の計画が進められている。
点線国道の背景には、このような歴史ロマンも潜む。
実際に出向いてみる冒険も魅力だが、その背景を調べる面白さがあるのも点線国道の奥深さといえるだろう。
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