トップの画像は三菱のミラージュ。そのフロントマスクをアップにしたものだ。2012年、三菱の世界戦略車のコンパクトカーとして10年ぶりに復活したクルマである。
なぜミラージュの写真が持ってきたかというと、ミラージュがEV(電気自動車)に勝った、しかも停止した状態から時速100kmに達するまでの所用時間が2.7秒、テスラ P100Dに勝ったという噂を本企画担当が聞きつけたため。
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本当に勝った? なにで勝った? 噂の真偽のほどは本文をお読みいただくとして、クルマ界でまことしやかに流れる(大げさ)不思議な事案を、ここでは環境系やハイブリッドカーなどの話題に絞って集めてみた。
※本稿は2017年12月のものです。
文・写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2018年1月10日号
【不思議1】 EVよりもミラージュのほうがCO2発生量が少ない?
EVよりもガソリンエンジンのミラージュのほうがCO2排出量が少ないというのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の発表した調査結果によるもの。
ここでいうEVとはテスラP100Dで、ゼロヒャク2.7秒、100kWhバッテリーを搭載し、前後2つのモーターで611psを発揮する超ハイパフォーマンスEVだ。対するミラージュは1.2Lエンジンを搭載するコンパクトカー。
この2モデルの、走行時だけではなく製造時から廃車時に発生するCO2までを含めた、いわゆる「ライフサイクル総排出量」でCO2発生量を比較した結果の話。
大排気量車と軽自動車を比較して、軽自動車のほうが燃費がいい、と言っているのと同じこと。ただし、EVであれば何でもかんでもCO2フリーだとの勘違いに対する問題提起としては意味のあるものと言える。
EVは確かに走行時に直接的なCO2排出はないが、充電するための電力は火力発電などによるものであればCO2を発生している。リーフクラスのEVだとしても、石炭火力発電によるものなら1km走行あたり139~175g、石油火力発電でも114~143g程度のCO2を発生すると試算されている。
原発依存率の高いフランスなどでは発電時のCO2発生量が少なく、40g/kWh程度だが、石炭火力発電依存率の高い国では650g/kWhと圧倒的にCO2発生量は多くなる。原発依存の少ない日本やドイツは400g/kWhで比較的CO2排出量は多いのだ。
現実的に、ほぼ同じ程度の動力性能を持つ車両同士で試算をすると、走行距離ごとのCO2排出量はほぼ同程度とされている。
【不思議 2】 ステップワゴンに追加されたハイブリッド、なぜスパーダだけ?
2017年9月に追加設定されたステップワゴンの2Lハイブリッドモデルだが、ハイブリッドが設定されたのはエアロを装着したスポーティな「スパーダ」のみ。標準ボディのステップワゴンは、以前からある1.5L VTECターボしか選べないのだ。
ホンダでは「スポーティなスパーダのユーザーにハイブリッドを味わってほしい。標準車ユーザーは価格に敏感なため5ナンバーにこだわった」とアナウンスしていたが、その言葉どおり標準車にハイブリッドが設定されなかったのには明確な理由がある。
2Lのハイブリッドシステムを積むほかのホンダ車はアコードやオデッセイといった全長4800mm以上、全幅1800mmのサイズだ。これに対し、ステップワゴンはいずれも全幅は1695mmと5ナンバー枠だが、全長は標準車が4690mmに収まるのに対し、スパーダは4760mmと3ナンバーサイズとなる。
2Lのi-MMDユニットをステップワゴンに搭載するにはノーズを延ばしたうえでボンネットを高くする必要があり、標準車にハイブリッド車を設定すると3ナンバーになってしまうからだ。このため、従来から3ナンバーだったスパーダのみに設定されることになったと考えられる。
【不思議 3】 なぜスイフトのストロングハイブリッドにRSはない?
2017年7月にストロングハイブリッド(SGとSL)が追加設定されたスイフトだが、1Lターボと1.2LマイルドハイブリッドにあるRSグレードはない。これはなぜなのか? 渡辺陽一郎氏は次のように分析する。
「“選択と集中”ということでしょう。RSを買うのなら、ふつうの1.2Lガソリンか1Lターボ、それにマイルドハイブリッドがありますから。ただ、現状だとマイルドハイブリッドもストロングハイブリッドもグレード名は同じく『ハイブリッド●●』となっていて、スズキとしては将来的にはわかりやすく整理したい意向もあるんじゃないかと。
個人的にトランスミッションで癖のある5AGSとの相性は、モデルとしてはRSのほうが向いていると思うので、将来的にストロングハイブリッドにRSグレードが追加される可能性はあると思います」。
【不思議 4】 ヴィッツのFFはアイドリングストップがあるのに、4WDにはないのはなぜ?
ヴィッツの1.3L車には、FFと4WDで各々「F」「ジュエラ」「U」の3グレードが設定されている(FFのみ、「Uスポーティパッケージ」もあり)。4WDはFFの各10万8000円高の価格設定となっているのだが、なぜかアイドリングストップ機構がついているのはFFのみ。
FF車はアイドリングストップ機構以外にハイブリッドでおなじみアトキンソンサイクルに加え、クールドEGR、電動モーターで制御した可変バルブタイミングなどを盛り込んだINR-FKEエンジンを搭載。JC08モード燃費25.0km/Lをマークする。
いっぽう、4WD車のエンジンは同じ1.3LながらINR-FEエンジンとなり、FFのような技術は採用されていない。このため、4WDのJC08モード燃費は18.0km/Lにとどまる。ここまで燃費の差が開きながら、価格差は4WDが10万8000円高いとなると、トヨタとしては販売面で「ヴィッツの1.3LはFFを買ってね」ということなのだろう。
【不思議 5】 水素ステーションの数はいま
2014年12月に世界初の量産型燃料電池車としてトヨタのMIRAIが誕生したことで、同時に注目されたその燃料の給油所となる水素ステーション。
しかし、最近は世界中で高まるEVシフトの機運によって、燃料電池車の存在感は低下気味。水素ステーションのほうも話題になることが少なくなっているが、その数は増えているのか?
現在(2017年10月)の水素ステーションの設置数は移動式ステーションを含めて92カ所。2015年4月の時点では19カ所だったので、2年半で73カ所増設されている。
この数字だけをみると着実に増えているように感じるのだが、次世代エネルギーを推進する政府は、水素ステーションの目標建設数を2015年末までに100カ所としていたという。その目標を達成できていない状況だ。
また、関東でも埼玉県より北側の栃木県や群馬県、その先の東北地方も水素ステーションがない地域が多い(福島県には建設計画があるが……)。
なぜ、水素ステーションは増えないのか?
最大の理由は建設コストで、1カ所の建設費用が4億円を超えるといわれ、採算が取れるには1カ所当たりの顧客として燃料電池車が約1000台必要だという。そのような状況もあり、建設が進んでいない。
それと、水素を燃料とする燃料電池車の普及がやや伸びていないこともその理由。燃料電池車の2017年度の保有台数は1813台。1カ所当たりの水素ステーションの顧客が1000台必要だという採算ラインに対し、すでに供給過多になっている現状だ。
【不思議 6】 日本車が欧州で思いのほか売れていない?
アメリカでは日本車の販売はまだまだ好調を維持しているいっぽう、ヨーロッパでは依然として日本車の販売台数が飛躍しない。むしろヒュンダイなど韓国メーカーのほうが販売的には上。
下の表はドイツ国内での2017年1~10月の新車販売をメーカー別で見たものだが、上位は地元ドイツメーカーが占めているのは当然だとして、9位にヒュンダイが入っている。
日本メーカーはというと、12位にトヨタ、13位に日産、14位にマツダが入っているが、やはりイマイチ。価格設定と販売店の数が圧倒的に少ないのが大きな要因だ。
【番外コラム】片岡英明が抱く「EVの国産勢の動きが鈍いこと」
個人的には国産メーカーの車両電動化への動きが鈍いことが不思議というか、疑問に思っている。というのもすでに米国はカリフォルニアで一定台数以上を販売するメーカーへのZEV規制を2018年に大幅に強化するうえ、中国はEVへの移行を促すNEV規制を2019年に実施することが決まっているからだ。
EVに関して言えば、2020年にトヨタが中国で量産型EVを発売することをアナウンスしたが、現在までのトヨタのEVといえば日米の自治体や特定の利用者向けに限定販売した「eQ」のみ。
販売ラインアップを見ると、プリウスPHVがあるものの、まだピュアEVはなく、本当に2020年までに量産型EVを市場に送り出せるのかどうかは微妙なところだと思う。
しかし、EVについてはすでに賽は投げられている。どの道やらなければならない課題なワケだが、現状では国産メーカーは欧州勢にも差を付けられている。一番の問題はメーカー自身がEVを“半信半疑”でいることだと思う。
そして、メーカーよりも日々使っているユーザーのほうがEVに関しては詳しいというのも問題。
現在は車両電動化の過渡期という時期でもあるが、やはり「売りっぱなし」はダメだと思う。
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