熟成された完璧なパッケージング
ランボルギーニが、トリノ・モーターショーでまったく新しいミドシップ・シャシーを発表したのは1965年。数年後の1968年に発表されたフェラーリ365 GTB/4、通称「デイトナ」は、エンツォ・フェラーリ氏の決意で満ちたモデルといえた。
【画像】FRの通称デイトナ フェラーリ365 GTB/4 先代の275 GTB 現行の812シリーズも 全109枚
それまでの275 GTBは、前世代的に見えるようになっていた。だが、FRレイアウトを採用したいという気持ちに、抵抗することは難しかったのだろう。あるいは、従来的なフェラーリへの需要を、エンツォは察していたのかもしれない。
結果として、数字は彼の判断が正しかったことを証明した。1973年の製造終了までにラインオフしたデイトナは、ベルリネッタとスパイダーの合計で1406台。ミドシップ・スーパーカーという新たな潮流を生み出した、ミウラの2倍近い台数が売れた。
フロントにV型12気筒エンジンを搭載するフェラーリは、23年後の550マラネロまで空白ができるが、デイトナが残した影響は大きかった。「これまで試乗することができたモデルのなかで、最もエキサイティング」と、1971年9月のAUTOCARは評している。
新時代を告げるデザインと設計で、ミウラは人々を驚かせた。一方のデイトナは、熟成された完璧なパッケージングに仕上がっていた。素晴らしいシャシーを、魅惑的なピニンファリーナのボディが包んでいた。
ミウラに劣らず現代的でもあった。ランボルギーニのラインナップでは叶え難かった、長距離グランドツアラーとしての高い能力が備わっていた。
50年以上前のモデルとして、圧巻の動的能力
動的能力は世界最高水準。レーシングドライバーのダン・ガーニー氏とブロック・イェイツ氏によるドライブで、1971年に開かれた北米の公道レース、キャノンボール・ベイカー・シー・トゥ・シャイニング・シー・メモリアル・トロフィーを優勝している。
ニューヨークからロサンゼルスまで、約4628kmの距離を35時間54分で横断。平均時速は約128.9km/hを記録した。「280km/h(デイトナの最高速度)も出してはいませんよ」。と、後に冗談交じりでガーニーは記録を振り返っている。
同じ頃を生きたミウラも、最高速度は280km/hに達していた。どちらも1960年代後半から1970年代前半にかけて、世界最速の量産車という肩書きを得る実力を備えていた。
それでも、安定的に超高速域で走れる技術を展開できていたのは、フェラーリ。ランボルギーニは、フロントが浮き上がろうとする課題を解決するまでに5年を要している。
当時のAUTOCARが計測した数字を振り返ると、0-97km/h加速は5.4秒。0-400mダッシュは13.7秒で、到達速度は167.3km/hだった。209km/hから241km/hまでの中間加速も10秒でこなした。50年以上前のモデルとして、圧巻の内容だと思う。
デイトナの基本的なハードウェアは、先代の275 GTBから受け継いだものだった。そこからスーパーカー世代に準じた能力を引き出した、フェラーリの技術力には改めて感心させられる。
前身の275 GTBから始まるデイトナの物語
今回、象徴的なFRフェラーリを振り返るため、英国編集部が用意したのは3台。丁寧に時間を重ねてきた、プレキシガラス・ノーズの365 GTB/4 ベルリネッタと、見事な状態にある365 GTS/4 スパイダー、手が加えられた365 GTB/4 コンペティツィオーネだ。
デイトナの物語は、前述の通り1964年の275 GTBから始まるといえる。ところがこちらは、さらに先代となる1952年の250GT SWBほど、優れた評価を得ていない。
その理由の筆頭だったのが、ピニンファリーナによる肉厚なスタイリング。当時のライバルモデルと比較して、美しく先進的な容姿とはいえなかった。それでも、ボディの内側は250シリーズから確実に進歩していた。
エンジンは、技術者のジョアキーノ・コロンボ氏が設計した3.3LのV型12気筒で、リアアクスル側にトランスミッションを配置するトランスアクスル構造を採用。サスペンションは、前後とも独立懸架式を得ていた。
1966年にはアップデートを受け、エンジンのヘッドにはカムシャフトが2本追加され、ツインカムに。キャブレターは3基増やされ6基となり、275 GTB/4へモデル名も改められている。
しかし、275シリーズの開発は限界を迎えていた。フェラーリは、ピニンファリーナへ後継モデルのデザインへ着手するよう、早々に依頼していたという。
その頃、ピニンファリーナで才能を発揮していたのは、レオナルド・フィオラヴァンティ氏。ミドシップのディーノ206の開発へ取り組むさなか、新しく導入された風洞実験技術を応用したデイトナのボディを描き出した。
ツインカムのティーポ251コロンボ・ユニット
開発コストを抑えるため、275シリーズのスチール製マルチ・チューブラー・シャシーを利用。センターセクションを約50mm拡大し、トレッドが広げられた。前後とも不等長のウイッシュボーンを用いた独立懸架式サスペンションも、先代譲りといえる。
5速マニュアルのトランスミッションは、重量配分を均等にする目的でトランスアクスル化。ブレーキは、前後にベンチレーテッド・ディスクが組まれた。
フロントに積まれたバンク角60度のV型12気筒エンジンは、当時トップクラスの性能を誇った。1966年のフェラーリ365 カリフォルニアから投入された、アルミニウム製のティーポ251コロンボ・ユニットは、275シリーズより大排気量の4390ccを得ていた。
また365 カリフォルニアではシングルカムだったが、275 GTB/4のようにツインカムへ変更。スチール製のクランクシャフトはメインベアリング7枚が支え、バンク内に6基のツインチョーク・ウェーバー・キャブレターが並んだ。
その結果、最高出力は357ps/7500rpmを達成。最大トルクは43.8kg-m/5500rpmを発揮した。エンジンの高さを抑えるため、ドライサンプ化されていた点も特長だろう。
アルミニウム製の2シーター・ボディを製造したのは、スカリエッティ社。フェラーリとは、長年のパートナー関係にあった。
365 GTB/4の初期のプロトタイプが完成したのは、1967年の秋。275 GTB/4用のエンジンが載り、スタイリングもフロント周りを中心に先代の面影を残していた。
この続きは中編にて。
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みんなのコメント
花の高三トリオだった…。