ポルシェブランドのメインモデルといえば、911。そしてシリーズ中、最強モデルに位置するのが最高出力650馬力を誇る911ターボSである。スペック好きに取ってみれば、もはやこれで十分ともいえる性能だが、さらにオープンという魅力を付け加えたのが911ターボSカブリオレ。トップ・オブ・ザ911ともいえる存在の刺激的な素顔とは。
誰にでも優しいスーパースポーツ
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少々古い話になるが、1970年代後半の日本列島を、子供だけでなく、大人まで熱狂の渦に巻き込みながら、まるで熱病のように蔓延していたスーパーカーブーム。その頃、私にとってのアイドルといえば早瀬佐近の2代目の愛車、ポルシェ930(911)ターボだった。主人公・風吹裕矢のヨーロッパでも、ハマの黒ヒョウのカウンタックでも、謎の極悪コンビの512BBでもなく、スーパーカーとしては少しばかり地味目のポルシェだった。中には「ポルシェは車高も高いし、4人乗りだし、くさび形でもないから、厳密に言えばスーパーカーではない」といったような、意地悪な言葉を投げかけてくる友人たちもけっこういた。
だが、そんなことはまったく気にはならず、ポルシェへの憧れは、日々強くなっていくばかり。その一因となったのは、ブームの少し前、幸運にも911E2.4だったと思うが、助手席に乗せて貰うという機会があったからだ。
ターボはまだ存在してはいなかったが、それでも初めて911に乗るというだけでも夢心地であった。現在の基準で見れば、わずか165馬力とはいえ、当時はかなりのハイスペック。フル加速の時に一瞬、気が遠くなるような感覚になったことや、シートベルトが肩に食い込むほど強烈に効いたブレーキの感覚は、いまでもはっきりと覚えている。それ以降ずっと、ポルシェは憧れのど真ん中にあった。当然、930ターボが漫画「サーキットの狼」に登場したときは、“待ってました!”とばかりに興奮した。
その後、早瀬左近の初代の愛車、911カレラRS 2.7(愛称、ナナサンカレラ)や930ターボを、仕事として実際に運転する機会を得たことで、911への憧れはさらに強くなっていった。また作者の池沢早人師(当時は池沢さとし)先生と何度となく仕事をさせて頂く中で、先生ご自身も911の潜在能力の高さに魅了され、これまで16~17台以上も乗り継いでこられたことを知った。スーパーカーブームでは少しばかり支持率で苦戦していた911が、なぜ世界中のカーフリークの憧れとして在り続けているのか?
その理由は実際に911をガレージに納め、12年間も付き合い続けてみて、よりはっきりと理解できた。RR(リアエンジン・リアドライブ)による強烈なトラクションを生かした加速感と、宇宙一などと比喩される強力なブレーキ。その走りの切れ味はまさにドイツの名刀、ゾーリンゲンもさながら。その走りはライトウエイトと呼べるほどの軽快さを持っていた。
子供の送迎からサーキットまで
一方で乗り心地がいいこと、実用的であること、そして運転がしやすく誰にとっても快適であるという素顔も併せ持っていた。その快適性はナローの時代から最新の8代目911、型式992において、等しく与えられている。さらにベーシックなモデルからターボに至るまで快適な乗り心地は共通している。その意味から言うと少々極端かもしれないが、ママが運転するターボSで幼稚園の送り迎えをすることだって、その帰りみちにスーパーでお買い物することだってなんの問題もなく出来てしまうのである。
ここでは650馬力のパーワーと800N・mの最大トルクを絞り出す水平対向6気筒3.8Lツインターボエンジンも8速のPDKトランスミッションも、最新のフルタイム4WDシステムのPTM(ポルシェ・トラクション・マネジメントシステム)も、極上の快適性と安全性を誇る幼稚園送迎車の個性となる。世界一刺激的な実用車が少々ハデなスタイルとともにママたちの日常の足ともなり得る。
この使いやすさを持って「911はスーパーカーではない」という人もいる。そうした意見の根底にあるのは特別感かもしれない。価格においても性能においても、人を寄せ付けない、敷居の高さがあってこそ、本来のスーパーカーと呼べるのである、という意見である。まんざら分からないまでもない。特殊なクルマを特別なスキルを持って操るからこそ、自己顕示欲や征服欲などを満足させ、特別な高揚感を得られる。911にはそれが希薄である、ということなのだろう。
だが実際に911ターボSで走り出してみる。乗り心地のよさ、扱いやすさの陰に潜ませた牙の、恐ろしいまでの鋭さを感じ取ることができるのだ。ミシリともいわないシャシの剛性感はオープンモデルでも健在で、瞬時にスポーツカーとしてのポテンシャルの高さを実感するはず。そしてワインディングを駆ければ、可変ダンピングシステムのPASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメントシステム)や、電子制御アンチロールバーのPDCC(ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロールシステム)などに支えられた極上のスポーツ走行を堪能できる。
その走りの実力はサーキットのこのまま乗り入れても十分に通用する。子供の送迎からサーキットまで使える車など、そうそうあるものではない。おまけにルーフまで開くのだから、これこそ本当のスーパーカーともいえる。だがここで勘違いして貰っては困ることがある。911はビギナーにも優しく微笑んでくれるし、未熟さにも寛容であり、独特の懐の深さを見せる。一方で、過信と無謀には、とてつもなく厳しい姿勢で対応してくる。これも911にずっと受け継がれてきたDNAであり、注意を要するポイントである。
大型のグリルを持つフロントマスク。走行モードに合わせ3分割で可動するチンスポイラーを装備。
大型のリアスポイラーがターボの外見上の特長。
ソフトトップの開閉所に要する時間は約12秒。50km/h以下であれば走行中でも開閉可能。
911シリーズの美点は、どの年代のモデルも操作性は快適で一瞬にしてサイズ感が掴めること。
+2でリアシートは子供用かエマージェンシー的な使用となる。
スッキリとレイアウトされたシフトレバー周辺の操作系スイッチ。
ステアリングホイールのセンター右下に装備された走行モードのセレクター。0~100km/h加速は2.8秒。
フロントフードの真下には深さのあるラゲッジスペス。
911ターボSのオプションとして用意されたエクスクルーシブデザインホイール。フロント20インチ、リア21インチと前後でサイズが違う。
(価格)
¥32,350,000(ターボSカブリオレ)
SPECIFICATIONS
ボディサイズ全長×全幅×全高:4,535×1,900×1,300mm
車重:1,710kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速AT
エンジン:水平対向6気筒ガソリンターボ 3,745cc
最高出力:478kw(650PS)/6,750rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2,500~4,000rpm
問い合わせ先:ポルシェ カスタマーケアセンター 0120-846-911
TEXT : 佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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みんなのコメント
自分の991GT2RSもスポーツカーだけど、スーパーカーでは無いと思う。