2006年夏、クーぺモデルの登場もあって、E90型BMW3シリーズは大きな注目を集めていた。そこでMotor Magazine誌では、3シリーズの永遠のテーマとも言える「6気筒を選ぶべきか、それとも4気筒か」を検証すべく、330iと320iでその持ち味を考察している。今回はその比較試乗レポートを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年10月号より)
BMWはもともと4気筒エンジンに強いこだわりを持つメーカー
6気筒にするのか、それとも4気筒を選ぶのか。それは初代E21シリーズ以来続く、3シリーズ選びの永遠のテーマだ。
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今にして思えば、E30型あたりでは、上質な走りの6気筒、軽快なフットワークの4気筒といった性格分けが、よりハッキリとしていた感はある。しかし、この時からすでに表れていたエンジン搭載位置の後退、バッテリーの車体後部への搭載といったこだわりが、明確に50:50の前後重量配分という哲学に昇華したE36型になると、6気筒と4気筒のハンドリングの差はグッと小さくなった。それは、キープコンセプトのE46型でも同様である。
そして現行E90型では、その方向性がさらにラジカルに推し進められた。搭載する直列6気筒ユニットが、すべてマグネシウム合金製エンジンブロックによって軽量化を図った最新のN52型に置き換えられたのである。その効果は甚大で、6気筒と4気筒、各モデルの車両重量差は、E46型の時より明らかに小さくなっている。320iの車両重量が、同じ2LのE46型318iに対して70kg増なのに対して、330iが30kg増に留まっているのは、まさにその恩恵が大きいはずだ。
それならば、せっかくエンジン屋たるBMWのクルマを買うのだし、選ぶべきは6気筒だろう。そう思った途端、しかし脳裏には別の声がよぎる。エンジン屋だからこそ、4気筒だってそこいらのものとは格が違うんだぜ、という具合に。
今では直列6気筒がクローズアップされることの多いBMWだが、元々は4気筒エンジンに強いこだわりを持つ会社である。
革新的なメカニズムであるバルブトロニックを最初に投入したのは4気筒エンジンだった。かつてのF1やツーリングカーなど、モータースポーツのイメージが強いのも、やはり4気筒だ。いや、それより何より、本社ビルを4シリンダーデザインにしてしまったほどのメーカーなのだ、BMWは。
こうやって思いを巡らせているだけでもネタは尽きることなく、そしていつまでも結論には辿り着けない。
どちらを選ぶか、どちらが性に合うか。それを知るには、やはり実際にステアリングを握り、アクセルペダルを踏む。これしかなさそうだ。今回は、直列6気筒代表の330iと直列4気筒代表の320iを中心に、325i Mスポーツとそのツーリングを連れ立って、その走りを今一度、味わってみることにした。
トップエンドまでの回転の上がりが気持ち良い直6ユニット
まずは早速、330iから乗り込む。その心臓たるマグネシウム合金ブロックの直列6気筒ユニットは、排気量2996cc。最高出力は258ps/6000rpm、最大トルクは300Nm/2500~4000rpmというスペックを誇る。
何度乗ってもホレボレするのが、その低速からのピックアップの鋭さである。アクセルを踏んだ瞬間、即座に回転計の針が躍り、そして豊かなトルクがもたらされる。3000rpmあたりでも、踏み込んだ瞬間にグッと首が後ろに持っていかれる感覚を味わえるのは相当なものだ。これはまさしくスロットルバルブのないバルブトロニックならではのレスポンスと余裕ある排気量の相乗効果だが、そこはさすがチューニングには長けていて、ギクシャクとした扱いにくさは一切ない。
よって、そのまま低中速域だけを使っても十分に俊敏な走りを楽しめるのだが、やはりその個性が強烈に発揮されるのはトップエンドだ。むせび泣くようなサウンドを響かせながら7000rpmまで一気に上りつめる様は、何度味わっても飽きない快感。回転に若干の粗さがあることは認めるが、それでも、つい回したくなる刺激があふれているのである。
一方、フットワークについては、やや精彩を欠く感があった。サスペンションは硬めの味付けで、剛性感の高いボディと相まって、操舵に寸分の遅れなく追従する高い敏捷性を獲得している。しかし、路面が荒れていたりうねっていたりすると、当たり自体は硬いのに思ったよりストロークを拒まないサスペンションと、225/45R17サイズのランフラットタイヤの特性がかけ合わされて、ボディとバネ下が別々に煽られ暴れて、サスペンションが沈みきるとドスンッと揺り返すという、鈍重でフラット感を欠く動きを見せるのだ。
車重がさほど変わらないとすれば、この重さ感は一体何に拠るものか。サスペンションセッティングか、はたまたタイヤの銘柄か。いずれにせよ330i、少なくとも今回の走行条件では、嬉しくない面が多めに出てしまったという印象である。路面が良いところでは、最高にファンな1台なのだが。
それでも6気筒だというなら、325i Mスポーツはどうか。澄み切った回転フィーリングで高評価のそのパワーユニット。ボア×ストロークは330iの88.0×85.0mmに対して78.8×82.0mmと小さく、その分のブロック側の余裕が好フィーリングに繋がっていることは想像に難くない。排気量は2497cc。最高出力は218ps/6500rpm、最大トルクは250Nm/2750~4250rpmを発生する。
アクセルを踏み込んだ瞬間のトルク感は、さすがに330iより穏やかだ。しかし、回転上昇が目に見えて滑らかな故に無意識にアクセル開度は増していて、結果として十分な加速が得られる。無論、それには最終減速比が下げられていることも効いている。
さらにその先も滑らかさは一切損なわれることなく、トップエンドまでキッチリ回り切る。これなら今でも、最近言われることが少なくなった「シルキーシックス」と呼ぶに相応しい。トルクの薄さも、思い切り回してそれを楽しむにはちょうど良いとすら思えるほどである。
意外だったのは、Mスポーツということで期待していなかった乗り心地が、さほど悪くはなかったことだ。もちろん、ソフトだとは言わない。段差を乗り越える時などのショックは許容範囲ギリギリだ。しかし上下動をピタリと抑え込んだその設定は常に姿勢をフラットに保ち、いつまでもピッチング方向の動きが残る330iより、むしろ割り切れて良いと感じられた。
それでも、まだ硬過ぎるという人には、323iという手もある。この323iのエンジン、実は中味は325iと共通。しかしエンジンマネージメントの変更によって、最高出力は177ps/5800rpm、最大トルクは230Nm/3500~5000rpmへと丸められている。
確かに325iよりは見劣りするものの、それでも動力性能には不足はないはず。しかも、こちらはノーマルサスペンションに16インチタイヤの組み合わせだけに、快適性にももう少し期待できる。325iより51万円、同Mスポーツと較べると111万円も安い価格を考えても、コレは相当狙い目ではないだろうか。今回、実際に試せなかったのが惜しい。
軽やかでツキの良い加速感の4気筒エンジン
さて、このように非常に濃い走りのテイストを堪能できる直列6気筒モデルに対して、直列4気筒モデル、すなわち320iは、どんな走りっぷりを見せるのだろうか。
まず初っ端、6気筒モデルから乗り換えて真っ先に感じたのは、予想以上の軽快感だった。特に330iの重厚な感触とは完全に一線を画していて、まるでひと回り軽いクルマに乗っているかのようなのだ。一体、この軽さは何なのだろう。冒頭に書いたように、実際の車両重量には、そこまで大きな差はないのに。
そのひとつの要因がやはりエンジンなのは間違いない。320iが積むN46型ユニットは、排気量1995cc。バルブトロニックやダブルVANOSを搭載し、最高出力150ps/6200rpm、最大トルク200Nm/3600rpmを発生する。6速ATのギア比は他モデルと共通だが、最終減速比はさらに下げられている。
何より特筆すべきはアクセルのツキの良さである。右足に力を込めると、その瞬間にグッと後輪を蹴り出す感触が伝わる。この痛快なパンチ力こそ、直列4気筒の何よりの魅力だ。
無論、絶対的な力感は排気量に勝る直列6気筒ユニットにはかなわないが、特に実用域では、このトルクのツキの良さのおかげで、回転で稼ぐ印象の325iよりも活発、軽快に感じさせるのである。
しかも、その活発さは6500rpmのレブリミットに至るまで衰えることはない。吹け上がりも非常にスムーズ。最後の最後にもうひと伸びするような演出があればなお良いが、現状でも直列4気筒2L自然吸気エンジンの中では世界最高レベルの出来映えなのは間違いない。
ハンドリングは最初はおとなしめに感じる。205サイズの細いタイヤとソフトなサスペンションによって、操舵した瞬間のグリップの立ち上がりが穏やかなせいで、それこそE30型あたりのような、直列6気筒モデルより4気筒モデルの方が明らかに軽快という感じは薄い。
しかし、スポーティじゃないわけでは断じてない。応答の正確性自体は変わらないが、人間の操作とクルマの反応の間にわずかな遊びもないかのように感じる330iと較べ、良い意味で動きに鷹揚さが加わり、結果として懐が深まった感を強く抱かせるという話だ。思い起こすのは往年の3シリーズ。そう、かつてのイメージに近い「たおやか」と表現したい手触りを味わえるのである。
ちなみにこの320i、速く感じるだけでなく、実際の動力性能もクラストップレベルにある。ヨーロッパ仕様のデータでは、0→100km/h加速は9.8秒。それに対して、同排気量のアウディA4 2.0は10.2秒とされる。メルセデス・ベンツC180Kも、最高速度は高いものの、0→100km/h加速は9.9秒に留まる。直列6気筒に目がいきがちな最近のBMWだが、そのエンジン屋としての真価は、4気筒ユニットにも余すことなく発揮されているわけだ。
そういう意味では、自慢の6気筒ユニットの方が、取り巻く状況は厳しいのかもしれない。確かに性能もフィーリングも依然トップクラスのエンジンであることは間違いない。しかし、V型6気筒のライバル達の追い上げも急だ。たとえばアウディのそれは相当に爽快なフィーリングを身につけているし、レクサスの3.5Lもスポーティな吹け上がりと強力なパワーで存在感を強めつつある。DOHC4バルブに戻ったメルセデス・ベンツのV型6気筒も、これまでとは別物の滑らかさを手に入れている。
ただし、久々のターボユニットを積む335iクーペの導入後に再度検証するまでは、結論を出すべきではないだろう。また4気筒エンジンにも、遠からずターボ化の波が訪れる可能性は十分ある。メルセデスベンツは現在コンプレッサーを使っているが、アウディやフォルクスワーゲンはすでにターボを主軸としている。ディーゼルターボの図太いトルクに慣れたヨーロッパの人たちを今一度ガソリンエンジンに振り向かせるには、それは避けて通れない道なのである。
伝統の味が残る4気筒と先鋭化された6気筒
試乗を終えて振り返ってみると、エンジンの印象が鮮烈に甦ってくるのは、やはり直列6気筒の方だ。往年のようにデッドスムーズとは言えないが、代わりにその表情はとても豊かになり、遠慮なしにその魅力をアピールしてくる。見た目の存在感が一層強調され、フットワークも、より刺激的な、ステアリングを切れば切った分だけスパッと向きを変える方向にシフトしている今の3シリーズには、このハッキリした性格づけのエンジンが非常によく合っている。
では、4気筒モデルの魅力は何か。重量の面でのアドバンテージがほとんどないとすると、やはり価格? いや、それだけではない。手触りはあくまで上品で滑らか。必要以上に刺激してはこないが、ステアリングもエンジンもブレーキも、すべてしたたかにドライバーの意思を汲み取ってくれ、クルマとの深い対話の中、沁み出すような魅力を醸し出す、そんな従来のBMWの持ち味は、この4気筒モデルに色濃く残っていた。言うまでないことだが、それはエンジン単体のフィーリングの為せる技ではなく、それを使ってどう仕立てるかという部分に負うところが大きい。
BMWが、よりキャラクターを先鋭化させていく6気筒モデルに対して、4気筒モデルをわざとそんな雰囲気に仕立てたのか、それとも単なる偶然なのかは解らない。いや、おそらくは後者なのだろうとは思う。
思うのだが、実は社内には往年のBMWらしさにこだわる4気筒担当の頑固一徹なエンジニアがいて、あえてそんな風に躾けているのだ・・・・なんてシナリオも、ちょっと信じてみたい気はする。何しろBMWは、あの特徴的な本社「4シリンダービル」に今もこだわり、まさにこの8月にリニューアルオープンさせたくらいなのだから・・・・。(文:島下泰久/Motor Magazine 2006年10月号より)
BMW 330i 主要諸元
●全長×全幅×全高:4525×1815×1440mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1550kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:258ps/6600pm
●最大トルク:300Nm/2500-4000pm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:641万円(2006年)
BMW 320i 主要諸元
●全長×全幅×全高:4525×1815×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1460kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1995cc
●最高出力:150ps/6200pm
●最大トルク:200Nm/3600pm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:411万円(2006年)
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