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RX-8、そして発電用ロータリーへ ロータリーエンジンの歴史を振り返る【最終回】

掲載 更新 6
RX-8、そして発電用ロータリーへ ロータリーエンジンの歴史を振り返る【最終回】

 ロータリーエンジンを振り返るシリーズの最終回は、市販ロータリー最強のパワーを誇った3ローターの20BとRX-7の後継スポーツモデルとして登場したRX-8を振り返ろう。

 RX-8には環境に配慮したRENEIS 13B-MSPが搭載された!

時代に翻弄されたマツダ5チャンネル 痛恨の失敗とバブルの真相とは

文/鈴木直也、写真/Mazda、ベストカー編集部

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■史上最強のロータリーエンジンは空前絶後の3ローター!!

空前絶後の3ローターエンジン20B-REWを搭載して登場したユーノス コスモ

 さて、これまで13B型の変遷について述べてきたわけだが、ここで時計の針を1年半ほど戻し、史上最強のREについても説明しておかなければならないだろう。

 1990年4月にデビューする4代目コスモ(ユーノスコスモ)には、史上空前そして絶後となる3ローターREが搭載されていた。

 20B-REW型と名づけられたこのエンジンは、基本的には13B型にもうひとつローターを追加したもの。654cc×3=1942ccで20Bと命名されている。

 ひとつローターを追加、こんな風に書くとコトは簡単なように思えるが、REの場合2ローター以上のマルチローターを実現するにはエキセントリックシャフトを分割構造にしないと成立しない。

 これはレシプロに例えるなら直6エンジンのクランクシャフトを前後2分割にするようなもので、強度・剛性の確保や、高い精度を要求される接合技術など、量産車としては例のない技術的チャレンジとなる。

 20B-REW型は半月キーで嵌合するテーパー継手を採用してこれを実現しているのだが、これはレース用の3ローターREや4ローターREとまったく同じ方式。ルマン24時間で耐久性を実証した技術が、そのまま市販車に応用されているといっても過言ではない。

 過給システムも凝ったもので、量産車としては世界初のシーケンシャルツインターボを採用。低負荷領域ではプライマリータービンのみが稼働し、負荷が大きくなるとセカンダリータービンにも排ガスが供給されてフルブースト状態になるというもの。全回転域でレスポンスとトルク特性を向上させる狙いだ。

■強大なトルクはマツダ技術者たちの夢の結晶

運輸省の行政指導により280ps/6500rpmというスペックに甘んじたユーノス コスモだったが、トルクの強大さはかつて経験したことのないレベルだった

 ただ、惜しむらくはこのエンジンのデビュー直前に運輸省(当時)が280ps自主規制という馬鹿馬鹿しい行政指導を行ったこと。その巻き添えとなった20B-REW型は、280ps/6500rpm、41.0kgm/3000rpmという本来の実力とはかけ離れたスペックでデビューせざるを得なかった。

 ちなみに、ユーノスコスモには13B-REW搭載のバリエーションも用意されていて、そのスペックは230ps/30kgm。となれば、20B-REW型の実力はその1.5倍の345ps/45kgmくらいあっても不思議ではない。本来持てるパフォーマンスをフルに発揮できなかったという意味では、20B-REWは悲運のREと言わざるを得ない。

 しかし、カタログ値はともあれ、実際に走らせた時の20B-REW搭載コスモのパフォーマンスは凄まじいものがあった。

 ぼくは当時ベストカー本誌で谷田部テストを担当したのだが、ATなのにゼロヨンのスタートではホイールスピンでバーンナウト状態。トルクの強大さはかつて経験したことのないレベルで、実際にはカタログ値以上の数字が出ていたに違いないと今でも思っている(ちなみに最大トルクには自主規制値はない)。

 バブル期には日本の各メーカーからさまざまな高性能車が登場したが、それらはユーザーの飽くなき欲望に応えると同時に、エンジニアにとっても「いちど造ってみたかった!」という夢の実現でもあった。

 そういう意味では、20B-REW型3ローターREはマツダの技術者の夢が結晶したようなエンジン。商業的にはおそらく大赤字だったと思われるが、歴史に残るレジェンドと評価したい。

 ただし、やりたかった技術テーマをやり尽くした20B-REW型によって、マツダREの歴史はいちど燃え尽きたという観はある。

■フォード傘下で迎えた大きな危機と思わぬチャンス

フォード傘下で厳しいコスト管理が行われた頃、マツダロータリーは3代目RX-7用の13B-REW型を残すのみとなっていた

 その後のマツダはバルブ崩壊のあおりで経営危機に見舞われ、1996年にはフォードからの出資比率が25%から33.4%に引き上げられてヘンリー・ウォレスが初の外国人社長に就任する。

 バブル崩壊後の景気低迷期に求められたのは何よりもコストダウン。フォード傘下で厳しいコスト管理が行われ、REは再び存続を危ぶまれる事態に追い込まれてしまう。

 おりしも、1996年には4代目コスモの生産が終了し、REは3代目RX-7用の13B-REW型を残すのみ。もはやREの命運は尽きた。誰もがそう思っていた。

 ところが、世の中というのは面白いもので、ここから思いもかけない奇跡が起こる。

 きっかけを造ったのは、REをなんとか存続させるべく活動していたマツダの技術者有志だったが、彼らがこっそり温めていた次世代ロータリースポーツの企画案に、なんとフォードからやってきた技術担当役員が食いついたのだ。

 英国人マーティン・リーチとその後継者となった米国人フィル・マーテンス。この2人の“ガイジン"が居なければRX-8は生まれなかった。担当主査を務めた片渕昇をはじめ、すべてのマツダ技術者がそう口をそろえるほど、彼らは熱烈な応援団となってフォード本社にRE復活を粘り強く訴えるのだ。

 その成果が、2003年にデビューしたRX-8と、それに搭載された“RENESIS"13B-MSP型である。

■最後のロータリーと未来のロータリー

2021年現在、最後のロータリーエンジン搭載車となっているマツダ RX-8。フォードの技術担当役員がいなければ誕生しなかったロータリースポーツだ

 燃費規制の強化を見越してNAとなった13B-MSP型は、デビュー以来はじめて排気ポートをペリフェラルからサイドに変更。吸気ポートはノーマル仕様の4ポートとハイパワー仕様の6ポートの2種が用意され、ハイパワー仕様で追加された2つの補助ポートはモーター駆動の可変ポート(S-DAIS)として機能する。

 ターボを廃した結果パワー特性は徹底した高回転型となり、ノーマル仕様で210ps/7200rpm、22.6kgm/5000rpm、ハイパワー仕様で250ps/8500rpm、22.0kgm/5500rpmというスペック。

 初代コスモスポーツを彷彿させるような高回転型REが21世紀に復活するとは意外だったが、高回転領域でのフリクション増加がレシプロに比べて緩やかなのがREの特徴。高回転型エンジンが生き残る余地が、レシプロよりほんの少し大きかったわけだ。

 RX-8の生産が終了した2013年4月以降、現在まで市販REは絶版となっているが、REファンにとっての朗報は2020年にレンジエクステンダー用エンジンとしてRE復活するというニュース。

 これまでのREとはまったく異なる発電専用エンジンで、スペックその他すべて未発表なのだが、やはりマツダにとって市販REの復活はブランド戦略的にも無視できない。電動化時代のREの登場を、ぼくも大いに楽しみに待ちたいと思います。

マツダのお家芸となった『未来のエンジン』 ロータリーエンジンの歴史を振り返る【第1回】

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みんなのコメント

6件
  • 本社の経営陣がまったくやる気がないから無駄
  • 8は頑張って作った感がすごかったね。キャブ時代に6PIてロクでも無いのの技術を再度使って
    8初めて乗った時SA22Cの昭和55~56年位のと似てるなと思った。
    ロータリーは今更燃焼時間がゆっくりしてる位しかメリットないから、どうなんでしょうねぇ
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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