この記事をまとめると
■2025年に運用開始予定の新・深夜割引制度が一部のユーザーから批判を浴びている
トラックドライバーを苦しめる「高速深夜割引」の改訂! 高速料金を自腹で払う運転士には痛手でしかない
■割引時間帯を拡大する一方で割引対象距離に制限を加えている
■現段階の制度がベストとはいえないが本質的にはシンプルな方法にするよう改良されていくべき
不満が続出している高速道路の新・深夜割引制度
令和6年度末ごろ(2025年3月ごろ)から運用が予定されている、NEXCO各社が管理する高速道路における新しい深夜割引制度が発表され、一部のユーザーから批判を浴びている。手短にいえば、新・深夜割引制度では、割引対象の上限が「1時間あたり105km」になっているのだ。つまり、時速にすると105km/h以上で走ることは割引制度として認めないという風に読み取れる。
ご存じのように、速度の上限が120km/hに設定されている高速道路区間は増えている。「法的に走ることが許されている速度をNEXCOは認めない」というのは法治国家として問題ではないか、というのが批判の根拠となっているようだ。
果たして、新・深夜割引制度において1時間あたり105kmという上限距離が定められた背景とは? そして新・深夜割引制度はどのように変わったのか、アメとムチ的な視点から見てみよう。
あらためて現行の深夜割引制度を整理すると、以下のようにシンプルな内容となっている。
『0時から4時の間に高速道路を通行するETC車の料金を3割引』かつ『割引された料金は出口精算時に確定』するといったものだ。
現行制度においては『0時から4時』の時間帯に少しでも走行すれば割引対象になる。たとえば21時に高速道路に入り、深夜1時にインターから出た場合は料金が割引される。深夜3時に高速道路に入り翌朝の10時に高速道路を降りた場合も割引対象となる。
こうした仕組みをハックすると、割引時間帯に高速道路に入って、そこから延々と目的地まで走ることが料金を最大限に割引できることになる。そのため、一部の高速道路では深夜0時を待ってトラックなどがインター入り口手前で滞留するといった問題も起きていた。
現行の深夜割引制度は不要な渋滞を招くだけでなく、主にトラックドライバーの労働環境悪化にもつながっているという批判があったのはご存じのとおりだ。
ただ制限されただけではない新・深夜割引制度
今回の制度見直しは、そうした部分を主眼においている。見直しに先立ちNEXCO各社が『深夜割引の見直しにおける無謀な運転の抑止策』についての意見募集を求めたように、より安全な高速道路を実現することを目指している。
具体的な変更点としては、割引対象時間帯を『22~5時に拡大』するというのがアメの部分。これによって深夜割引を待機する渋滞・車両滞留を防ぐことが期待できる。一方、これまでは割引対象時間帯に走っていれば、その前後も含めてすべて3割引となっていたが、新・深夜割引制度では22時から5時の間に走った部分に限り割引対象となるよう変更される。こちらはムチといえる変更だ。
また、割引についても現行では出口通過時に割引後の通行料が判明するが、新制度ではいったん正規の料金を支払い、後日還元される方式に変わることになっている。その理由としては、以下のような計算のためデータ処理に一定時間が必要であるからと説明されているが、そうであればシンプルな現行制度から変える必要はないであろうという批判があるのも事実だ。 新・深夜割引制度の計算式
割引後料金=(通常料金)×(100%-((割引適用時間帯の走行距離)÷(全走行距離)×30%)) さて、上記の変更を実施するためには対象時間帯に走った距離を測定しなくてはならない。しかし、各車の走行距離を厳密に計測するのは難しい。そこでETCのデータから平均時速を割り出し、それに応じて割引対象となる距離を導くという、少々複雑なシステムに変わることになった。冒頭で記した「1時間あたり105km」というのは、その計算における上限距離の数値である。また、リミッターが義務付けられている大型貨物車については1時間あたり90kmが上限距離として設定されている。
さらに細かくいえば、新制度では連続走行を防ぐ計算式となっている。それは、4時間を超える走行の場合、割引上限距離から30分相当の距離を減じるというものだ。つまり、4時間ごとに30分程度の休憩は取ってほしいという制度設計になっているといえる。22時から割引対象時間帯に変わる点も含めて、主にトラックドライバーの労働環境を考慮したといえそうだ。
そうはいっても、冒頭でも記したように120km/hで走ることが合法な高速道路が実在しているのに、新・深夜割引制度では105km/hを上限としているのは納得できないというのが乗用車ユーザーの感情といえるだろう。
この点について、NEXCOの見解を引用してみよう。こちらも基本的にはアメとムチ的なバランスをとったものとなっている。
まずはムチ的な部分、実質的に105km/hに最高速度を制限しているように見える制度設計についての見解は以下のようになっている。 『区間、気象条件又は車種区分等によって変わる規制速度やお客さまの実際の走行速度をすべて考慮して上限値を設定することは困難であることから、標識や標示でとくに速度指定のない高速自動車国道における最高速度が、軽自動車等・普通車・中型車・乗合型自動車の場合には100km/h、大型車・特大車の場合には80km/hであることを踏まえ、抑止策を講じる予定としております。』 アメ的な部分、105km/hとわずかに甘くしている理由については以下の通りだ。 『速度計に表示される速度と実際の速度について一定の誤差が生じる可能性がある等を考慮し、利用時間1時間あたり5kmを加算する案としております。』 厳密であることを求めるユーザーからは速度制限表示のとおりに上限距離を計算すべき、という指摘もあるようだが、これ以上複雑なデータ処理と計算にするというのは筋がいいとは思えない。現時点での制度がベストとはいえないが、より複雑な計算にするよりも本質的にはシンプルな方法にするよう改良されていくべきだと思うのだが、いかがだろうか。
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