視覚障がい者が自分でステアリングを握って運転する
「一生に一度でいいから自分で実際にクルマを運転してみたい」そんな視覚障がい者の夢を実現するプログラムが世のなかに存在する。
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補助ブレーキが付いた自動車学校の教習車と同様の車両を使って、助手席にインストラクターが乗る。そのインストラクターがステアリングの舵角やアクセル、ブレーキのタイミングを知らせる。しかし実際に操作をするのは視覚障がい者であり、自身がエンジンをかけ、ハンドルを握り、アクセルとブレーキを操作するのだ。
今回このツアーの様子がメディアに公開された。ツアーの開催場所は栃木県にあるサーキットであるツインリンクもてぎ。その敷地内にあるアクティブセーフティトレーニングパーク(ASTP)や場内の各施設がその会場となる。9月20~21日の1泊2日の行程で、参加者は自身でハンドルを握り運転する体験を繰り返し行なう。
この企画を行うのはクラブツーリズム。海外旅行から国内旅行・バスツアーまで、多種多彩なツアーを提供する会社である。
この企画は、とあるツアーに参加していた視覚障がい者のそんなひと言から始まったものだ。そのツアーに同行していた同社の渕山知弘さん(現・テーマ旅行部ユニバーサル旅行センター課長)が、その夢を実現させるには、なにが揃えばできるのかを、5年ほど模索してたどり着いたツアーなのだという。
これまでに開催は10回を数える。当初は自動車学校で開催していたが、第3回目からツインリンクもてぎでも開催するようになり、第6回以降はずっともてぎでの開催である。
クラブツーリズムにバリアフリー旅行センターという部署ができて、来年で20周年となるという。多くが車イスを使用する参加者のツアーだが、2000年からは視覚障がい者向けのツアーも実施。これまでにロンドンやシドニーのパラリンピック観戦ツアーなどを企画。ツアーのなかには大英博物館で展示品を触るツアーなども組み込んだという。
このツアーは参加人数16名を上限として募集を募っている。毎回口コミだけでほぼ埋まってしまうという人気の企画だ。しかし、ツアー内容の質を重視するため、16名以上に増やすことはできないのだという。
この視覚障がい者の自動車運転ツアーも旅行商品であり、もちろんボランティアではない。顧客ニーズをくみ取り、毎回実施後に意見交換を行ない、改善もしている。筆跡が立体的になるもこもこペンで試乗コース図を描くことや、ハンドル位置を把握するためにベルクロテープを巻き付けるといったことも、 回数を重ねていって改善され、でき上がったものだ。
現在リピーターがツアーの約半数を占める。ほかの旅行商品にはありえないほどのリピーター率といえる。
また、ヘルパーとして各参加者に同行するのは、社員研修としてバリアフリー旅行研修を取り入れている近畿日本ツーリストの研修社員となる。
プログラムは、東京・上野駅からバスでツインリンクもてぎまで移動。初日の午後から走行がスタート。第2ASTPコースや南コースを使用しての周回走行、そしてインストラクターによる同乗走行、電動カート(モビパークにあるファンビークル)での走行体験。ほかにもホンダ・コレクションホールの展示車両に触れたりする機会も設けられる。二日目の午前いっぱいをもてぎで過ごし、バスで帰京して解散というスケジュールとなる。
取材陣も目隠しをして運転を体験
全盲・弱視という視覚障害を持った方々には、運転免許は発行されない。目が見えないということは、運転をする機会を完全になくすということである。
「運転をしてみたい」。視覚障害を持った方にそういう思いがあること自体、思いもよらないことかもしれない。
今回は、取材者にも実際に目隠しをしてクルマを運転するという機会が設けられた。助手席のインストラクターの声だけを頼りに運転する。
インストラクターは左手の位置を時計の時間で指示をする。まっすぐの場合は9時。右方向へ舵を切る場合は10時、11時といった具合だ。ハンドルの舵角合わせはインストラクターの指示どおりきちんとできる。しかし、それが道路に対して実際どのように走っているのか、自分のなかでは何も確証が取れない。
車両の速度も同様で、アクセルとブレーキの操作もよくわからない。それは非常に気もちの悪いことだった。よく「お尻でGを感じる」というような表現を見ることがあるが、あれは間違いではないかと思う。やはりドライビングは視覚である。
このツアーにはさまざまな参加者がいる。これまで延べ140名が参加。その中心は50~60代。先天的・後天的、全盲・弱視、さまざま。概してクルマ好きが多く、男性が若干高い比率となる。もちろん過去に乗っていてもう一度乗りたいという方もいる。
今回の参加者に実際に話を聞いてみた。
「いつか自分のインプレッサで走りたい」野地美行さん
中学生の頃、盲学校へ来ていた保護者のひとりが乗るインプレッサのエキゾーストに興味をもったのがきっかけでスバル車と水平対向エンジンに興味を持ったという野地さん。調べてみると、スポーティカーだけでなく1.5リッターのエントリークラスでも同じ水平対向エンジンがラインアップされているということで、運転をする母親を説得してインプレッサ・スポーツワゴンを購入してもらったという。
その母親もインプレッサを気に入り、すでに2台乗り継いでいるという。さらに、車両購入だけではなくアフターパーツにも手を出している。インテークマニホールドとマフラーも変更。マフラー選びは性能比較はもちろん、YouTUBEの動画の音声を聞き比べ、「低音が強く自分好みの音だった」という柿本改を選択。ほかにもクラクションも交換。
自宅の駐車場で時折車両に乗り込んでアクセルをあおって楽しんでいたという。今回このツアーに初めて参加。アクセルの空ぶかしは普段からやっているわけだが、実際に駆動とつながってエンジン回転が上昇していく感覚は新鮮だったという。
また、初めてブレーキで実際に制動させたのも今回が初めて。ブレーキペダルを踏むとどのあたりからどのように効くのか、この体験も楽しんだようだ。次回は「もっとスピードを出したいし、MT車にも乗ってみたい」、そしていつか自分のインプレッサをもち込んで走ってみたい、とのことだ。
「家族の会話に入っていきたい」大脇多香子さん
ご主人、息子二人の4人家族の大脇家には4台のクルマがある。無限RR(ホンダ・シビック・タイプRをベースに無限が仕立てた限定コンプリートカー)、トヨタ・アルテッツァ、スズキ・スイフトスポーツ、スズキ・アルトワークスがそれで、すべてMT車だという。
もちろん大脇さんを除く3名にはクルマという共通言語があるのだ。その彼らの話に少しでも本当に共感できたら、という思いがあっての参加だ。実際に走行をしてみて「できないと思っていたことができる。枠が外れ可能性を感じることができた」と語ってくれた。また、最初はハンドルの位置だけに気を取られていたが、あるタイミングでハンドルの位置ではなく道が描けるようになったという。それも大きな発見のようだった。
「歩行中に身を守る知識が増えた」小山 昇さん
「一度でいいからエンジンを掛けたい」と以前から思っており参加。前回参加した際に、スラローム走行がビシッと決まり楽しかったということから、今回も夫婦そろって2回目の参加。
「風光明媚な場所は我々にとっては何もないのといっしょ。制限されているわけです。でも、その中でも体験できるものは得られるものも大きいし、記憶にしっかりと残ります。だからこそいろいろ体験したいと思っているんです」とのこと。またこのツアーでAT車のクリープ現象を初めて知ったという。このクリープ現象のせいで、ブレーキの踏み不足による追突事故も多い。それを知ったことで横断歩道を渡る際に注意をしたり自分の身を守る知識が一つ増えたという。
「若者の気持ちがよくわかる」井上 修さん
なんと今回で7回目の参加となる井上さんは熊本県から参加するツワモノだ。学生時代から純粋にクルマを運転してみたいという思いをもっていたという。旅行が好きで、たまたま冬季に何か面白いツアーはないかと相談したときにこのツアーを知り、参加。スピードに興味もあり「若いもんが走る気もちがよくわかる」とコメント。
弱視であるので、センターラインが少しわかる。しかしこのセンターラインを割って酔っ払い運転みたいにフラフラしてしまうのだという。そこで今回はそのセンターラインを割らずに走るという目標をもってやってきた。毎回自分で課題を作り研修のつもりでやってきているという。もっと(現在の1回の試乗プログラムであるコース2周ではなく)15分近くを一度に長く乗りたい、片手運転をしてみたい、など夢は広がる。
第2回ジャパンツーリズム・アワードで優秀賞を受賞!
ジャパンツーリズム・アワードは、公益社団法人日本観光振興協会と、一般社団法人日本旅行業協会が設立したもので、ツーリズム業界の発展・拡大に貢献し、国内・海外の団体・組織・企業の持続可能で優れた取組を表彰するものである。
その「第2回ジャパン・ツーリズム・アワード」(審査委員長:本保芳明 首都大学東京特任教授 東京工業大学特任教授)では日本全国そして世界から、第1回(2015年の第1回は133件)を上回る158件の応募があり、「飛騨高山国際誘客協議会」の「官民協働での外国人観光客の誘致・受入」が大賞を受賞。「日本の地域におけるインバウンドへの取り組みの先駆的なモデルで、地道かつ息の長い取り組みが外国人観光客をひきつけており、周辺地域も巻き込んだプロモーションでさらなる拡大が期待できる」という点が高く評価された。
その同賞の国内・訪日領域優秀賞に選ばれたのが、クラブツーリズム株式会社の「世界初!視覚障がい者夢の自動車運転体験ツアーの実現(ツーリズムビジネス部門)」である。評価ポイントには、『視覚障がい者の「自動車の運転をしてみたい」という夢をかなえた取組。ユニバーサルツーリズムの発展への大きな一歩となっている。さらなる拡大を期待』とある。
すでに11回目のツアーはスケジュールが決まっており、2017年3月15、16日に、今回と同じくツインリンクもてぎでの開催がとなる。11回も募集人数は16名となる予定だ。今後のさらなる盛り上がり、そして日本各地での開催を期待したい。
(文・写真:青山義明)
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