プラットフォームは7代目と同じMQB
text:Greg Kable( グレッグ・ケーブル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
フォルクスワーゲン・ゴルフが生まれたのは1974年。それから45年後、ゴルフは世界で最も多くの台数を販売するモデルとなった。これまでに3500万台以上が、世界中の道を走り回っている。
フォルクスワーゲンは歴代ゴルフの刷新には相当真剣に取り組んできた。モデルチェンジ毎に丁寧なアプローチを取ることで、欧州では最も競争の激しいカテゴリーで優れた評価を維持している。過激な変化を求めず、着実な進化を7回も重ねてきた結果だといえる。
8代目へと生まれ変わったゴルフだが、エンジニアリング面で見ると完全な刷新ではなく、大改修版に近い。剛性を向上させているものの、7代目と同様に前輪駆動のMQBプラットフォームを採用してい
る。
ボディデザインは先代より個性が強められている。目力の強いLEDヘッドライトは、従来から大きく趣向を変更。随分低くなったフロントノーズの中でも、多くの意見が寄せられる部分となるだろう。
新しいゴルフは7代目と同じホイールベースを持つが、全長は29mm伸ばされ、全幅で10mm、全高で4mm大きくなった。前面の面積は大きくなったものの空気抵抗は減らしており、先代のCd値が0.30だったのに対し、8代目は0.27に改善している。ボディは5ドアのみだ。
ライバルモデルと差別化を図るオプションとして、フォルクスワーゲンIQライト・パッケージが用意されている。オートマティック・メインビームにストロボのように光るウインカー、専用のLEDテールライトなどが装備される。
2020年中には324psのゴルフRも
ボンネットのガス・ストラットは採用が見送られた。フォルクスワーゲンはコストカットではなく、ボンネットラッチが2点式になったことが理由だとしている。ボンネット裏面もボディカラーではなく、黒色で統一。生産の合理化を進めていることは明らかだ。
8代目ゴルフには当初から、電圧48Vによるマイルド・ハイブリッドを採用したガソリンターボ・エンジン、eTSIが3種類、ガソリンエンジンによるプラグイン・ハイブリッド(PHEV)が2種類ラインナップされる。
eTSIは、1.0Lの3気筒ターボは90ps。1.5Lの4気筒ターボは130psと150psに設定。マイルド・ハイブリッド化により燃費は10%向上したという。
PHEVは1.5Lの4気筒で、電気モーターはトランスミッションに内蔵。パフォーマンス重視のGTEグレードの場合、150psと33.2kg-mを発生させる。2020年に英国に導入されるのはこのGTEグレードとなる。
リチウムイオン・バッテリーの容量は13kWh。EVとして走行可能な距離は59kmで、先代より50%ほど伸延した。スターティング・グレードとしては、114psと150psの2.0L 4気筒ディーゼル、TDIも用意される。
トランスミッションはエンジンによって6速マニュアルか7速デュアルクラッチAT(DCT)が組み合わされる。前輪駆動が標準だが、一部のグレードには4輪駆動の4モーションも選べる。
2020年中には、GTiやGTD、Rモデルも追加となる予定。8代目ゴルフRには、先代からアップデートを受けた2.0L 4気筒ガソリンターボ・エンジンが搭載される見込み。最高出力は324psとなるようだ。
革新的に新しくなったインテリア
先代を確実に超える必要のあるゴルフ。8代目も目標を達成したことは、車内に入った瞬間にわかる。大幅に刷新された実用性の良いインテリアから、競争力が今後も維持する決意が伝わってくる。
弧を描く10.3インチモニターによるメーターパネル、イノビジョンが真っ先に目につく。インテリアのデザインは革新的な新しさを獲得し、若い層のドライバーにも響くだろう。ダッシュボード中央では、インフォテインメント・システム用の8.25インチか、オプションの10.0インチのタッチモニターが存在感を示す。
ステアリングホイールもマルチ・ファンクションとなり、運転環境は新鮮に感じられる。雰囲気はどこかフォルクスワーゲンの最新EV、ID.3にも近い。クルマを数mも走らせれば、すべてが機能的だと実感する。
操作系がダッシュボードの上側に移動し、ステアリングホイール周辺にまとまっている。センターコンソールは大きく、DCTモデルの場合、スターターと電子ハンドブレーキ、ヒル・コントロールのボタン類と、バイワイヤー式のシフトノブがレイアウトされる。
独立したボタン類はとても少数。エアコンやドライビングモードを含めて、ほとんどの機能はタッチモニターで操作する。モニター下のタッチセンサーを指で左右に撫でる「スライダー」というインターフェイスで、ラジオのボリュームなどが変えられるが、補完するために音声認識機能も用意された。
ダッシュボードやドアパネルにはアンビエントライトが埋め込まれている。ゴルフとしては初採用となるヘッドアップ・ディスプレイなど、オプションも豊富だ。
インテリアの質感自体も良くなった。硬質なプラスティックも残っているが、多くのユーザーはダッシュボードの仕立ての良さや、素材の質感の高さを評価するだろう。インフォテインメント・システムのモニターの良好な反応や触覚フィードバックで、印象は一層高まるはず。
運転支援システムもアップデート
インフォテインメント・システムはMIBシステムの第3世代目。内蔵のeSIMによってインターネットに常時接続され、音楽データや交通情報などをリアルタイムで取得できる。
トラベルアシストを含む、運転支援システムもアップグレードを受けた。アダプティブ・クルーズコントロールと車線維持システムによって、209km/hまでの速度域で支援的な「ハンドオフ」運転が可能となっている。
さらに欧州での統一規格に基づいた、Car2X技術をフォルクスワーゲンとして初採用。周辺車両や道路インフラの情報を利用し、渋滞警告などをしてくれる。
ダッシュボードのデザインは先代から飛躍したとはいえ、運転姿勢やインテリア全体のパッケージには共通性が残る。フロントシートはサイドサポートもしっかりしており、ステアリングホイールの位置やシートの角度など、調整幅も大きい。
長くなったが走らせてみよう。今回試乗するのはマイルド・ハイブリッドの最強版となる1.5 eTSI。従来の内燃エンジンを支持する保守的な層にも、明らかなメリットを示す必要があるユニットだ。
150psの必要十分なパワーは5000rpmで得られる。回転は滑らかで、6400rpmでリミッターが掛かるまで気持ちよく吹け上がる。25.3kg-mの不足ないトルクは1500rpmから発生するから、日常的な運転で回転数を上げる必要はないだろう。スポーツモードを選ぶと、適度な活発さが加算される。
1.5 eTSIの0-100km/h加速は8.5秒、最高速度は223km/h。マイルド・ハイブリッドではない1.5 TSIの場合、0-100km/h加速は8.7秒、最高速度は217km/hと若干穏やかになる。
ベルト駆動される電圧48Vで作動するスターター・ジェネレーターは、エネルギーの回生やコースティング機能、アイドリングストップ機能などを賄う。7速DCTは発進も更にスムーズになった。
熟成度が大きく高まった走行性能
8代目ゴルフの走行性能は熟成度が高まった。漸進的な操作性、バランス、正確性で磨き込まれている。特に操作に対するダイレクト感が強まった。7代目の穏やかだったクルマに慣れている人にとっては、少し驚きかもしれない。
運転を積極的に楽しみたいドライバーにとっては朗報だ。フォード・フォーカスやマツダ3などと伍するダイナミクス性能での魅力を備えている。
先にも触れたが、プラットフォーム自体は先代と同様。ベーシックグレードのサスペンションはフロントがマクファーソンストラット式、リアがトーションビーム式となる。だが今回の試乗車、1.5 eTSIなどの上位グレードの場合は、リアがマルチリンク式になる。
標準ではダンパーは通常タイプだが、ダイナミック・シャシーコントロール(DCC)のオプションを選択すると、アダプティブダンパーも装備できる。エコ、コンフォート、スポーツ、インディビジュアルの4モードから設定が可能。
試乗車にはプログレッシブ・ステアリングが搭載されており、標準モデルの固定レシオは試せていない。だがその操舵感は非常に正確で直感的なもの。切り始めで特にクイックさを増しており、手のひらに伝わる情報量も明確に増えている。
フィードバックでは勝るライバルがあるものの、緻密な感覚があり信頼感が高い。コーナリングでの自信は一層高くなっている。
旋回時にアクセルペダルを踏み込んでいくと、徐々に遠心力が増えると同時に、前進方向への動きも増していく好印象な姿勢制御を披露。コーナー出口の早い段階で加速モードへと移っていけるから、楽しい以外の何ものでもない。
オプションのアダプティブダンパーの乗り心地も秀逸。路面の入力に素早く反応し、足回りの動きを吸収してくれるから、車内の上下方向の動きはとても穏やか。コンフォートモードではしなやかな乗り心地が味わえる。英国の傷んだ路面でも試してみたいところ。
ゲームを優位に運べる実力を維持
スポーツモードを選択すると、先代よりぐっと引き締められた印象。クルマのレスポンスを高めながらも、充分な柔軟性も保てている。ただし、コーナーリング中に鋭い起伏があった場合などは、アウト側のタイヤに強めの衝撃が生じることはあるようだ。
全体的に高められた機敏な身のこなしに、気づかない人はいないはず。加えて直進性も向上しており、高速道路での運転は安楽。ロングギヤでエンジンを静かに保てるうえ、空力特性も良くなったことで風切り音も大幅に小さくなっている。
ライバルの実力も向上する中で、ゴルフの優位性は以前ほど大きなものではなくなってきている。しかし8代目は、確実にゲームを優位に運べる力を付けてきた。
インテリアの質感やダイナミクス性能、コネクティビティも備えたデジタル技術など、需要な部分はしっかり引き上げている。マイルド・ハイブリッドを獲得した駆動系の洗練性や基本性能の高さに加え、シャシーは熟成され、あらゆるシーンでバランスの良い満足感の高い走りを味わわせてくれる。
フォルクスワーゲンの主張を信じるのなら、グレードを問わず、燃費や二酸化炭素の排出量も大きく改善しているはず。
1つ気になるところは、ほぼすべてがタッチモニター化されたインテリア。操作性は確かに優れている。だが若い層には受けても、多くのユーザーにとっては少し先進的過ぎるように感じられるかもしれない。
シンプルで明快という、伝統的なゴルフが重んじてきた特徴には少し反するように思うのだがいかがだろう。8代目がどう評価されるのか、これからが楽しみだ。
フォルクスワーゲン・ゴルフ1.5 eTSIのスペック
価格:未定
全長:4284mm
全幅:1789mm
全高:1456mm
最高速度:223km/h
0-100km/h加速:8.5秒
燃費:-
CO2排出量:-
乾燥重量:-
パワートレイン:直列4気筒1498ccターボチャージャー+ISG
使用燃料:ガソリン
最高出力:150ps/5000rpm
最大トルク:25.3kg-m/1500rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック
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