9月2日から10日にかけてドイツで開催されたIAAモビリティ2023において、フォルクスワーゲンは高性能EVコンセプト「ID.GTI」を初公開したが、社内ではすでに市販化に向けた開発が進められている。技術開発責任者のカイ・グリューニッツ氏は、市販モデルのベースとなるMEBエントリー・プラットフォームについて、「GTI気分を味わえるだけのパワーと加速を、このクルマに与えることができる」と述べた。
ID.GTIは、フォルクスワーゲン史上初のフル電動GTIモデルとなる。グリューニッツ氏は走行可能なプロトタイプが存在することを認めており、IAAモビリティ2023で披露されたID.GTIよりもボディサイズとエクステリアデザインの過激さをやや抑えているという。また、「軽快なステアリングフィールと、非常にスムーズなコーナリング」を追求し、電子制御ディファレンシャルによるハンドリングの向上に取り組んでいるとのこと。
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グリューニッツ氏は「軽快で、ダイレクトで、ダンパーのセッティングによって路面を感じられるようなクルマにしたいと思っています。高速かつスムーズで、ID.2all(次期ID.2)よりも多くのパワーを必要とします」と述べている。
ID.GTIの市販モデルは、ベース車両の次期ID.2と同じサイズのバッテリー(56kWh)を使用するが、適切な電圧と冷却性能を確保するためにハードウェアに変更が加えられる。モーターはアップグレードされ、より大きなパワーを発揮する。
また、内燃エンジンのGTIモデルにインスパイアされた独自の合成サウンドが与えられるが、この機能は任意でオフにすることができる。ただし、一部他社で検討されているようなトランスミッションの変速シミュレートは導入されない。
グリューニッツ氏は「みんなを笑顔にする」という2~3個の特殊なガジェットや機能を開発中であると付け加えた。
ファンに愛されてきた「GTI」を電動化するワケ
ID.GTIは、電動車が主流となった未来においてもGTIの伝統を受け継いでいくというフォルクスワーゲンの所信表明である。「愛されるブランド(Love Brand)」をモットーとする同社にとって、ID.GTIは新時代の草分け的存在となるだろう。
トーマス・シェーファーCEOはフル電動GTIモデルに対する明確な意思表示として、「当社のEV攻勢の一環として量産化がすでに決定しています。GTIはスポーティで、先進的で、親しみやすいモデルであることに変わりはありませんが、未来の世界に向けて新たな解釈を加えました。エレクトリカルで、フル・コネクテッドで、極めてエモーショナルです」とコメント。
フォルクスワーゲンの高性能EVには約2年前から「GTX」という新しい名称が用いられるようになったが、新たにCEOに就任したシェーファー氏は「象徴的な名称を捨て去るのはどうかしている」と発言するなど、ユーザーに長年親しまれてきた「GTI」の名称を残す方針を示していた。ID.GTIはそのコミットメントを具体化したコンセプトカーと言える。
これまでと同様、GTIの名称は前輪駆動の高性能モデルにのみ適用される予定だ。フォルクスワーゲンによると、GTXの名称は引き続き四輪駆動のスポーツモデルに使用され、「R」の名称は最もパワフルなEVにのみ使用されるという。
ID.GTIは、既存のMEBを短縮した「MEBエントリー」と呼ばれるプラットフォームをベースとしている。フロントマウントの電気モーターと「大容量」を謳うバッテリー(ID.2と同じ56kWhの見通し)が搭載される。
性能などの詳細はまだ公表されていないが、ID.GTIと関連性が深いモデルに兄弟ブランドのクプラ・ラヴァルがあり、最高出力230ps、0-100km/h加速6.9秒、航続距離440kmを達成すると謳われている。これはアバルト500e、アルピーヌA290、ミニ・クーパー・エレクトリックといったホットハッチのライバルに対して有利に立てる性能だ。
スポーティながら見慣れたエクステリアデザイン
スタイリングとしては、ジョルジェット・ジウジアーロ氏による初代ゴルフのシンプルなデザインに着想を得ながら古典的なGTIのテイストをふんだんに盛り込み、敬愛されるモデルの伝統を守ろうというブランドの意思を表している。
エアカーテンが強調されたフロントバンパー、縦型LEDデイタイムランニングライトなどが特徴的だ。下部にはハニカム形状のエアダクトと、レッドカラーの牽引フックが配置されている。
「VW」のエンブレムはホワイトにライトアップされ、夜間に印象的な外観を演出する。8本のダブルスポークデザインの20インチホイールをクリアするため、オーバフェンダーが装着されている。
リアには、ダウンフォースと高速安定性を向上させる大型スポイラーが装備され、3Dライトグラフィック、赤くライトアップされたエンブレム、「GTI」のグラフィック、ボリュームのあるブラックのリアバンパーを特徴とする。
コンセプトではID.2allより車高を15mm下げてスポーティ性を高めているが、市販モデルでもハードなサスペンション・セットアップの設定が予想される。
フォルクスワーゲンのデザイン責任者であるアンドレアス・ミント氏は、「ID.GTIコンセプトによって、GTIのフィロソフィーに素晴らしい未来があることを示しました。最初にID.2を描いたとき、わたしはすでにGTIを念頭に置いていました。それが今、現実のものとなり、GTIのアイデアを電動モビリティの新時代に投影することを可能にしているのです」と述べている。
ボディサイズは全長4104mm、全幅1840mm、全高1499mmと、現行のポロGTIよりもわずかに大きい。
デザイン主導型を目指すフォルクスワーゲン
インテリアにもGTIらしいデザイン要素が受け継がれており、12時位置の赤いマーカーが特徴的な3本スポーク・ステアリングホイール、チェック柄の「Jack-e」と呼ばれる新しいシート生地、インフォテインメント操作用のゴルフボール型ダイヤルが採用されている。
10.9インチのデジタル・ディスプレイは、初代ゴルフGTIのメーターによく似た「アナログ」モードに設定可能。12.9インチのセンタータッチスクリーンも、過去とリンクしたさまざまなテーマを表示することができる。ゴルフGTIのラリーの歴史にちなんで、ヘッドアップディスプレイはドライバーとパッセンジャー前方のフロントガラスに情報を映し出す。
標準のID.2と同様、ID.GTIは5名まで乗車可能。ラゲッジスペースは490Lで、リアシートを倒すと最大1330Lに拡大できる。リアシートの下には50Lのロック可能な収納スペースがあり、充電ケーブルなどを収納できる。
ID.GTIは「スタイリッシュ」であることを強調しているが、これはフォルクスワーゲン・グループCEOのオリバー・ブルーメ氏が「デザイン主導型」の企業を目指しているためだ。IAAモビリティ2023で、同氏は「研ぎ澄まされたデザイン・アイデンティティによって個性的な製品を生み出し、ブランドの差別化を強化します。エクステリア、インテリア、そしてデジタル・プレゼンスにおいても」と述べた。
既存のゴルフについては、排ガス規制対応のためマニュアルトランスミッション(MT車)の設定が廃止される見通しである。グリューニッツ氏は今年初め、「次世代ゴルフでは、マニュアルのギアシフトは存在しないでしょう」と発言している。しかし、次期排ガス規制ユーロ7はまだ批准前で変更される可能性もあるため、MTの完全廃止は正式には承認されていないようだ。
米国では8月末、ゴルフGTIのMT最終モデルとして特別仕様車「380エディション」が設定された。ブラックとレッドを内外装のアクセントカラーとし、専用色グラファイトグレーメタリックがオプションで用意される。また、ハンドリングパッケージのダイナミック・シャシー・コントロール(DCC)が標準装備される。
VWデザイン責任者のアンドレアス・ミント氏へ独占インタビュー
――ID.GTIコンセプトの制作期間は?
「それほど多くはなく、たった3か月です。しかし、頭の片隅にはGTIのID.2がありました。わたし達はこれをスポーティなハッチバックのデザインとして考えていたので、作るのは簡単でした。ベースの時点ですでにとてもいいものでした」
――通常はどれくらいの時間がかかるのでしょうか?
「もっとかかりますよ。インテリアやHMIをすべて作るとなると、コストが相当かかりますし、時間もかかる。今のところ内装はアニメーションだけですが、全体像がつかめると思います。クルマの内と外には同じテーマが流れていて、両者をリンクさせています」
――デザインで気に入っている部分は?
「ホイールです。(初代ゴルフGTIの)クラシックなスチールホイールのデザインをアルミでリメイクしたものです。このようなホイール処理は今まで見たことがありません」
――このコンセプトの出発点は?
「GTIはわたし達にとってアイコンであり、EVのアイコンとして作り直そうと考えました。すべてのGTIから最高のデザインの断片を集め、それを使って新しいことをしたのです」
――個人的に好きなGTIは?
「初代ゴルフGTIです。その純粋さは、とても綺麗ですね。5000台しか計画されなかったGTIが、今では270万台も売れている。(ID.GTIの)全長は4.1mで、初代GTIと近いですね。しかし、室内空間ははるかに広い。エモーショナルで合理的なので、奥さんやご主人にアイデアを売り込むのが簡単なんです!」
――ポロGTIとゴルフGTIのどちらに近いのでしょうか?
「モデルではなく、GTIそのものに焦点を当てました。GTIをアイコンにしたものは何だったのか? その上に何を乗せられるか? ID.2はGTIにとてもよくマッチしています。安定感があり、好感が持て、秘伝のソースが使われている。この3つはフォルクスワーゲンを再び『愛されるブランド』にするための要素です。わたし達はそれを親しみやすくフレンドリーなものに仕上げた。過剰に攻撃的でもない。一部のホットハッチでは、特定の状況下できまりの悪さ(恥ずかしさ)を感じることがありますが、ゴルフGTIではありません。これは『わたしの大切な乗り物』であって、ボーイレーサーカーではないんです」
――デザインにおける『安定感』とは?
「力強く見えて、平坦に見えないもの。ビートルは、板金に安定感を与えるためにあのような形をしていました。安定感には大きな意味があり、転んでしまうようには見えません。そのため、丈夫で安定して見えるように、力強いCピラーを採用しています」
――ID時代のGTIにはどのモデルを使うのですか?
「どこにでも使うつもりはありません。一部のセグメントでは、効果的なアプローチが他にあります。ホットハッチはスタート地点です」
――RやGTXについてはどうですか?
「GTIはより現実的な世界で、ホワイトカラーのRよりもブルーカラーですね。Rはどちらかというとレコードブレーカー、ニュルブルクリンクのためのクルマ。GTXは特定のセグメントに入るもので、四輪駆動です。これ(ID.GTI)は前輪駆動で、GTIは前輪駆動のためのものになります」
――ID.2 GTIはどのくらいの価格を目指しているのですか?
「今日のところは申し上げられません。ID.2は、2万5000ユーロ(約395万円)で提供したい。この価格でこれほどのものは他にはないでしょう。初代GTIのように、より安く、より親しみやすく、より人々のためのクルマで人々を納得させることができます」
――大きなクルマより小さなクルマを作る方が楽しいですか?
「ベントレーでの仕事はとても楽しかったですよ! バトゥールも短期間で完成した素晴らしいプロジェクトでした。あの時は本当に楽しかったけれど、今回もまた楽しかった。ベントレーではブランドについて、そしてブランドとは何かについて多くを学びました。1年で女王陛下のクルマを作り、ル・マンで優勝した。それがベントレーの強さであり、すごいところなんです。わたしはエモーショナルと実用性をミックスさせるような、同じようなことができないかと思い、フォルクスワーゲンに来ました」
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