メルセデス・ベンツの知覚安全性とは?
メルセデス・ベンツの事故を起こさないための知覚安全性(十分な視界と被視認性)について、ご紹介します。ワイパーの誕生からボディカラーの違いによる視認性など、さまざまな技術を解説。徹底的にこだわることで高い安全性を確保しているのです。
ベンツが神話だった70年代の「W123」…驚きの安全性と最新テクノロジーは当時の国産車では足元にも及べない知恵が詰まっていました
100年以上も前にワイパーを考案した皇太子
1886年に世界で最初のガソリンエンジン付き自動車が、ゴットリーブ・ダイムラー(4輪車)とカール・ベンツ(3輪車)によって発明されたことは、すでに周知の通り。しかし、当時の自動車のはしり、つまり、「馬なし馬車」には風防のフロントガラスや、雨が降った場合に視界を確保するワイパーなどはなく、風雨の中を運転することが、非常に困難であったと思われる。事実、ドライバーは風雨や塵よけのゴーグルを使用し、レインコートを着用するなどして運転していた。
しかし、自動車の用途の広がりとともに風雨よけの機能や耐久性が求められるようになり、20世紀になるころには、フロントガラス付きの自動車が登場しはじめている。同時に、新たな問題として生まれたのが、悪天候においてクリアなフロントガラス面をいかに確保するかである。つまり、風雨の日にどうやって安全な視界を得るか。
この安全な視界を得る問題に具体的な解決策を示したのが、当時のプロイセン王国のハインリッヒ皇太子であった。彼は自動車や船舶に興味を持ち、とくに「自動車狂」とまでいわれた人物。マンハイムにあるベンツ社のベンツを駆って、自ら多くのレースにも出場していた。そして、この皇太子の薦めもあって彼の名前を冠したレース「プリンス・ハインリッヒ・トライアル」が1907年に開催され、優勝者にはその大トロフィーと賞金が授与されていたほどであった。当時は、これほどの大規模なレースはなく、むしろフランスGPを凌ぐ人気さえあり、相次いでエントリーの申し込みがあったといわれている。
さて、ハインリッヒ皇太子が考案したのは、フロントガラス面を垂直の棒に沿って、手動でブレードを上下に移動させる水平式のワイパー、名付けて「スクリーンクリーナー」であった。つまり、彼が考案したワイパーは電気モーターではなく手動式であったため、ガラス全面ではなく、運転席前面だけを上下に拭き上げるコンパクトで軽量なものであった。特許を申請した1908年には、早くも製造業者H・モドホーストに、「ハインリッヒ」という名称での製作・販売権を依頼。当時、この安全装備の価格は、1ユニットあたり50ドイツマルクだったといわれている。
知覚安全性:よく見える安全性(十分な視界/視認性)
死角を少なくし十分な視界を確保する安全性。ここでは新旧「Eクラス」で比較して、雨天時でも広いウインドウの有効な視界を確保するワイパー払拭面積と、レインランネルなどについて具体的に説明してみよう。
ワイパーとインテリジェントライトシステム
自動車のワイパーは現在、振り子式が一般的になっているが、目的そのものはハインリッヒ皇太子が作り出した水平式ワイパーと何ら変わりはないといえる。
この画期的な発明は、つまり、安全運転に直結する知覚安全性に大きな前進をもたらしたのであった。なお、知覚安全性とは1966年に当時のダイムラー・ベンツ社が初めて使った言葉である。
メルセデス・ベンツの知覚安全性における、ワイパーの画期的な発明の最たる具体例は、従来の2本のワイパーアームから1985年の初代Eクラス「W124」(1984年発表)に採用された1本の伸縮式パノラマワイパーである。
2代目コンパクトシリーズ「W123」(1975年発表)の1983年モデルを例に挙げると、2本のワイパーアーム方式で重なり合うセンター部分の近くにどうしても拭き残しがあり、ウインドシールドの78%の払拭面積しかなかった。そこで、この重なり合うセンター部分の拭き残しをなくすため、この1本のパノラマワイパーはカムによってアームのセンター部分が大きく伸び、伸縮しながら独特の弧を描く。これによって、1985年の初代Eクラス W124では、86%の払拭面積が可能になった。しかも、高速時でも浮き上がることがなく、ワイパー作動時には十分な視界を確保していた。
筆者が試乗した5代目Eクラス「W213」(2016年発表)のフロントワイパーは、4代目Eクラス「W212」と同じ広い拭き払い面積を誇る新たな2本アーム式のワイパーが採用されていた(E200 アバンギャルド)。なぜなら、空気抵抗を軽減するため、W212/W213のフロントウインドウの傾斜角が鋭くなり、加えてフロントウインドウの上端から下端の高さが大きくなり、以前の1本のパノラマワイパーでは、広く拭き切れなくなったからである。
とくにこのW212/W213の払拭パターンは特殊で、運転席側ワイパーは一定半径で作動するのに対して、助手席側のワイパーは偏心した弧を描いて作動する。そのため、ワイパーの払拭面積は広くなり、初代Eクラス W124の86%と同等の払拭面積を確保できている。
ワイパーブレードは、風洞実験によって開発され「エアロワイパー」と呼ばれる。従来のワイパーとは異なり、フロントウインドウのガラス曲面に隙間なく追従。また、従来のワイパーホルダーが不要になったほか、ワイパーブレードの高さが約半分になりワイパー作動中の風切り音が減少し、高速走行時の払拭力も向上している。
さらに、フロントウインドウ上部のレインセンサーが雨滴の量を感知し、ワイパーの作動を自動調整する。つまり、ワイパースイッチを間欠ポジションにしておくだけで、雨の量に対応してワイパーの作動を自動調節するため、雨を気にすることなく運転に集中することができる。ワイパーが作動しない場合はボンネット内に格納し視界を妨げない。
また、メルセデス・ベンツならではの優れた知覚安全を誇るインテリジェントライトシステムを装備し、あらゆる走行条件において、つねに最適な視界を確保。つまり、LEDハイパフォーマンスヘッドライトは従来のキセノンタイプに比べ、より鮮明に路面を照射するため、夜間の視認性に優れている。コーナリングライトは、ウインカーやステアリング操作と連動してヘッドライト内のコーナリングライトが点灯し、進行方向内側の路面を照らすので歩行者や障害物を早期に発見でき、安全性を高めてくれる。
ところで、ヘッドライトワイパー/ウォッシャーについては、メルセデス・ベンツはかねてから走行中にヘッドライトを清掃する方法を検討しており、そして1972年型からついに実現した。
ドイツ・シュツットガルトは北海道よりも北に位置し、雪が多く降り、バンパーの上に雪が積雪しヘッドライトの位置まで達する。また降雨の中を走っているうちにヘッドライトは約80%もの照度を失ってしまうほど汚れるのである。すでに初代のEクラス W124でいえば、走行中に運転席からの操作で、ヘッドライトの雨水や汚れを拭き払って明るさを確保するヘッドライトワイパー/ウォッシャーをオプション設定していた。ただし、当時のW124の300CE-24、300E4MATIC、400E、500Eには標準装備である。
最近では、輝度を保つLEDハイパフォーマンスヘッドライトの採用に加え、空気抵抗を少なくするエアロダイナミクスなボディスタイルと一体化したバンパーにはヘッドライトワイパー/ウォシャーが装備されていない(一部Gモデルに高圧ヘッドライトウォッシャーを装備)。メルセデス・ベンツのステーションワゴンやハッチバック、SUVには運転席からリアの視界を十二分に確保するためリアワイパー/ウォッシャーが標準装備されている。
レインランネル:サイド/リアウインドウの視界を確保
フロントフインドウの雨滴をより広い範囲で拭き取る。先述の1985年のEクラス W124に採用された1本アームのパノラマワイパーもそのひとつであったが、この雨滴をいかに流すかの方法として、家にも雨樋があるように、メルセデス・ベンツにも同様の機能である「レインランネル」が設けられている。
筆者が先日、5代目Eクラス W213(E200 アバンギャルド)で確認すると、まずフロントワイパーによって拭き払った雨滴はフロントピラーのレインランネルへと流れる。そしてルーフへと流れ、リアピラー両側とルーフ後端のレインランネルに導かれ、最後にリアウインドウの両側面へ排出する。つまり、フロントピラーのレインランネルは雨滴がドアウインドウ側に流れることを防ぎ、サイドウインドウやドアミラーの視認性を確保する。
そして、リアピラーやルーフ後端のレインランネルは雨滴をルーフやボディサイドからリアウインドウ両側面に流し、リアウインドウの視界を確保。特筆すべきはドアミラーのケースにもレインランネルを設けてドアミラーの視界を確保していることである。
パーキングアシスト・リアビューカメラ(360°カメラシステムと併用)
オートマチックのシフトレバーをリバースにすると、ボディ後部に装着されたカメラで車体後方をモニターし、ディスプレイに表示する。音声案内、ステアリング連動の車両進路予測ライン/ガイドラインなどにより、車庫入れや縦列駐車など後退時の運転操作をサポートするので非常に楽である。
知覚安全性:見せることの安全性(被視認性)
メルセデス・ベンツが重視しているのが被視認性、つまりほかのドライバーや歩行者に素早く自車の存在を見せる安全性である。
凸凹形状のテールレンズからLEDコンビネーションランプへ
以前のメルセデス・ベンツは、後方からの被視認性を良くするために凸凹形状のテールレンズを採用していた。つまり、凸の形状の部分は汚れが付きやすいが、凹の形状の部分は汚れが付きにくい構造であった。
最近のメルセデス・ベンツLEDコンビネーションランプは、凸凹形状でなく平面形状で、汚れが付着しても輝度が保たれ、応答の速い優れた被視認性によって後続車に自車の存在を鮮明に知らせることができ、高い安全性を確保している。さらに、歩行者や二輪車からも確認しやすいウインカーミラーは世界に先駆けて1998年のSクラス W220から採用している。
安全なボディカラーを積極採用
メルセデス・ベンツは、1960年代からボディカラーを安全な視認性順に並べたチャートを作成し、カスタマーへ啓蒙活動を行ってきた。これはドイツ国内のタクシーの色を、それまでの黒からチャート上位にあった視認度の高いライトアイボリー(623)に変えるという法律制定(1970年施行)のきっかけにもなった。
筆者がヤナセの現役社員時代、顧客がボディカラーで迷っている場合には、このボディカラーチャートで安全な色を勧めたものだ。専売ショールームにはカラーサンプルも展示している。最近の交通事情ではすぐに自車を認められるボディカラーが安全の重要な要素になっているが、ユーザーの個人的な好みの色とのコンビネーションに配慮すべきではないかと考えている。
ドライバーはトンネル内もよく走るが、照明は何色だろうか? 以前は排ガスや塵の影響を受けにくい透過性の良い蛍光オレンジ色であった(現在は白いLED)。暗いトンネル内をもっとも早期に認識できるカラーになっていた。この蛍光オレンジ色を100%とすると、白色は視認度88%となっており、安全色でしかも風景に溶け込み膨張色となりボディも大きく見える。逆に黒色は視認度5%だが、ボディを引き締め、またシックに見える。
結論としては、明るい色の方が特に夕暮れ・夜間・霧の中では暗い色よりも2倍~8倍位の距離から視認されることがわかっている。最近、多くなったメタリックペイントは反射能力や見る角度で大きく差がでるので、視認度はわかりにくくなっていることにはご注意願いたい。
メルセデス・ベンツをドライブすれば、ここまできめ細かい知覚安全対策をしているのかと感心させられることだろう。着座位置が高いため前後の見通しも良く、死角も少なく、視界良好。しかも各々のピラーは頑丈で大変安全であり、本当の意味でメルセデス・ベンツはオーナードライバーズカーであると、特にヨーロッパでは認められているのだ。
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みんなのコメント
いつの時代もコストカット最優先で安全性を無視する日本車とは大違いだねw
見られる事に対する配慮、って事
テールランプに埋もれて見えないウインカーが
日本車に限らずいかに多いかって話
流れるウインカー?バカじゃねえの?
そんなギミックなんて必要無えよ
メルセデスの哲学はその辺本当にしっかりしてる