現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第13回:フェラーリ 360シリーズ】

ここから本文です

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第13回:フェラーリ 360シリーズ】

掲載 更新
池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第13回:フェラーリ 360シリーズ】

ちょっぴりナンパなモダン・フェラーリ

名作『サーキットの狼』の第二章として1989年から週刊プレイボーイで連載が始まった『サーキットの狼II モデナの剣』は、主人公である“剣・フェラーリ”が愛車のフェラーリ 348と共に時代を駆け抜ける物語。両作ともに自動車漫画のパイオニアであり、現在もカーマニアのバイブルとして愛され続けているのは周知の事実だ。

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第13回:フェラーリ 360シリーズ】

今回も『サーキットの狼』『サーキットの狼II モデナの剣』の生みの親であり、スーパーカーの“カリスマ”として名を馳せる池沢早人師先生をお迎えし、愛車として活躍した「フェラーリ 360シリーズ」について語って頂く。ディーノ 246に始まり、356BB、512BB、512BBi、308、348、テスタロッサ、F40、F355など、多くのフェラーリを乗り継いできた池沢先生にとって、360シリーズとはどんなクルマだったのだろうか・・・。

フェラーリ遍歴の中で「小休止」として入手

フェラーリは「速いクルマ」としてとても魅力的な存在だった。初めて手に入れたディーノ 246GTから始まり、BBシリーズや308QV、348、F355、テスタロッサ、F40など、何よりも走りを楽しむために手に入れてサーキットに持ち込むことも多かった。そんな「走り第一」な考えを一度捨てて、ちょっぴり“ナンパ”な気持ちで手に入れたのが「フェラーリ 360スパイダー」だ。

一度、360のクーペモデルである知り合いのモデナをツインリンクもてぎのサーキットで試乗したことがあったけど、アンダーもオーバーも微妙な感じで出る、ちょっぴり“あの348”を思い出すようなクセのあるものだった・・・。なのでボクが360スパイダーを選んだのは、そこまで攻めて乗る気分も出ないスパイダーってのを一回乗ってみようというのがきっかけだね。

デートカーとして活躍したスパイダー

ボクが53歳の頃だから2003年になるのかな? 鮮やかなイエローのボディが目を惹く360スパイダーはデートカーとして大活躍してくれた。ガールフレンドを誘って神宮外苑の銀杏並木で個人的に撮影会をしたり、気の利いたレストランへ誘ったりと、360スパイダーは最高の相棒になった。フェラーリというだけでも注目を集めるのに、フルオープンモデルはインパクトが凄かったと思う。ガソリンスタンドで出逢った青年が目を丸くして話しかけてきたことを今でもよく覚えている。

ボクのフェラーリ遍歴の中でもフルオープンモデルは初めてだった。走りを考えた時にどうしてもボディ剛性を優先してしまい、「快適性」とか「遊び心」を持つことができなかったんだよね。でも、初めてのフルオープンフェラーリは楽しかった。走りに対して寛容になれたし、気持ちに余裕を持ってドライブを楽しむことができた。ボディ剛性や足まわりのセッティングに目くじらを立てることなく、広い空とデートを満喫するなんて初めての経験。デートの約束を取り付け、約束の場所に360スパイダーで登場した瞬間、女性の表情が「驚き」と「笑顔」に変わる。もう、それが楽しくてねぇ。

360モデナはF355の後継モデルになるんだけど、フルモデルチェンジによってそれまでのV8フェラーリの系譜とは異なる新たな時代のクルマへと進化を遂げていた。ピニンファリーナによるボディデザインは緩やかな曲線を纏い、F355のシャープなスタイルから一変してエレガントなスタイルへとイメージチェンジされ、リトラクタブル式のヘッドライトは異形の埋め込み式に変更された。

BBやカウンタックで築き上げられた「スーパーカー=リトラクタブル」のイメージを覆したV8フェラーリのファーストモデルだってことだね。リトラクタブルヘッドライトの場合、ヘッドライトという重要なポイントが隠されていることでどうしてもフロントの表情が似てしまう。埋め込み式にすることでデザインの幅が広がりスタイルにも独自性が生まれるから個人的にはヘッドライト方式の変更は大歓迎だった。

オープン時のスタイルはベルリネッタよりスポーティ

360モデナの場合、ヘッドライトからフロントフェンダーにかけての曲線が美しく、サイドの切れ上がったキャラクターラインとのコンビネーションも絶妙だ。前後のバンパーに開けられた大きなダクトも個性的で、このスタイルが後のスーパースポーツのトレンドになった。サードパーティのエアロパーツの多くは360モデナのデザインがベースになったと言っても間違いではないと思う。

それにスパイダーの場合、屋根を開けた時にルーフパネルがない分だけボディの高さが薄くなるからスポーティさがアップするんだ。フロントからリヤにかけてのラインがシャープに見えて、カリフォルニアの風景が目に浮かぶようなセレブ感を楽しむことができる。ちょっと“やり過ぎ感”はあるけれど、ナンパなクルマとしては百点満点。“IT社長が買う始めてのフェラーリ”ってイメージだけどね(笑)。

実際の乗り心地は快適そのもの。サーキットに持ち込むことや峠を攻めることもなかったから、日常的なドライブではボディ剛性に不満を感じることもなくブレーキも十分なパフォーマンスを発揮してくれたと思う。特にオープン状態で走った時の爽快感は絶品。これはタルガトップのGTSでは味わえないフルオープンモデルならではの解放感だね。それに周りから注目を浴びる“主役感”は他のオープンカーで味わえない、まさに360スパイダーならではの醍醐味だ。

360スパイダーはデートカーとしては究極のクルマだったけど、唯一の弱点はマフラーの音が雑なこと。348やF355でマフラーを交換する楽しさを覚えてしまったボクはスパイダーでもマフラー交換を試みた。でも、どうしても好みのサウンドを出すことができず、そのストレスで手放してしまうことに・・・。

360シリーズの究極、チャレンジストラダーレ

そして・・・「好事魔多し」じゃないけれど、スパイダーを手放した翌年、出逢ってしまったのが「360チャレンジストラダーレ」だ。ナンパなスパイダーとは違って、走りに特化したモデナと聞いたら興味が沸かないはずもなく、ボクは吸い寄せられるように手を出してしまった。

当時は「フェラーリをナンパな道具にしちゃダメだ」と反省していたこともあり、やっぱり「フェラーリ=走る楽しさ」という台詞を理由にして手に入れたストラダーレは戦闘的なスタイルが“硬派”だった。スパイダーと両極端というか正反対のモデルだからね。スパイダーの時は「どの娘をデートに誘うか」だったけど、ストラダーレでは「どの峠を攻めようか」に変わっていた。

公道を走行できるレーシングカー

エンジンを掛けると乾いたV8サウンドは気持ちが良く、サイドサポートの利いたバケットタイプのドライバーズシートに座った瞬間アドレナリンがドクドクと溢れ出す。標準型の360モデナが持つ400hpから25hpアップされたパワフルさも走りの鋭さに貢献してくれた。ボディ剛性が高くてコーナリングが楽しめ、シャープなハンドリングはレーシングカーそのもの。

F355チャレンジからデザインを受け継いだパンチングメッシュのリヤグリル(編注:通称チャレストグリル)もカッコ良かったね。さらに自分らしさを加えるためにオリジナルのボディデカールで装っていたのもお気に入りのポイントになっていた。

不運に見舞われて・・・ちょっぴり切ない想い出

しかし、360チャレンジストラダーレとの蜜月はあっけなく終わってしまう。フェラーリの生誕55周年記念車であるエンツォ・フェラーリを取材するためストラダーレと向かった箱根。取材を終えてチャレンジストラダーレで帰ろうとしたら、突然大スピンを喫してしまった。これには驚いたねぇ・・・。今まで多くのフェラーリに乗ってきたけどスピンをしたのは初めてのこと。いきなりリヤが跳んで(なにっ!?って感じ)縁石にヒットしてしまい、ホイールとカーボンセラミックブレーキを壊してしまった。

スピンの原因はオイル。その場でエンジンルームを覗いてわかったんだけど、実はこの時チャレンジストラダーレのオイルフィラーキャップが外れていて、そこから吹き上げたオイルにタイヤが乗ってしまったんだ。多分、メンテナンスをした時にメカニックがフィラーキャップをしっかりと締めていなかったんだろうね。リヤタイヤにオイルが掛かってしまったらコントロールなんて不可能。むしろこの程度のダメージで終わったことが奇跡だったと思う。

このアクシデントをきっかけにチャレンジストラダーレへの愛情が薄くなってしまい、数ヵ月程度で手放してしまうことに。360チャレンジのストリート仕様だからかなり期待していたんだけど、縁が無かったのかなぁ・・・。恋愛の途中で破局してしまったような感覚は今でも忘れられない。もし、チャレンジストラダーレとの恋が続いていたらサーキットでも濃密なデートが楽しめていたと思う。今となってはちょっぴり切ない想い出だね。

Ferrari 360 Series

フェラーリ 360 シリーズ

GENROQ Web解説:V8フェラーリの新時代を築いた360シリーズ

F355の後継モデルとして1999年に登場した360モデナは、その排気量である3600ccの排気量が名前に与えられた。ボディデザインはピニンファリーナ社のダビデ・アルカンジェリが担当し、ディレクターとして日本人カーデザイナーである奥山清行氏がプロジェクトに参画している。

F355の特徴であったエッジの効いた直線的なデザインにピリオドを打ち、緩やかな曲線で構成されるエレガントなものへと生まれ変わった360モデナ。エアーダクトやドアアウターハンドルは女性のネイルをイメージしてデザインされ、基本的なスタイルはF355まで継承されたトンネルバックからファストバックへと変更。ガラス製のエンジンフードを採用することでミッドシップされるV型8気筒エンジンを望める視覚的効果も付加されている。

ベルリネッタのモデナ、オープンのスパイダー

オールアルミニウム製のスペースフレームと共にボディのアウターシェルにもアルミ素材を多用することで軽量かつ高剛性を実現。CD値も大幅に向上され、先代のF355と比較した場合には290km/hの走行時に4倍ものダウンフォースを発生し高速域での優れた走行安定性を披露する。

1999年に登場した同モデルには6速MTモデルの「360モデナ」とパドルシフトで変速が行えるセミオートマチック(F1マチック)を搭載した「360モデナF1」をラインナップ。2000年にはソフトトップを備えたフルオープンボディの「360スパイダー/360スパイダーF1」を追加。

ワンメイク用ベースの硬派なチャレンジストラダーレ

2003年から2005年にはワンメイクレース専用に開発された「360チャレンジ」の一般公道向けモデルとして「チャレンジストラダーレ」を発売。カーボンやアルミ素材を使ったレーシーなインテリアと、最高出力を25hpアップさせて425hpを誇るパワフルなV型8気筒ユニットが与えられている。徹底した軽量化によりその車両重量は1180kgとされ、標準型の360モデナと比べて110kgも軽くなっているのが大きな特徴。ちなみにストラダーレはイタリア語で「道路(公道)」を意味し、車名は「360チャレンジの公道仕様」を示している。

V8フェラーリを代表する特徴的な意匠であったリトラクタブル式ヘッドライトを捨て、新たな時代を切り拓いた360モデナ/360スパイダーだが、2005年に排気量を4.3リッターへとアップさせた「F430」へとスイッチしその役割を終えたのである。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

こんな記事も読まれています

先代「695」と乗り比べ アバルト500e 長期テスト(5) 魅力はそのまま 未来感が凄い!
先代「695」と乗り比べ アバルト500e 長期テスト(5) 魅力はそのまま 未来感が凄い!
AUTOCAR JAPAN
「なんで!? スマートキーが作動しない!?」焦るクルマのトラブル 便利だけど大きな弱点もある理由とは
「なんで!? スマートキーが作動しない!?」焦るクルマのトラブル 便利だけど大きな弱点もある理由とは
乗りものニュース
2列目シートも快適でフラットスペースも広いトヨタ ハイエースがベースのキャンパー
2列目シートも快適でフラットスペースも広いトヨタ ハイエースがベースのキャンパー
月刊自家用車WEB
なつかしすぎて涙。タミヤのRCバギー「グラスホッパー」が誕生40周年を記念し“トミカ”&“ミニ四駆”になった!
なつかしすぎて涙。タミヤのRCバギー「グラスホッパー」が誕生40周年を記念し“トミカ”&“ミニ四駆”になった!
くるくら
アルピーヌのガスリーが驚きの予選3番手「アグレッシブな低ダウンフォースパッケージを選択。予想外の結果を出せた」
アルピーヌのガスリーが驚きの予選3番手「アグレッシブな低ダウンフォースパッケージを選択。予想外の結果を出せた」
AUTOSPORT web
タナクがまさかのクラッシュ。ヌービルが悲願のタイトル獲得。トヨタが逆転ランキングトップ/ラリージャパン最終日
タナクがまさかのクラッシュ。ヌービルが悲願のタイトル獲得。トヨタが逆転ランキングトップ/ラリージャパン最終日
AUTOSPORT web
トヨタ「“2階建て”車中泊仕様」がスゴイ! 大人5人が寝られる「豪華ホテル」風内装! 広さ2倍になる“マル秘機能”も搭載する「謎のハイラックス」とは?
トヨタ「“2階建て”車中泊仕様」がスゴイ! 大人5人が寝られる「豪華ホテル」風内装! 広さ2倍になる“マル秘機能”も搭載する「謎のハイラックス」とは?
くるまのニュース
レクサス『LBX MORIZO RR』やマツダ『CX-80』、最新4車種にブリッツ「OBDモニター」が適合
レクサス『LBX MORIZO RR』やマツダ『CX-80』、最新4車種にブリッツ「OBDモニター」が適合
レスポンス
マジ!? 今が[ベストタイミング]!? 新車は買えなくなったホンダ[S660]を中古で探すぞ!!
マジ!? 今が[ベストタイミング]!? 新車は買えなくなったホンダ[S660]を中古で探すぞ!!
ベストカーWeb
トヨタWRC代表、タイトル獲得に向けラリージャパンで“チームプレー”徹した勝田貴元の「マネジメント力を見ていた」
トヨタWRC代表、タイトル獲得に向けラリージャパンで“チームプレー”徹した勝田貴元の「マネジメント力を見ていた」
motorsport.com 日本版
みなとみらいのヤマハ発信拠点で“外に繰り出したくなる”イラスト展開催 12月11日~15日
みなとみらいのヤマハ発信拠点で“外に繰り出したくなる”イラスト展開催 12月11日~15日
レスポンス
ルクレール、”チームオーダー無視”のサインツJr.を批判「優しくすると、いつも損をするんだ!」
ルクレール、”チームオーダー無視”のサインツJr.を批判「優しくすると、いつも損をするんだ!」
motorsport.com 日本版
F1 Topic:ホテルでも空港でも遊べる“ギャンブルの街”ラスベガス。気になる賭け率とガスリーの躍進
F1 Topic:ホテルでも空港でも遊べる“ギャンブルの街”ラスベガス。気になる賭け率とガスリーの躍進
AUTOSPORT web
異形の「センチュリーロイヤル」!? 唯一無二の“Sワゴン型”なぜ存在?
異形の「センチュリーロイヤル」!? 唯一無二の“Sワゴン型”なぜ存在?
乗りものニュース
クルマはいまやボディだけじゃなくてシートもコーティングが基本! 車内で飲食するなら「布シートコーティング」は必須だった
クルマはいまやボディだけじゃなくてシートもコーティングが基本! 車内で飲食するなら「布シートコーティング」は必須だった
WEB CARTOP
エンブレムが立ち上がった! メルセデスベンツ『EQS』が「電気自動車のSクラス」らしく進化 1535万円から
エンブレムが立ち上がった! メルセデスベンツ『EQS』が「電気自動車のSクラス」らしく進化 1535万円から
レスポンス
4連覇達成のフェルスタッペン、レッドブル離脱は考えていたのか? 内紛とライバル猛追に苦しんだ2024年を回顧
4連覇達成のフェルスタッペン、レッドブル離脱は考えていたのか? 内紛とライバル猛追に苦しんだ2024年を回顧
motorsport.com 日本版
もう“永遠の2番手”じゃない。ヌービル、悲願のWRC初タイトルは「諦めず頑張り続けたご褒美。残る全てはオマケだ!」
もう“永遠の2番手”じゃない。ヌービル、悲願のWRC初タイトルは「諦めず頑張り続けたご褒美。残る全てはオマケだ!」
motorsport.com 日本版

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1758.81884.8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

0.18880.0万円

中古車を検索
360モデナの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1758.81884.8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

0.18880.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村