もくじ
ー A110、マニュアルを不採用のワケ
ー 成功の理由 ケイマン/エリーゼとともに
ー 今後はA110派生モデルが出る?
A110、マニュアルを不採用のワケ
アルピーヌA110のマニュアル・トランスミッションの採用について、ルノー・スポールのコンペティション・ディレクターのジャン=パスカル・ドースは、次のように語る。
「もちろん可能性として研究はしました。DCTによる2ペダルとMTによる3ペダルという、2種類のトランスミッションをポルシェ911 GT3のように用意するということですね」
「そもそも当初、ジョイント・ベンチャーのパートナーでコンポーネント共有をする予定だったケーターハムは、MTとレバー式のハンドブレーキが欲しいということでした。ケーターハムとは2年間ほど開発を共にしましたが、後輪駆動と足回りでスポーツ性を出す方向性は共有しつつも、そこに至るソリューションや考え方は相互補完の関係で、色々な示唆が得られた幸せな時間でした」
「今日、アジアとアメリカでは2ペダルATが主流ですし、逆にいえば3ペダルMTは欧州的過ぎる。つまり輸出するクルマとしては2ペダルの方が向いていることは確かです。だから2ペダルを採るならば、やる以上は最高のDCTにしなくてはならない、これは必須要件でした」
「ハンドブレーキについても、今やレバー式を採用する方がサポートやワイヤーといったパーツが必要で物理的には重くなります」
「トランスミッションについては、ドライビング・プレジャーの観点で3ペダルと2ペダルを比べても、今や2ペダルDCTがプレジャーを減らす方向ではないこともテスト走行を重ねて判明しました」
「この点に関しては、わたしたちの開発チームとサプライヤであるゲトラグの努力による部分が大きいですね」
それにしても、デビュー年に世界中であらゆる賞を獲得し、瞬くまにスポーツカーとしての高い評価を勝ち得た理由を、ドースはどう考えているのだろう?
成功の理由 ケイマン/エリーゼとともに
「成功の理由は2点あると思います。まずスタイリングと重量配分、このふたつがとてもバランスがとれていること。結果的にハンドリングもよくなるというか、ステアリングを切った時の濃密さ、ドライビング・プレジャーが表れているところだと思うのです」
「ふたつ目は、スポーツカーでも攻撃的ではなく、見たひとが頷いてくれるような共感力の高いデザインに仕上がっていること。軽さとコンパクトさ、ゴリアテという巨人に立ち向かうダヴィッド然としたところ」
「そうした価値観がデザイン・トランスレーションとして巧く表現されたと思います。軽量でコントローラブル、素直でリニアな操縦性をもつスポーツカー、という意味では直接の競合車種はいないと考えています」
「価格帯や寸法でいえばロータス・エリーゼやポルシェ・ケイマン、アルファ・ロメオ4Cがあることはわかっていましたから、競合モデルの研究もしました」
「わたしたちの見立てでは、エリーゼはスパルタン志向で、ケイマンはラグジュアリー要素が強く、4Cは走らせるのは楽しくてもロードカーとしては厳しい、と映りました」
「この分析が、わたしたちアルピーヌが進むべき方向性、占めるべきポジショニングを明確にしましたね。ドライビング・プレジャー重視のスポーツカーとして、逆に価格帯違いで、よくブガッティやマクラーレンと比較されることでもわかる通り、唯一の存在になれたと思います」
今後はA110派生モデルが出る?
このインタビューと前後して、ハイパフォーマンス版となるA110Sが発表された。
すでにアルピーヌ・カーズ自体がA110の新たなる派生モデルを徐々に加えていくことはアナウンスしていたものの、どのようなバージョンを考えているのか。
そして腐食や錆に強いアルミニウムボディやパーツを多用しているのは、将来的にヒストリックカーになった時にも、価値を持続させるための選択だったのだろうか?
「何とお答えしたらよいものか。わたしたちはポルシェをリスペクトしているからこそ、911でいうカレラ、カレラSにGTSといったラインナップのロジックを真似ることはしません」
「派生モデルについては『A110のライフサイクルの中で顧客が本当に求めるものを考え、対応していく』という風にしかいえないですね(笑)」
「顧客はつねに異なるモデルを求めるものですし、旧アルピーヌの時代にも1967年に、翌年のグルノーブル冬季五輪を記念したオリンピック・バージョンがありました(注:A610の1992年アルベールヴィル五輪版も存在した)」
「ただ、はっきりしていることは、ありとあらゆる派生モデルを作る訳ではありません」
「『ヒストリックカーになった時のためにアルミニウムを採用したか?』という点については、コンストラクターとしてはノーです」
「数々のフェラーリやコルベット、フォードTもそうですが、クルマそのものが年数を経ても所有したい/乗りたいと思われる1台であるかどうか、それは造り手が計算してすべてコントロールできることではないのです」
「そこにはやはり、わたし自身のリファレンスというか基準ですが、一種のマジックな側面が必要だと思っていますから」
慎み深いドースのコメントだけに深読みになるが、新しいA110には彼のマジックが込められている。そう考える方が妥当だし、ステアリングを握ってそのマジックにかかってしまったならば、新しいA110は代わりの効かない1台となる。
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