国産車と輸入車ではコストのかけ方が異なる
以前からクルマ好きの間で、欧州車のシートは優れているけれど、日本車のシートはチープでかけ心地がイマイチ……なんて言われていたものだ。実際、これまで輸入車と国産車を20台以上乗り継いできたボクの個人的な印象でも、やはり輸入車のシートは優れていることが多いと感じている。
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とはいえ、日本車でもマツダ車は以前からシートのかけ心地の良さに定評があった。とくに、つい最近、マツダ3から採用を始めた新骨格シートは、上半身のサポートは自然なのだが、お尻をグッと沈み込ませ、腰回りをやさしくサポート。これまであまり経験したことがない感覚の着座感が得られ、高速レーンチェンジや山道走行でも、上半身に自由度がありつつ、しかしお尻と腰がしっかりとホールドされ、なおかつ頭の動きは最小限。つまり、視線の無駄な動きも少なくなるため、長距離、長時間の運転(乗車)でも、疲れにくくなるのである。
が、クルマのシートを語るとき、自身とシートの相性も忘れてはいけない。上記のマツダ3や、同じくお尻を沈み込ませ、自然なサポート感を得る着座感が自慢の新型フィットのシートもそうだが、体重65キロのボクだと、ファブリックシートなら、開発陣、シート設計者の説明どおりのかけ心地の良さ、サポート感、疲れにくさを実感できるのだが、レザーシートになると、表皮の張りの硬さから、体重によるサポート性が得られにくく、そうは感じにくかったりするのである。硬めの張りのレザーシートでも、体がグッと沈み込む、それなりの体重があれば、その恩恵に預かれるかもしれないのだが……。
シートとの相性という点では、現在乗っているVWゴルフ7のスポーツシートがじつにしっくりと体にフィットし、長時間の着座でも疲れにくく、ホールド性の良さと合わせ、これまで乗ってきた国内外の愛車の なかでベストと言えるシートだと思っている。決して上級車、高級車ではないが、やはりドイツ車のシートは、ゴルフのようなベーシックカーでも、とてもよく出来ている、という一例である。
さて、国産車のシートについて話を戻そう。国産車のシートがプアといわれてきた理由のひとつが、椅子に座って暮らす文化が欧米に比べて短いこともあるだろうし、また、コストのかけ方ではないだろうか。日本で使う日本車の場合、ロングドライブといっても距離は知れている。欧州のように、国境を超えてバカンスに出かけるような超ロングドライブの機会は少なく、また保有(着座)期間も比較的短いため、シートも長時間座って、使ってどうかより、コストが最優先され、及第点のシートでも問題なし、と考えられていたのかも知れない(ダンパーもしかり!?)。
後席についても同様で、高級セダンはともかく、シートアレンジ優先のユーティリティカーやファミリーカーは格納のしやすさが大前提。できるだけ低く、フラットに格納したいがために、クッションを薄く作らざるを得ないのは、本来、座るためのシートなのだから、本末転倒というべきではないか、と突っ込みたくなる。
ここでひとつ、面白い例を上げたい。
シエンタの2列目席とFUNBASEの後席はかけ心地に差がある
人気のコンパクトミニバン、シエンタには、今では3列シートのシエンタと、2列シートのFUNBASEがラインアップされている。が、シエンタの2列目席とFUNBASEの後席を座り比べてみると、FUNBASEのほうがかけ心地がいい。理由は、3列シートのシエンタの場合、3列目席を2列目席下にすっきり潜り込ませるアレンジを組み込んでいるなど、2列目席のクッションに厚みを持たせにくいからのようだ。実際、両車の2列目席の骨格は別物で、後席のかけ心地に優れるのは、3列シートのシエンタほどの凝ったアレンジを持たないFUNBASEのほう、というわけだ。
具体的にはクッション構造が異なり、シエンタ=3列シートの2列目席は鉄ワイヤでクッションパッドを受け、ウレタンフォームのたわみでクッション感を出す一方、FUNBASEの後席は伸縮スプリング付ワイヤでクッションパッドを受ける、より座面がたわみやすくソファ感覚で快適に座れるコンターマット構造を採用しているのである。
国産車には、かけ心地そのものだけでなく、運転席のサポート性がプアなクルマも少なくない。しかしそれは、確信犯的なケースもあったりする。シートのかけ心地そのものは文句なしのハスラーなど、2列シートのクルマで車中泊対応が考えられているクルマは、前後席フラットアレンジで、できるだけ凸凹のないフラットなスペースを作り出したい。そのため、前席のサイドサポート部分を大きく張り出すような形状にはしたくないのである。まぁ、車中泊のしやすさを機能として取り入れているようなクルマのユーザーに、サイドサポート性をことさら求める、山道をガンガン飛ばすような人はまずない……と言われてしまえば、それまでですが。
ちなみに国産車の名誉のために言っておくと、マツダ車のシートへのこだわりはすでに説明済みだが、最近のトヨタ車に、好みにもよるだろうけれど、背中を包み込むような心地よいかけ心地&サポート性を持つシートが増えてきているのもまた事実である。
繰り返すけれど、シートは座る人との相性があり、他人が最高にかけ心地がいいと感じても、自身にぴったり、しっくりくるかは別問題。最近、進化著しい国産車のシートも、できればショールームで短時間座るだけでなく、ある程度の時間、距離を試乗して、走行性能とともに、重点的にシートの座り心地をチェックすべきだ。クルマに乗っている最中、つねに全体重をあずけ、快適で安全な運転、正しく疲れにくい運転姿勢を決定づけてくれるのが、シートなのである。それが気に入らないとすれば、間違ったクルマ選びということになる。
そうそう、ファブリックシートのクルマに試乗してかけ心地に満足し、購入を決めたとして、しかし注文するのは思い切って(未試乗の)レザーシート……という買い方は、けっこう賭けかも知れない(とくに体重の軽いドライバー。もちろん、満足できるケースもある)。
国産車のシートはプア……そんな印象をいつまでも引きずるより、国産車を選ぶとしても、”自身に合うシートを探す”クルマ選びという考え方にシフトすれば、クルマ選びの選択肢が広がり、またより快適で充実したカーライフを送れるに違いない。それでも国産車に気にいったシートが見つかれなければ、椅子文化の長い輸入車をチェックすればいい。国産車、輸入車のどちらにしても、今のボクのように、かけ心地に大満足できるシートを持つクルマに出会えたとしたら、それは、それはハッピーではないか。
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