メルセデスベンツがF1で培った技術も投入したコンセプトカー「EQXX」を発表した。各部を徹底的に突き詰めて、空気抵抗係数0.17、マグネシウムなどを使用して徹底的に軽量化したシャシーなど、コンセプトカーならではの技術のデパート状態となっている。
もちろん高額なものになるので、どこまで市販車に落とし込まれるかは不明だが、メルセデスベンツが目指す高級車のEVはこうだ……という提案だと考えられる。
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今回はこのEQXXが技術的にどう凄いのかということだけでなく、世の中EVの航続距離は多いほうがいいという流れにあるが、価格と航続距離の折り合いをどうつけるべきとメーカー(日欧米問わず)が考えているのか? 長距離を走れるEVが本当に21世紀に求められるエコなのか? ということについても考察していきたい。
文/御堀直嗣
写真/Mercedes-Benz
■メルセデスベンツの次代への挑戦する姿を示したEQXX
2022年1月、メルセデスベンツが発表したEV構想『VISION EQXX』
メルセデスベンツは、年明けに、ドイツで電気自動車(EV)の将来ビジョンを発表した。「EQXX」と名付けられた構想は、EV時代を迎え、その将来像をより明らかにし、そこへ向けて挑戦していく姿を明確に示したといえる。
具体的な諸元は、100kWh(キロ・ワット・アワー)のバッテリー容量で一充電走行距離1000kmを目指す。それだけの大容量バッテリーを車載しながら、車両重量は1750kgに収める。モーターの最高出力は150kW(約204馬力)だ。
驚くべきは空力性能で、空気抵抗係数Cd値0.17である。いかにも高速走行を前提とするドイツ車ならではの空力数値だ。ちなみに、アウディの「e-tron GT」のCd値は0.24である。
EQXXの写真をみると、流れるような外観の造形でクーペのような姿だが、それでも4ドアである。欧州には4ドアセダンの価値が変わらず残されており、もちろんメルセデスベンツのフラッグシップはSクラスやマイバッハであるから、将来を見据えた概念を示す車種でも4ドアであることは重要なのだろう。
クーペ風セダンとして発表されたEQXX。SUVが人気なのは欧州も同様だが、4ドアセダンの価値も変わらず残されている
そして、EQXXの姿をみて思い出すのは、2010年にフォルクスワーゲンが挑戦した1リッターカーと呼ばれた「XL1」というクルマだ。
燃料1リッターで100kmを走れる性能を1L/100kmと燃費表示し、このため「1リッターカー」と欧州では呼ばれる。VWのXL1も、ドイツ車らしく高速走行での空力性能を求めるためクーペのような外観の造形で、Cd値は0.186だった。動力は、ディーゼルプラグインハイブリッドである。
話がややそれたが、メルセデスベンツがEQXXを構想した背景として語るのは、クルマでの旅という価値の存続だ。アウトバーンを含め道路網が整備された欧州ではとくに、クルマで自由に移動することが普遍的価値となっている。
もちろん、飛行機や鉄道といった長旅の手段はあるが、クルマでの自由な移動に対する根強い要求がなおある。それを、EV時代にも実現するという意志がEQXXに込められている。そこに、技術的挑戦の具体像も明らかになってくる。
また、一充電で1000km走行できるクルマ側の性能目標が明らかになれば、充電網という社会基盤側の整備計画も具体像を増していく。
急速充電器の性能や、設置の充実はもちろんだが、旅先での普通充電の価値も改めて見直され、目的地充電として仕事先や宿泊先などの施設に対し、どのように対処すべきかの指針が具体的になっていくはずだ。
■モータスポーツに参戦するからこそ培われる高い開発力
メルセデスベンツは、世界で最初にガソリンエンジン自動車を発明したメーカーとして常に業界の先駆者であり、かつ将来への道筋を明らかにしていく自負を示してきた。そういう自動車メーカーの未来の姿の具体化は、社会への影響力も大きい。単に性能競争だけに陥ることのない、企業としての成熟した姿がある。
性能目標を具体的に示したEQXXの開発には、モータースポーツのパワートレーンやグランプリレースに関わってきた技術者たちが取り組むことになるという。
メルセデスベンツに限らず、自動車メーカーがモータースポーツに取り組む理由のひとつは人材育成だ。
レースやラリーなどの競技は、年間を通じて数週、あるいは数カ月の間隔で競技が開催され、タイトル争いを行う。したがって、迅速な開発力が求められる。負けたレースの次には勝てる技術を投入しなければ、負け続けることになり、企業イメージさえ落としかねない。
そこでの開発力とは、新たな構想や、素早いモノづくりの両面がある。また競技の場での臨機応変な対応力も求められる。単に前より優れているというだけでは勝てない世界なのだ。
もうひとつは、頂点といえる最高の性能をまず目指す開発が行われる。壊れるところまで行き着くことをまず求めるのだ。壊れるところまで性能を出し尽くし、そこから少し性能を下げることで耐久性や信頼性を手に入れ、ゴールできる領域に落とし込む。それがモータースポーツ車両の開発の仕方だ。
量産車の開発でも、似た側面はあるはずだ。しかし、既存の市販車が存在する以上、それより優れているかどうかや、原価をどれくらいに抑えなければ儲けが出ないかといった視点も同時進行されるので、殻を破れないもどかしさもある。
EVは、燃料に代わるバッテリーや、電力補充のための充電など、これまでのエンジン車開発とはまったく違った概念や使い方で普及させなければならない。
そこは、モータースポーツで車両規則が変わったら一から考え直さなければならないのと同じで、モータースポーツ経験のある車両企画者や技術者が適任といえるのである。
F1に繰り返し挑戦してきたホンダも、F1への挑戦は人材育成であると語ってきた。メルセデスベンツが、グループCやル・マン24時間レースへの挑戦、そして現在のF1を戦い続けるのも、時代の変革期にこそ、モータースポーツで鍛えられた人材が威力を発揮することを知るからだろう。
充電一回あたりの走行距離1000kmなど、具体的な諸元も発表された。長大な走行距離には大容量バッテリーが不可欠だが車重は1750kgに収めるという
■長距離を走れるEVだけが答えではない! 21世紀に求められる移動の意識改革
そのうえで、EV時代を迎えるにあたり、クルマでの移動の自由という概念を再度定義づける必要があると私は考える。道があれば、いつでも、何処へでも、個人の意思で自由に移動できる。それがクルマの価値とされてきた。
しかし、道路といえども社会基盤であり、極論すれば道のない土地へは4輪駆動車のような未舗装路の走破性を備えた車種でしか行けない。漠然とした移動の自由というだけで解決しえない時代が到来している。
理由は、人口増加だ。20世紀から今日にかけての100年あまりで、人間という生き物が5倍近くに数を増やした。それによって、省エネルギーでは済まされないほどの消費が進んだのである。
同時に、都市化が進み、人口密度が高まり、混雑が増えた。また永年にわたり整備が進められてきた道路網という社会基盤は、改修が必要なほど痛み出している。年月という時間的経過だけでなく、大量のクルマが走行することによる痛みもある。それらを修繕するには膨大な費用と時間を要する。
人も物も、移動の仕方を見直す=モーダルシフトの考えが21世紀には不可欠だ。単に公共交通機関とクルマをつなげた移動というありきたりの形態だけでなく、鉄道に超小型EVを載せて移動することで、ドア・トゥ・ドアのクルマの利便性を維持しながら、クルマだけで道路を走るのとは違う考え方があるかもしれない。
一充電あたりの走行距離を伸ばすのも重要だが、移動の新しい形を示せるのかもEVの大事な役割になっている
船舶ならフェリーが存在する。クルマから一旦鉄道などに乗り換える場合でも、EVなら車両のドア脇まで横づけにすることもできるだろう。排出ガスを出さないので、屋内も走り続けられるからだ。
荒唐無稽と思える発想かもしれない。だが、従来は考えもしなかった手法での自由な移動を摸索すべき時代を迎えようとしている。それによって、必ずしも一充電走行距離が1000kmなければ自由な移動ができないといったEV目標から離れられるかもしれない。
それこそが、SDGs(持続可能な開発目標)が求める未来像だ。EQXXの性能は、まだエンジン車時代の移動の構想から抜け出せていないと感じる。
これまで誰も想像しなかった個人的な自由な移動の姿を、EVなら生み出せるだろう。そこが、EVの大いなる価値なのである。
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みんなのコメント
このレベルが小型車で出て来たら絶対BEVに乗る
だんだん地盤沈下で沈んでしまうね