日本で披露されたテスラの新型「サイバートラック」の特徴を、世良耕太が徹底解説!
摩訶不思議
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テスラ初の電動ピックアップトラック、Cybertruck(サイバートラック)の日本初披露イベントに参加した。開始時間は午後10時。会場は東京・豊洲にある「チームラボプラネッツTOKYO DMM」である。デジタルとアートが融合した施設で、コンピューターやネットワークを意味する“サイバー”を車名に含む車両を披露する場として、これほど最適な環境はないのかもしれない。
午後10時(つまり、新車を披露するにしてはかなり遅い時間帯である)になってBGMが鳴り出した。登場したのは、照明を鈍く反射させるサイバートラックだった。スタッフが運転席に座り、建物の奥から自走してメディアの前にあらわれる。
私有地だから走らせることは可能なものの(転がす程度の車速ではあったが)、公道を走ることはできない。国内の型式指定を取得していないからだ。そもそも、国内で販売するかどうかは発表されていない。サイバートラックに関する販売戦略面の公式発信はなく、憶測で語るしかない。
歩行者保護を含め、衝突安全基準をクリアするハードルを考えると、アメリカ国内での販売にとどまるのではないか? と、する説が有力だろうか。投じるコストに対する見返り、すなわちビジネスの観点で国内に導入するか否かの議論が進んでいるのかもしれない。
いや、すでに社内では日本未導入が決定事項となっていたとしても、実車を日本で公開することによってブランド価値を高める効果は充分にあると判断したのかもしれない。サイバートラックの披露によって「テスラはやっぱりスゴい!」と、感じる人が増え、ブランドロイヤリティが高まれば、それはそれでイベントは成功かもしれないのだ。
実際、実物のインパクトは大きかった。そもそも、パソコンやスマートフォンの画面でサイバートラックの姿を確認し、動画で走行シーンなどを視聴した時点で、「よくぞこの形を現実にしたな……」と、感慨を覚えたものである。
実物のサイバートラックが目の前にあると、それを眺めている自分が仮想空間の中に入り込んでしまったような錯覚を覚える。このクルマの現実味は極めて希薄で、コンピューターが作り出した架空の存在にしか見えない。あるいは、「新しい惑星探査車です」と、言われても信じてしまうかもしれない。特異なルックスがサイバートラックの商品価値を決定づけているように思える。
サイバートラックが現実離れして見える大きな理由は、高い防弾能力を備えた無塗装のステンレススチールで構成された外板と、建築物でも珍しい事例に指摘される折板構造のようなパキパキしたフォルムだろう。
それに、デカイ。日本車に見慣れた目を通してアメリカで販売されるフルサイズピックアップトラックを見ると、そのボリュームの大きさに圧倒されるのが常だ。サイバートラックの場合はステンレススチールがもたらす質感とフォルムの効果で、なおさら量感を感じる。
ちなみにサイバートラックの全長×全幅×全高は5682.9×2413.3×1790.8mmだ。トヨタ「タンドラ・ダブルキャブ・ロングベッド」の全長は6414mmあるので、長さ方向では特別大きいわけではない。国内でも販売されている「ハイラックス(Z)」の全長は5340mmだ。
ただし全幅はタンドラが2032mm、ハイラックスは1855mmなので、サイバートラックは群を抜いて幅広だ(ただし、ミラーを含んだ値)。おおよそ4tトラック・ワイドボディの全幅と同等である。前後を絞り込んだフォルムとしていないこともあり、数字以上に大きく見える印象。これが0~100km/h加速を2.7秒でクリアする実力を備えているというのだから、そら恐ろしくなる。
Λ型をしたサイドシルエットのせいか、トラックを名乗っているにもかかわらず「荷物詰めるの?」と、聞かれることもある。実車で確認した限り心配は無用で、たくさん詰めそうだ。全幅にゆとりがあるので幅は言うに及ばず、高さ方向も充分な寸法が確保されている。スイッチひとつでロールシャッターのようなカバーを操作することができ、荷室をクローズドの状態にすることが可能。荷室の後端にはプラグの差し込み口があり、床下に敷き詰めたバッテリーから電化製品に電力を供給することが可能だ。
床下を覗き込んでみると、空力性能、とくに空気抵抗低減を意識してフラットに保たれているのがわかる。サイバートラックにはリヤにのみモーターを搭載する後輪駆動モデルと、フロントとリヤにモーターを搭載する全輪駆動モデル、リヤ2基+フロント1基のモーターを搭載するサイバービーストモデルが設定されている。
チームラボプラネッツで公開された車両は、少なくとも前後にモーターを搭載したモデルのようだった。ピックアップトラックと後輪操舵システムの組み合わせは珍しい部類に入るだろう。逆相にどれだけの舵角で切れるのかは未公表だが、小まわり性の確保に効いているはずである。高速走行時は同相制御によって安定したレーンチェンジを実現することも技術的には可能だ。
ステアリングと操舵機構を機械的に結合せず、電気信号によってタイヤの向きを変えるステアバイワイヤ(SBW)を適用しているのもサイバートラックの特徴。国内ブランドでは電気自動車のレクサス「RZ」がSBW車の投入を予定している。SBWを適用するとギヤ比を自由に設定可能だ。低速時は小さなステアリング舵角で大きくタイヤが切れるように設定すると、ステアリングを持ちかえることなくフル舵角を与えることができる。サイバートラックのような大柄なボディでこそ、大きな効果が期待できる技術だ。
人垣の隙間から室内を覗き込むと、18.5インチのフロントスクリーンが見えた。無機質な空間に大画面のタッチスクリーンが鎮座している様は、「モデル3」をはじめとするテスラ各車に共通した世界観を形成している。その独特の世界観に身を置いた経験があると、サイバートラックのインテリアから受ける印象は既視感に支配される。
サイバートラックのインテリアは多分に個性的だが、それがフツーに感じられてしまうほど、エクステリアは輪を掛けて個性的ということだ。この巨大でパワフルでユーティリティに優れた電動ピックアップトラックは、どれだけジッと眺めても、まかり間違って仮想空間を飛び出し、現実世界に迷い込んでしまった存在に見えるのだった。
文・世良耕太 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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