昭和は遠くなりにけり・・・か。以前に連載した「昭和の名車」では、紹介しきれなかったクルマはまだ数多くある。そこで、1960年代以降の隠れた名車を順次紹介していこう。今回は「日産 マーチR」だ。
日産 マーチR(EK10FR型):昭和63年(1988年)8月発売
ベーシックなリッターカーとして1982年(昭和57年)に誕生した初代マーチは、旧プリンス系の荻窪事業所で開発された最後の車両であり、同一モデルが9年3カ月という国産車では異例の長期間生産された。車両の素性の良さに目を付けた日産は、1984年からK10マーチのワンメイクレース「マーチカップ」を開催するなどモータースポーツの裾野拡大を図ってきたが、モータースポーツファンの心を揺さぶったのは1985年のマイナーチェンジでターボ仕様が設定された時だった。
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「リッターエンジンとして世界最高の出力・トルク性能の追及した」というMA10E・T型は、水冷式小型ターボとECCSによるシーケンシャルインジェクションの採用などで、最高出力85ps/6000rpm、最大トルク12.0kgm/4400rpmを発生し、ベースエンジンより18psと4.0kgm増大していた。専用のクロスレシオ・トランスミッションとの組み合わせで発揮される圧倒的な動力性能で、全日本ラリー選手権では1986・87年の2年連続Aクラスのチャンピオンに輝いている。しかし、1988年からターボ係数が1.4から1.7に上がる規定変更が公表され、マーチは1.6L以下クラスに残るためには排気量を縮小する必要に迫られた。
そこで開発されたのが1988年に登場したラリー専用車「マーチR」だ。エンジンはMA10のボアを2mm詰め総排気量930ccとしたものだが、大幅な出力向上と全域にわたる高トルク、鋭いレスポンスを実現するため、ターボチャージャーとルーツ式スーパーチャージャーを直列に装着した、日本初のツインチャージドシステムを搭載していた。作動制御は、低回転域ではバイパスコントロールバルブ(BCV)を全閉してスーパーチャージャーで過給。回転が上がりターボチャージャーが効き始めると、BCV開度を制御しスーパーチャージャーの過給圧を制御する。駆動損失が大きくなる4000rpm付近で電磁クラッチをOFFにしてスーパーチャージャーの作動を停止し、ターボチャージャーのみで過給する、というもの。
ターボチャージャー自体もMA10E・T用よりタービン径を4mm、コンプレッサー径を14mm大型化して最大過給圧を400から700mmHgに上げたHT-10型に交換。これに理論吐出空気量880cc/revのASN-09A型スーパーチャージャーを組み合わせる。さらに空冷インタークーラーを装着して最高出力110psを達成。パワーウエイトレシオ6.72kg/psを実現した。
シャシも専用チューンされ、超クロスレシオの5速MT、ビスカスLSD付きフロントデフ、フロントスタビライザー追加、フロントブレーキディスクローターの大型化に加え、ダンパー/コイルスプリング/ブッシュを強化した専用サスペンションをセットするなど、110psのパワーを余すところなく使い切るポテンシャルが与えられている。
仕様は装備なしのノーマルと、全装着のタイプ1、主要装備に限ったタイプ2とタイプ3の4種があり、タイプ1は、ロールバー/大型フォグランプ/マッドガード/NISMOステアリングホイール&革巻きシフトノブ/フルハーネスシートベルト/オイルクーラーなどそのままラリーに参戦できる仕様となっていた。
マーチRの性能は魅力だがラリー専用では困ると、Rと同じ性能を持った市販モデルを望む声が高まり、1989年のマイナーチェンジを機に追加されたのが3ドアハッチバック・スーパーターボだ。Rと同じエンジン、インタークーラー用エアインテーク付きボンネット、大型フォグランプ、別置き3連メーターに加え、専用のルーフスポイラーで武装したスーパーターボは、最強のリッターカーとして若者の憧れになっている。R+6万円高(5速MTは130万8000円)の価格設定や、3速ATが用意されたことでも魅力を加速させていった。
日産 マーチR 主要諸元
●全長×全幅×全高:3760×1560×1405mm
●ホイールベース:2300mm
●重量:740kg
●エンジン型式・種類:MA09ERT型・直4 SOHCターボ+S/C
●排気量:930cc
●最高出力:110ps/6400rpm
●最大トルク:13.3kgm/4800rpm
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:155SR13
●価格:124万8000円
[ アルバム : 日産 マーチR はオリジナルサイトでご覧ください ]
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