2022年8月11日から21日の11日間、ジャカルタ近郊のBSDシティにある国際展示場でGIIAS 2022(ガイキンド・インドネシア・インターナショナル・オートショー2022)が開催されました。テーマは「The Future Is Bright」(未来は明るい)です。
新型コロナウイルスの影響で2020年は二度の延期を経て中止、2021年は事前にアプリにのみのチケット販売、時間帯別入場規制などの対策を行った上で開催、今年もワクチン接種及び入退場の記録確認アプリのインストールを義務づける対策を行ない開催されました。2019年までの状況に戻るにはまだまだ時間がかかりそうです。
【画像144枚】インドネシアのモーターショー「GIIAS 2022」欧州&商用車のフォトギャラリーを見る
会場入り口までの手続きや雰囲気はコロナ禍を強く意識させるものでしたが、会場に入ってみれば皆マスクをしている以外は3年前と変わらない盛況ぶりでした。四輪車25、カロセリ(コーチビルダー)3、二輪車15ブランドの出展があり、会期中の来場者数は38万5487人だったと発表されています。39の新型車(内16のEV)が発表され、のべ1万人以上がEVを体験試乗したとのこと。その4では欧州車商用車二輪部品の動向を少々詳しめに紹介します。
中国&韓国ブランドの出展も積極的! 3年ぶりにインドネシアのモーターショー「GIIAS 2022」を観た(3) 中韓メーカー編
欧州車はBMW&ミニ、VW&アウディ、ポルシェが出展
BMW/ミニ
BMWとミニは正面玄関入った目の前の専用館的なスペースを確保していました。BMWは一般モデル、Mモデル、iシリーズ全て揃える充実ぶり。7シリーズと8シリーズは奥の商談コーナーに並べられプレミアム感をたっぷりと出していました。Mパフォーマンスコーナーも人気でした。
BMWもミニも現地組み立て車(CKD)と輸入車(CBU)が混在しており、ベースモデルはCKD、上級グレードやMモデルはCBUです。その旨価格表にも明記されていることと、CBUモデルは“時価”になっているのがこちらの特徴です。これは、為替レート、関税、奢侈税、登録税が時々によって変わるため。だいたいの価格を聞いておいて発注し、納車直前に総支払額が確定するシステムです。
Mモデルの展示台数が増え、アクセサリー類の展示面積も年々増加しています。これはMモデルを買える人が増えていることの証左でしょう。
フォルクスワーゲン/アウディ 老舗だけどこぢんまりと。
T-Crossとティグアン・オールスペースを展示していました。この二車以外はポロしか市場に投入されていません。近年のモデルではシロッコがカッコいいと人気があり、ゴルフGTIと人気を二分していましたが、シロッコは後継車なし、ゴルフの方は現行モデルが未導入なのでイマイチな感は否めませんでした。
VWは1970年代までは現地組み立てを行ないビートルとタイプIIが一定の地位にありましたが、ゴルフがデビューしたあたりから急速に居場所を失いました。その後は細々と輸入モデルを売り続けています。2015年に工場を建設して大々的に再参入の計画をぶち上げましたが一瞬で消えてしまいました。
アウディは、四輪駆動車の税金がほぼ倍と高いため得意分野であるquattroが高すぎて売れないため、FFモデルが細々とという感じです。そうなるとどうしてもBMWやベンツの方に意識が向かうので難しい位置にいます。先々代A4のFF+CVTモデルでワンメイクレースも開催したこともあるのですが、売上増には貢献しませんでした。
導入されているモデルはA4(RS4 Avantのみ)、A5、A6、A7、A8、Q3、Q5、Q7、Q8、TT、R8とVWと違い豊富です。 ポルシェ ポルシェが“718ケイマンGT4”、“タイカン・ターボ”、“カイエン”を展示。タイカン・ターボは驚くことにもう30台ほど売れたそうです。こちらもやはり“意識高い系”の人が買っているとのこと。
ポルシェを含む欧州スーパーカーや超高級セダンに価格表はなく、基本は“時価”なのですが、ショー当日の“時価”を訊いたところ、“718ケイマンGT4”が6ミリヤール(60億)ルピア(約6000万円)、“タイカン・ターボ”が3ミリヤール(30億)ルピア(約3000万円)でした。こうなる理由は関税、奢侈税、登録税の違いです。“718ケイマンGT4”の方は2ドア、排気量3L超えということでとても高い。しかし“タイカン・ターボ”の方は流行りのEVのため低く抑えられているためこうなるのです(詳しい料率は未確認)。
ちなみにこの価格はあくまでもこの日に納車された場合の価格なので、納車される日の為替レート、税金の料率によって変わっている可能性が高い。
そう、この国でこういうクルマを買うと納車の日まで支払総額がわかりません。それがスーパーカーの価格が“時価”になる理由です。でもこちらの人たちはそんなこと気にしません。そんなのは誤差の範囲としか考えない人たちが買っているから。
以前ランボルギーニオーナーの取材をしたことがありますが、インドネシアでは“アヴェンタドール”50対“ガヤルド”や“ウラカン”1くらいの比率でした。ランボルギーニを買うのになんで“ガヤルド”を買うのか理解できないとのことでした。つまり、「“ガヤルド”が限界」という中途半端なお金持ちはいないということです。
ちなみに、数年前にポルシェ・クラブ・インドネシアを取材したことがあるのですが、911ならGT3、GT3RS、ターボばかりで、カレラやボクスターは見ませんでした。
悪すぎる道路状況、サーキットはジャカルタ近郊に一カ所(というか、つい昨年までは全土で一カ所しかなかった)という気の毒なオーナー達なのですが、オーストラリアで開催されるPSDS(ポルシェ・ドライビング・エクスペリエンス)に参加するなどして鬱憤を晴らしているそうです。 日本の主要メーカーが見どころの商用車
今回は中国とインドメーカーの出展はなく、日系4社と地元のカロセリ(コーチビルダー)三社の出展。三菱ふそう、いすゞ、日野がEVトラックを初紹介していました。 三菱ふそう
キャンター(日本では旧型ですがこちらではまだまだ現役モデル)FE71L、大型トラックファイターX FN62、キャンターFE84GシャシーにTENTREM(テントレム)というコーチビルダーがカロセリした中型バスの現行モデルを展示。eキャンターをプレミアしました。
この国では、バスシャシーは大型及び連接しかないため、中型以下は全てトラックシャシーにカロセリしたバスしかありません。ちなみにディーゼルエンジンはユーロ4対応です。 いすゞ タイでベストセラーのピックアップD-Max、そのSUV版mu-X、小型トラックTRAGA(トラガ)Box、中型トラックELF(エルフ)、大型トラックGIGA(ギガ)FVRとフルラインナップ一通り展示していました。
変わり種としては“BRIBOM”(警察の特殊部隊)仕様のエルフが目を引きました。軍や警察関係向け車両も日系メーカーの独壇場であり、中韓メーカーが入り込むのは大変難しい分野です。
いすゞは、エルフから上のクラスには強いですが、TRAGAのクラスには三菱ふそうのL-300という王者がいるので食い込むのは難しそうです。路上でもめったに見ません。
プレミアムSUVクラスのmu-XもトヨタFortuner、三菱Pajero Sportの陰に隠れて存在感が非常に薄い。デザイン、ディーゼルエンジンしかないこと、そのエンジンが1.9Lないなど複合要因によると思っています。力強いデザインが好きだし、ディーゼルエンジンは商用車のイメージが強いし(Pajero Sportもディーゼルしかありませんが、2.4Lだし、三菱としてはガソリン車もあるから)、大排気量が好きだし、という好みやイメージに合っていないからでしょう。EV版はELF EVを参考出品していました。 日野 小型トラック200シリーズ、DUTRO(デュトロ)300シリーズ、大型トラックRANGER(レンジャー)500シリーズを展示。200シリーズにはABS、VSCを新たに装備しました。
LAKSANA(ラクサナ)がカロセリした中型バスGB150ATはインドネシアでクラス初のAT車。DUTRO ZEVを参考出品。低床シャシーによる作業性の良さをアピールしていました。
進出40周年記念パネル展示がおもしろかった。日野車の上陸は1967年なので歴史はもっと長いですが、PT Hino Indonesia Manufacturing社の設立が1982年なので40周年記念イヤーは今年2022年です。知らなかったバスの歴史などを知ることができました。欲を言えば2004年に運行が始まったtransjakarta(ジャカルタ市内のバス専用レーンも走るセミBRTバス)についての記述もあればと思いました。transjakarta向けの車両を最初に開発したのは日野であり、当局との折衝などかなり苦労したと当時聞いていたので。
UDトラックス
新興国向けトラックQuesterシリーズのトラックシャシーとトラクターヘッドを展示。唯一のユーロ5対応エンジンを搭載しており、尿素SCRシステムの技術説明展示も行っていました。 実は「カロセリ(カロッツェリア)」が楽しい!
カロセリ(Karoseri)とはいわゆるカロッツェリア、コーチビルダーのことです。オランダ語のCarrosserieの音をインドネシア語の表記にしたものです。
インドネシアでは小型から大型まで、ミニミニバスから大型バスまで、シャシーに独自のボディを架装することが盛んで会社も多く、インドネシアカロセリ協会の資料によると協会に加盟している会社だけで393社あります。
今回出展していた三社のような大手から、今でも昔風にトンカチとパテ埋めで手作りしている商店的な会社まであり、小規模になるほどローカルの地産地消的になっていきます。
今ではプレス型を持って同じボディを量産できる技術や工場を持つカロセリもありますが、どの会社も現物合わせでトンカチとパテ埋め工法でボディを作るところから始まりました。工法故に同じボディは二つとなく、街中でカロセリ車を見るのが楽しみでした。 adi putro(アディプトロ) 自社製既製ボディ、オーダーメイドボディ各種の中から今回選んだのは3台。
▽JETBUS3+ Jumbo
一般的な7m19人乗りクラスのミニバス。三菱ふそうキャンターのシャシーを使用していますが、いすゞエルフでも日野デュトロでも同様のバスは製作可能。
▽JETBUS TRANSIT(改)
9mクラスのシティバスをOPPALというポッドキャスティング会社向けに特装した車体。移動しながら車内から配信したり、イベントに出張して配信したりするために内部がスタジオになっています。
そしてこのバス、驚くことにモノコックボディです。インドネシア初との説明を受けましたが、知る限り世界初の低床モノコックボディです。
▽JETBUS3+ Dream Coach
メルセデスベンツOH1626シャシーにハイデッカーボディを架装した12m大型バス。
アジア各国にはそれぞれ独特の長距離や寝台バスがありますが、これはそのインドネシア版セミ寝台車。車内左右に2段のカプセルホテル的な個室が計22部屋あり、トイレと簡易給湯器も装備します。個室内には一つの12Vアウトレットと二つのUSBプラグがあるのでノートPCとガジェットを持ち込んでも充電はバッチリです。 TENTREM(テントレム) ▽NAVIGATOR―メルセデスベンツ製フロントエンジンシャシーに架装した10m中型バス ▽AVANTE H8―メルセデスベンツ製バスシャシーに13.5m(L)×2.5m(W)×4.0m(H)のボディを架装した大型観光バス
▽AVANTE H7―日野製RNバスシャシーに13.5m(L)×2.5m(W)×4.0m(H)のアルミボディを架装した大型観光バス (3) LAKSANA(ラクサナ) LEGACY SR3 ULTIMATEを発表。
SCANIA製シャシーに13.5クラスのスーパーハイデッカーボディを架装した大型長距離/観光バス。
ちなみにLAKSANAはtransjakarta向けSCANIA連節バスや低床一般路線バスの架装を最初に手がけたカロセリです。 二輪にも電動化の波が
四輪車に並んで同規模のブースを構えていたALVA社と、部品・用品コーナーに数社が二輪車や電動二輪車を出展していました。 ALVA インドネシアローカルスタートアップALVA社がイタリアンデザインの“ONE”を発表。最高時速90キロ、航続可能距離は1電池で70キロ。60V・45AH電池は交換式で2個搭載可能です。
充電器も自社で用意していたのはALVA社だけでした。デザインスタディモデルも含めてなかなかのカッコ良さで来場者の食いつきも抜群でした。プレゼン手法などざっと見た感じ、インドネシア二輪EV界のテスラを狙っているような感じを受けました。
こちらの人たちは男女関わらずカッコいい(男らしい機械的な、ガンダム的な)二輪車が好きなので少なくともデザイン的には成功する要素を持っています。 ホンダ二輪・セグウェイ・その他 ホンダ二輪が数モデルを出展していたことと、セグウェイが二輪EVで市場参入を発表したことがトピックです。
これ以外にも二輪・三輪EVが何社か出品していました。大半のメーカーがカセット交換式電池を採用しているのですが、すべてユニークなため汎用性がないのが難点です。
部品・用品関連も面白い
EVブームは始まっているものの充電インフラについてはちっとも進まないともっぱらの評判ですが、いくとかのPERTAMINA(プルタミナ=インドネシア国営石油会社=日本でもエンジンオイルを売り始めている)のガソリンスタンドには充電器の設置がされていて今後増えていくと言われています。その充電器(AC/DC)がブースに展示されていました。
日系メーカーも何社か出展しており、NGK、コニカミノルタ(ICE・μという三菱エクスパンダーに純正採用されているウィンドウフィルム)、ユアサの鉛電池(日本ではGS YUASA)がブースを出していました。ユアサは開放型、VRLA型電池のカットモデルを置き構造がよくわかる展示を行っていました。
鉛電池と言えば、AMARON(インド)も鉛電池各種を展示していました。
モーターショーと言えばミニカーを買う楽しみもありますが、今回は一店のみでした。 EVイッキ乗りコーナーは屋内で実施
排気ガスが出ないEVなので屋内で試乗会が行われ、誰でも「イッキ乗り」できました。のべ1万人以上がEVを体験試乗したとのこと。四輪車11ブランド、二輪車4ブランドが車両を提供。ウーリン・Air ev、eCanter、ポルシェ・タイカンを同じトラックで試乗できたのでとても貴重な機会だと好評でした。爆発的な加速のEVにシビれた来場者が多かったようでした。 総括
ジャカルタのショーの楽しみの一つがカロセリのバスを見ることと日系メーカーの商用車です。中韓勢は売れ筋が多いモデル帯にのみ参入するため、地味でサービスと耐久性が重要で商売に手間暇がかかる上に信頼感を得るのに時間がかかる商用車の世界には決して参入しません。
商用車系をしっかりやることはブランドロイヤルティの醸造には必須だし、乗用車系への信頼度にも直結するので、ここに中韓勢が参入してこない限り日系の地位は盤石だと言えます。
意外におもしろかったのが二輪EVの世界です。地元のスタートアップがけっこう盛り上がっていました。ホンダがPCXエレクトリックの実証実験をインドネシア・バンドンで行っていたときに、交換式サブスク電池の可能性を見つけ、同時に初期加速は良くても加速に頭打ち感があるEVの欠点も浮き彫りになりました。電池の方は、規格統一がされていないので、システムとしては良くても全くない汎用性がきっと問題になるでしょうし、加速感をユーザーがどう判断するのか?という点も気になります。
いずれにしてもスタートアップがもりもり出てくるのは楽しみなことです。 (取材・写真・文:大田中秀一)
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