2度目のマイナーチェンジ、6代目「ムーヴ」
ダイハツの主力車種である「ムーヴ」が今モデルで2度目のマイナーチェンジを行いました。
ムーヴは先代モデルで「スマートアシスト(スマアシ)」を搭載し(2012年12月)、当時軽自動車としては初めて衝突回避支援システムを実用化しました。そして今回は、その“スマアシ”が「II」から「III」へと進化したことを受け、これをバージョンアップすると共に、その内外装にも磨きをかけました。
まずスマートアシストIIIの進化を説明すると、その緊急ブレーキシステムが歩行者にも対応するようになりました。
これに加えて「車線逸脱警報機能」、いま話題となっている“踏み間違い”防止に役立つ「後発進抑制制御機能」、「先行車発進お知らせ機能」、そして暗い夜道での視界確保をスムーズにする「オートハイビーム」といった機能が装備されています。
また4つのカメラが車体の前後・左右を映し出すことによって、車体を上空から眺めたような映像をナビ画面に映し出して、縦列駐車や車庫入れをアシストする「パノラマモニター」も採用されました。
そして今回は、大きく進化した新型ムーヴのNAモデル「X」とターボモデル「カスタム RSハイパー」の“スマアシIII”装着車に試乗。このインプレッションと共に、「ムーヴ」の進化に触れてみたいと思います。
絶妙なボディ剛性がもたらす恩恵とは
まずステアリングを握ったのは、ベーシックなNA(自然吸気)エンジン(52ps)を搭載した「X」(2WD)。JC08モードでは31.0km/Lという、新型ムーヴで最も低燃費なモデルです。
メッキフロントグリルを新調したことで、その表情が一段とすっきりした印象になった新型「ムーヴ」。走らせて最初に感じるのは、ダイハツ車ならではのクルマ全体から感じ取れるシッカリ感でした。
ボディ剛性はクルマを作る上では根幹といえる性能で、これが良いと乗り心地が良くなり、運転が楽しくなります。その一方で剛性を高め過ぎれば車重が増える傾向にありますが、ダイハツはこのバランスが非常に素晴らしいと筆者(山田弘樹:モータージャーナリスト)はいつも思います。
上位モデルにターボを控える性格からか「X」は、街中での軽快な乗り味が特徴的。14インチタイヤを履きこなすバネ下の動きは軽く、荒れた路面でも上限にこれをいなして快適な乗り心地を示してくれます。またソフトなサスペンションながら追従性がよく、ハンドルを大きく切るような路地でも応答遅れなしに向きを変え、ちょっとしたコーナーでもジワッと粘って、車体をしっかり支えてくれます。
このリッターカーにも負けない質感こそが、ボディ剛性の高さによって得られる恩恵だと思います。
またその動力性能も秀逸です。スペックだけを捕らえると過給器のない直列3気筒エンジンの非力さが気になるところですが、実際はその低中速トルクが転がり抵抗の少ないタイヤや駆動系のスムーズさと上手に連携して、街中はとても快適です。
ダッシュが必要とされる高速道本線への合流場面などでも、アクセルを強めに踏み込めば、高速巡航領域まですぐに到達できます。その際感心するのは3気筒エンジンのサウンドがきれいにそろっていることと、その上で新型「ムーヴ」の遮音性が高いこと。これが「ムーヴ」の質感を、さらに上げることに貢献しています。
リッターカー以上の低燃費車で常にフィーリングが話題となるCVT(無段変速機)も、660ccという小排気量エンジンには特性が合っています。そもそもが高回転型のエンジンを一番効率のよい回転域で走らせる制御によって、断続感のない加速が得られるからです。
厚いトルクのターボモデル、「カスタム RSハイパー」
これに対してターボを搭載する「カスタム RSハイパー」は、そのグランドツーリング性能が光りました。ターボの過給で得られるトルク感はハッキリと厚みがあり、アクセルをひと踏みした時の転がり速度がまず違います。
高速巡航域でも少ないアクセル開度で速度を引き出すことができ、ターボエンジンの特性から排気音はさらに静かです。
またこの「RS」にはターボの走りを支える専用の足回りが組み込まれており、その走りは高速領域での安定性をさらに高めています。
インテリアのインストルメントパネルに新たに設けられたガーニッシュも見栄え良く、レザー風シートは見た目と座り心地もなかなか。総じてそのリッチな乗り味が、上級車種からの乗り換え組である「ダウンサイザー」たちに支持されている理由だと確認できました。
ただし、そのリッチな走りを味わえる分だけ、ターボモデルの価格は35万1000円高く、燃費性能はNAモデルよりも若干劣ります。
つまりターボモデルの「RS」とNAモデルの「X」で、どちらが優れているというよりも、自分の生活に合うモデルを手に入れることが大切だと筆者は感じました。そしてこのような分析ができるのは、どちらのモデルを手に入れても十分納得できる“基本性能の高さ”を新型「ムーヴ」が持っているからだと思います。
「スマアシIII」はなぜ評価されるのか
さて最後に肝心な「スマートアシストIII」のことをお話しましょう。
基本的にスマアシIIIは、衝突回避ブレーキ以外の制御を警告音で行います。いま自動車の安全先進技術としてはアクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)が話題の中心にありますが、そのレベルにまでは及んでいません。
その理由はまずコストの問題でしょう。電動パワーステアリングに強力なモーターアシストを追加してハンドルを自律操作するシステムは高価ですし、軽自動車としては重量増加にもつながります。全車速追従機能などはカメラ以外にミリ波レーダーも必要となるでしょう。
まだまだこの分野はコストがかかり、それが「軽自動車の価格」に反映されてしまうことを考えると、スマアシIIIのシンプルな制御には納得できるものがありました。
今回衝突ブレーキは試しませんでしたが(笑)、車線逸脱までは行かない、タイヤが白線を踏むか踏まないかのレベルからきちんとこれを発見し、大きめな音で警告します。そしてこの「大きな音で警告する」という割り切りは、実は安全にかなり近いと感じました。日々の生活と密着する軽自動車にとって、スマホを見ながら運転することや同乗者との会話に夢中になるなどの不注意運転は身近な問題。ここで操舵アシストが黒子的にステアリングを修正するよりは、警告音でハッキリと知らせる方が、事故を減らせるのではないか、と感じたのです。軽自動車は「ムーヴ」に限らず低速域での回頭性を得るために操舵に対するハンドリングも俊敏。かつ重心も高いので、これを自動制御でスムーズに操舵するのもかなり難しいでしょう。だったら今は原始的な方法ですが、警告音で知らせる方がシンプルだと思ったのです。
ACCは高速巡航時のオートクルーズが発展したシステムなので、グランドツーリング性能に優れる「RS」グレードのようなモデルには、将来的に標準化があってもよいかもしれません。当然トヨタとの連携も強固なダイハツだけに、その部分については考えを巡らせているはずでしょう。
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