またもや人気が出そうなコンパクトSUVが登場する――。トヨタの新型コンパクトSUV「ヤリスクロス」が、世界に先駆けて、今秋、日本で発売開始されることが判明した(2020年4月23日公開)。ベースである新型ヤリスの燃費や走行性能の評判が高いだけに、ヤリスクロスの実力にも十二分に期待ができる。
しかし、ヤリスクロスのボディサイズやキャラクターを考えると、同社のC-HRやライズとの競合が容易に想像できる。果たしてヤリスクロスは売れるのだろうか。そして、C-HRとライズ、そしてヤリスクロスで、キャラクターの棲み分けはできているのか、また、喰い合うことが想定されるのに、トヨタはなぜヤリスクロスを出すのか。
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本企画では、元エンジニアの自動車ジャーナリストの吉川賢一氏に、ヤリスクロスとそのライバルたちのポジション、「喰い合い」の状況を分析していただいた。
文:吉川賢一 写真:TOYOTA
【画像ギャラリー】売れそうな雰囲気でまくりの新型ヤリスクロスと強力ライバルたち
■ライズとC-HR、そしてヤリスクロスの長所と短所
まずロッキー/ライズの長所をひと言でいうならば、「良品廉価」であろう。全幅1695mmの5ナンバーサイズとは思えないドシッとした外装、チープに見えがちなプラスチック素材を使いつつも先進的な雰囲気でまとめられた内装。ボディが四角いために視界が良く、980kgと軽量であるのに加えて1.0L直列3気筒ターボエンジンのパワフルなトルクによって、強い加速が得られる。高速道路でも安心感が高く、低燃費も両立させており、WLTCモード燃費は18.6km/L(2WD)だ。また、大径タイヤを装着するコンパクトSUVなのに、小さな最小回転半径 5.0m(※17インチの場合。16インチは4.9m)であるのも、ライズの長所だ。
2019年11月に発売したトヨタライズ。発売1カ月で受注台数が月販目標(4,100台)の約8倍となる約32,000台となったことが発表された
あえてライズの短所をあげれば、4WD設定はあるが(ダイナミックトルクコントロール4WD搭載)、フルタイム4WDではないので、オフロードや悪路をガシガシ走るほどの走破力はないことだ。とはいえ、「オフロード走行までこなせるSUVなんて不要」と言う方にはベストな一台だ。
いっぽうC-HRは、2016年に登場したコンパクトなクロスオーバーSUVであり、現在は2019年10月にマイナーチェンジを受けたモデルが販売されている。ワイド&ローを徹底したボディスタイルをもち、高いホールド性と仕立てのよさにこだわったスポーツシートや、統一感のある洗練されたインテリアなど、遊び心と上質感が融合されている。
トヨタC-HR。2016年12月発売。2017年上半期(2017年1月~6月)には、販売台数が79,303台を記録し、SUV部門の新車販売台数で第1位を獲得した
また、走行性能の高さがC-HRの強みだ。滑らかで静かな走行フィーリングは、ワインディングでも、高速道路でも、気持ちのいい走行ができ、「走りの質感」が非常に高い。パワートレインは1.8Lのハイブリッドと、1.2Lガソリンターボの2仕様。燃費も優れており、1.8Lハイブリッド(2WD G/S)はWLTCモード25.8km/L、1.2L直4ターボ(2WD G-T)はWLTCモード15.4km/Lを達成する。
短所は、後席の居住性と、斜め右後方の視界の悪さ、であろう。ただし、流麗なデザインありきのクロスオーバーSUVであるため、多少の犠牲は仕方のないところである。
■ヤリスクロスはライズとC-HRの中間
そして、今秋、日本で発売開始されることとなったヤリスクロスは、サイズ的にはライズとC-HRの中間に位置する。欧州市場にも2021年以降に投入予定だそうだ。
2020年4月23日に外観デザインと概要が公開されたヤリスクロス。もともと3月に開催されるはずだったジュネーブショーで世界初公開される予定だった(新型コロナ禍で中止に)。「日本では2020年秋発売」と公言された
ヤリスと同じ「GA-B」プラットフォームを採用しつつ、ボディサイズを拡大。エクステリアは、グリルやリアの傾斜したウィンドウとテールランプなどが、どことなく「RAV4」を連想させる、マッシブな雰囲気をもつ。エンジンは、ヤリスと同様の1.5L直3ハイブリッドと1.5リットル直3ガソリンエンジン、これにCVTもしくは6速MTが組み合わさる。
新型ヤリスクロスの走行性能はまだ未知数だが、新型ヤリスの評判が非常に高いので、期待大
手引き式のサイドブレーキしかなかったヤリスに対し、ヤリスクロスは電動パーキングブレーキとなっており、おそらく全車速追従型のACC(アダプティブクルーズコントロール)が備わると予想される(※ヤリスは30km/h以下で解除される)。また、使い勝手がよさそうな2分割できる荷室デッキボードも良い点だ。
ヤリスクロスに関しては、現時点では詳細がわかっていないので、短所については想像となるが、気になるのは、ホイールベースが短く、かつ傾斜したリアウィンドウによって、後席を後方に配置できず、ヤリスと同様に狭く感じるのでは、という点だ。
新型ヤリスクロスとライバルのスペック比較
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■キャラクターの棲み分けはできているのか
この3台、実に巧妙にキャラクター分けができている。ボディサイズに関しては、序列が完璧にできているし、デザインに関しても、ライズがオフロード寄り、C-HRが都会派クロスオーバー、そしてヤリスクロスは欧州車に似たスタイリッシュなSUVといったように、少しずつずらしたように見える。パワートレインも、ヤリスクロスにガソリンモデルを用意したことで、エントリー価格を下げることができ、ユーザーの取り込みに余念がない。これほど見事な作り分けが出来るのは、トヨタならではだ。
ヤリスクロスには1.5L直3エンジン搭載の仕様が用意されており、かなりお買い得なモデルが登場する予定
■ヤリスクロスは売れるのか
ヤリスクロスの販売価格が、まだ明らかになっていないのだが、おそらく、ライズよりも少しだけ高い価格設定で来るものと思われる。ライズよりももう少ししっかりとした走りのコンパクトSUVが欲しい、と感じていたユーザーがヤリスクロスに飛びつく可能性は大いにあるだろう。
デザインも流行のRAV4チックであるし、若干割高なC-HRと比較して、「こちらの方がいいかも」となる可能性も考えられる。期待が持てる一台であることは間違いない。
■喰い合ってでも売るべきなのか
現時点のトヨタのSUVラインアップは、ライズ、C-HR、RAV4、ハリアー(6月フルモデルチェンジ)、ランクルプラド、ランドクルーザー、ハイラックス、そして、レクサスのRX、NX、RX、LX。ヤリスクロスを加えると、その数なんと12車種。まさにSUVのフルラインアップだ。
2019年4月に日本仕様が登場した現行型RAV4。オフロードに寄せたスタイルと走行性能、かなりお買い得な価格設定が功を奏して販売的には絶好調
国内全体の新車販売台数が伸びているわけではないので、今年秋にヤリスクロスがデビューすれば、サイズ感が似通っているライズやC-HRは、多少は販売台数を減らすことになるだろう。「喰い合い」が起きるのは想定しながらも、トヨタがヤリスクロスを開発したのは、真の目的が「他社車からの乗り換えを促進すること」、つまり国内のトヨタのシェアをじりじりと押し上げることにあるからだ。
トヨタの販売会社は、この2020年5月から、全店で全車併売を開始する。顧客側からすると、一店舗でトヨタ車全車のクルマの比較ができるようになるわけだ。ライズを見に来た顧客が、横に飾ってある新型「ヤリスクロス」を見て、心映りして検討してくれるかもしれないし、はたまた、もうちょっと高級なC-HRを検討してくれるかもしれない。トヨタ販売店にいって、これだけの選択肢があれば、顧客側は「お腹いっぱい」状態となり、他メーカーの販売店に足を運ぶことを、極端に減らすことができる。
さらにトヨタは、出したモデルへ定期的にマイナーチェンジを行い、商品力維持を続けている。他の自動車メーカーは、トヨタのこのスピード感についていけず、国内への消極的な商品投入も相まって、国内シェアが奪われていっている(表2参照)。このままでは、この流れはさらに加速していき、「2台に1台がトヨタ車」となる日もそう遠くない。
■まとめ
トヨタ一強の国内市場において他メーカーに必要なのは、「弱者の戦法」だ。
孫子の兵法には「我は専(あつま)りて一と為(な)り、敵は分かれて十と為らば、是(こ)れ、十を以て其の一を攻むるなり」とある。強者が兵力を分散させているとき、弱者は総力を得意分野で一点に集中させれば、弱者であっても強者を打ち負かすことができる、ということだ。
それは、ホンダの軽を作る技術や日産の進化型e-POWER、三菱の次世代PHEV、スバルのシンメトリカルAWD進化版、マツダの次のSKYACTIV技術などかもしれないが、ヤリスクロスの登場は、他メーカーにとって脅威には変わりない。
コンパクトSUVでいうと、日産のキックスが2020年6月頃発売される、という情報がある。トヨタ車が素晴らしいのは確かであるが、このままトヨタ一強では、面白くない。日産のみならず、ホンダ、マツダ、スバル等、他メーカーの反撃を心待ちにしている。
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みんなのコメント
【2019年国内登録車シェア】
トヨタ:46.0% ・ 日産:11.2% ・ ホンダ:10.9%
ホンダが好調な様なイメージを持たれるのはこの登録車に含まれない軽自動車が売れているからで、
実際は軽とコンパクトカーしか売れていない
トヨタ以外が国内で同じことをやるのはもはや不可能
そのシェア半数を握るトヨタですら販売店の統合に手をつけた訳だから国内市場の縮小がレッドゾーンに近づきつつある
マツダ一人勝ちということです。