良い製品にはワクワクが必要だ。「これを手に入れたらどんな未来が始まるんだろう」というワクワクだ。
そんななかにあって、ホンダは平成の時代を通じて常にクルマ好きのワクワクを掻き立てるスポーツカーを輩出してきた。
【種類多すぎでも選びたい!!】今こそ復活を!!「数」で勝負した車たちの奮闘
平成が終わろうとしている今、ホンダが残してきたものはなんだったのか? そしてどこへ向かうのか? 現行モデルから過去の名車まで、ホンダスポーツの変遷を辿る。
【平成のホンダスポーツおもな動き】
平成2年 初代NSX登場
平成3年 ビート登場
平成7年 初代インテグラタイプR登場
平成9年 初代シビックタイプR登場
平成11年 S2000登場
平成13年 2代目インテグラタイプR登場
平成19年 3代目シビックタイプR登場
平成22年 CR-Z登場
平成27年 先代シビックタイプR登場
平成27年 S660登場
平成28年 現行NSX登場
平成29年 現行シビックタイプR登場
※本稿は2019年3月のものです
文:永田恵一、ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年4月10日号
■誕生 挫折 そして復活 平成のホンダスポーツにはドラマがある
(TEXT/編集部)
軽オープンのS660、FFハイパワースポーツのシビックタイプR、ハイブリッドターボ4WDのNSX。ホンダのスポーツカーは凝った技術を採用するものばかりで、何かをベースにスポーティに仕上げたと思われるようなクルマは皆無だ。そこにホンダらしさを感じるファンは多いのではないか
NSX、シビックタイプR、S660。ホンダの最新スポーツカートリオは平成時代を駆け抜けてきた。
NSXは1990年(平成2年)、S660の前身であるビートは1991年(平成3年)に登場し、タイプRは1992年(平成4年)にNSXからスタート。まさに平成とともに生まれ、成長してきたクルマたちなのだ。
S660…直3、660ccターボを搭載するミドシップオープンスポーツ。名車ビートの後継車という位置づけだが、今の時代に合わせた進化が満載の1台
平成の31年間はクルマにとっても激動の時代で、それまでのように、ただ右肩上がりの性能を追求すればいい状況ではなくなっていた。
燃費性能、環境性能が重視され、バブル崩壊後の不況により、コスト意識も格段に高まった。クルマ作りの自由度がどんどんなくなっていく時代でもあったのだ。
NSX、タイプR、ビートも一度はラインナップから消えている。しかし、ホンダの素晴らしいところは、すべてが今、復活を遂げていることだ(ビートはS660になって復活)。それはつまり、時代の変化に合わせた進化を果たしているということなのだ。
シビックタイプR…2015年に復活したシビックタイプRも、現在は復活後の2世代目。速さにこだわりながらも、現代のクルマにふさわしい実用性を兼ね備えている
NSX、シビックタイプR、S660の3車に乗ると、ホンダのスポーツ魂をストレートに感じ取ることができる。NSXは前輪モーター駆動のハイブリッドターボという新システムを構築し、シビックタイプRは徹底的に速さを追求しながら、燃費、乗り心地を含めた実用性能もハイレベル。逆に、S660は実用性能を度外視して、楽しさに特化したクルマ作りを徹底している。
サイズも排気量も価格帯もまったく異なる3車だが、どれに乗ってもホンダらしさが満点。NSXからS660に乗り替えても、SにはSの個性と楽しさがあり、まったくチープな気分にならないのは今回発見できたこと。
また、シビックタイプRとNSXには、そのスペックや見かけの過激さから想像できないほどの乗りやすさがあり、これもホンダらしさのひとつと言えるだろう。
NSX…新世代スーパーカーのNSX。前輪を左右別の2つのモーターで駆動し、後輪をひとつのモーターでアシストするV6ターボハイブリッドを搭載
最近、ホンダのクルマがつまらなくなってきたという意見がある。アメリカや中国ばかりを見て、日本をないがしろにしているという声もある。それへの反論も含め、自由に考え、感じればいいことだ。
しかしスポーツカーに関しては、ホンダはずっと心を打つクルマを提供し続けてくれている。今回の撮影でそう確信したのだった。
■平成ホンダスポーツ年表(1989~2019)
(車両解説/永田恵一)
●2代目インテグラXSi(1989年)
インテグラ自体は主に北米のアキュラチャンネルで販売されるスペシャルティカーという比較的軟派なクルマである。
しかしスポーツモデルに搭載された1.6L VTECエンジンは世界初の可変バルブタイミング&リフト機構を持ち、NAエンジンでリッターあたり100psとなる160psを達成。
その後VTECはホンダの基幹技術のひとつに成長し、VTECを使うことでスポーツエンジンだけでなく、低燃費エンジンも作りやすくなった。
●グランドシビックSiR& 2代目CR-X SiR(1989年)
2代目インテグラから約5カ月遅れで1.6Lクラスのスポーツモデルとしては本命となるシビック&CR-XにもVTECエンジンが搭載された。
グランドシビックSiR
CR-X SiR
VTEC搭載で130psから160psにパワーアップされたことに伴いビスカスLSDがオプション設定されたほか、この世代のシビック&CR-Xの弱点と言われていたサスペンションストロークの短さにも手が加えられた。
モータースポーツでもシビックはサーキット、CR-Xはジムカーナで大活躍した。
●初代NSX(1990年)
初代NSXは当時のポルシェ911やフェラーリ328をターゲットとしたスポーツカーとして登場。
コンセプトのひとつは「それまで“スポーツカーだから”と許されていた乗りにくさ、信頼性の低さといった一種の甘えをなくしたスポーツカー」で、コンセプトやターゲットを絶対性能で凌駕するという目標もほぼ達成され、15年間も生産された。
ただ初期の標準車は軟派な面があったのも事実で、ピュアなスポーツカーとしての役割は後のタイプRやタイプSが担った。
●5代目シビックSiR(1991年)
4代目のグランドシビックに続き5代目のスポーツシビックにも1.6L VTECを搭載する「SiR」が設定された。
クルマ自体は3ドアがワンルームの住居をコンセプトにした車内レイアウトが新鮮だったが、走りのほうも160psから170psにパワーアップされたのに加え、スポーツシビックからホンダの足回りのコンセプトが「ロールを抑えた硬いもの」から「ロールを生かしてタイヤを有効に接地させる」というものに変わったのも画期的だった。
●ビート(1991年)
NAエンジンのみを背中に積む軽のスポーツカー。
NAエンジンということで動力性能はさほどではないのに加え、車重も軽いわけでもなかったため決して速いクルマではなかったが、中身はストラットの四輪独立サスペンション、四輪ディスクブレーキ、エンジンはMTREC(三連スロットル)を採用するなど本格派で、乗ってみても持っているパワーを使い切れるという楽しさを持つ、まごうことなきスポーツカーだった。
●初代インテグラタイプR(1995年)
3代目インテグラはフロントマスクが個性的過ぎたせいか不調であったが、そのテコ入れも含めて追加されたタイプRはNSX-Rと同じスピリッツで開発された。
そのメニューはポート研磨を含む180psから200psへのパワーアップ、サスペンション強化、ミッションのクロス化&ヘリカルLSDの搭載、軽量化、空力性能向上など多岐にわたった。
結果280ps軍団並みの速さを誇り、インテRの魅力に当時のクルマ好きは熱狂した。
●初代シビックタイプR(1997年)
第3弾となるタイプRは6代目シビックに設定された。
タイプRの手法はパワーアップ(170psから185ps、SiRと同じ1.6Lでもボア×ストロークは異なる)、サスペンションの強化、ヘリカルLSDの採用、軽量化、空力性能向上とインテグラタイプRとほぼ同じだったが、シビックタイプRはホイールベースの長い新しいシャシーを生かしたコントロール性の高さが大きな特徴で、ウェットでも懐の深い非常に扱いやすいクルマだった。
●5代目プレリュード SiR&タイプS(1996年)
アメリカンな4代目からヨーロピアンで大人向けのスタイルとなった5代目プレリュードは2.2L VTECを搭載するスポーティなSiRに加え、頂点となるタイプSも設定。
SiR
タイプS
タイプSはエンジンが220psにパワーアップされたのに加え、前輪のATTS(左右輪の駆動力配分コントロール)を搭載。
これはランエボのAYCの前輪版的な存在で、乗ったことがある人に聞くと「曲がり過ぎるくらい」と語るほどの高い旋回性能を実現した。
●S2000(1999年)
ホンダの創立50周年記念も兼ねて登場したS2000は、ホンダとしてはS800以来のFRとなるミドルクラスのオープン2シータースポーツカーである。
オープンではあるが、中身は9000回転まで回る2L VTECエンジン(250ps)、オープンながら高いボディ剛性を持つハイXボーンフレーム構造、新開発の6速MTを搭載するなど、贅沢かつピュアなものだった。
それを思うと初期型の338万円という価格は激安だ。
●2代目インテグラタイプR(2001年)
2代目となるインテグラタイプRはプラットフォームを一新し、エンジンも2Lとなった新設計のi-VTECとなり、大きく重くなりながらもDC2(初代)以上の速さを得た。
しかし当時の評判は、(はじめからタイプRがあったことにより)特別感が薄れた、フロントサスがダブルウィッシュボーンからちょっと特殊なストラットになったためイジりにくくなったなど、ネガティブな声も多く、結果的にインテグラタイプRとしては最後のモデルになってしまった。
●S2000 2.2Lモデル(2005年)
S2000は2Lで250psという高回転型エンジンだったこともあり「6000回転以上回さないと面白くない」、「乗りにくい」という声もあり、登場から6年後に2.2Lに排気量を拡大。
しかし低速トルクは増し乗りやすくはなったものの、8000回転までしか回らず、高回転域の振動も増えたこともあり、賛否両論ある改良で、ファンのなかでは好みが分かれた(高回転域の振動は2.2Lになったあとの改良で軽減されたのは事実ではある)。
●3代目シビックタイプR(2007年)
2006年にインテグラタイプRが絶版となった翌2007年、姿を消していたタイプRは4ドアセダンのシビックで復活。
FD2シビックタイプRは4ドアセダンながらハイグリップタイヤにノーマルでガチガチのサスペンションを組み合わせるという、超スパルタンなクルマであった。
その甲斐あって不利な条件が重なりながらも同じエンジンでDC5(2代目)インテRを軽く上回る速さを得たが、あまりにスパルタンなせいもあったのか、短命に終わった。
●CR-Z(2010年)
CR-Zはホンダだけでなく日本車としても久々となったスポーツモデルの新型車だった。
CR-Zはフィットのプラットホームを使ったハイブリッドの3ドアクーペで、決して速いわけではなくユルいスポーツモデルだったが、低燃費でそれなりに楽しめるモデルではあった。
しかしこのコンセプトに中途半端さが否めなかったことや近い価格帯で86&BRZが登場したこともあり、改良は重ねられたものの人気は低迷し、1代かぎりで絶版となった。
●先代シビックタイプR(2015年)
当時モデルサイクル終盤だった欧州シビックに、メガーヌRSが火をつけた「2L FFニュル最速」を勝ち取るべく、半ば強引に設定されたモデル。目標は達成され、日本では750台限定で販売された。
クルマ自体は2L VTECターボを搭載し、ベースとなった当時の欧州シビックの各部を大幅に強化したという成り立ちで、やはりいろいろな意味で強引なところは否めなかったが、スポーツモデルと考えればそれも個性と受け入れられるモデルだった。
●S660(2015年)
ビートの現代版的な存在で、S660は当時20代前半のクレイモデラーだった椋本氏の社内での提案が通り、そのまま開発責任者になり市販化されたというプロセスがホンダらしい。
クルマ自体も速くはないものの、ミドシップながら多くの人が安心して運転を楽しめるセッティングとなっているのに加え、ブレーキのタッチなどは軽ながらスポーツカーらしいものだ。
なお荷物の積めなさ度はビート以上というのも男らしい。
●2代目NSX(2016年)
「V10エンジンを積む」と言われていた幻のモデルを経て10年ぶりに復活したNSXは、ミドに縦置きされる3.5L V6ツインターボに3モーターという、ハイブリッドの4WDというスーパーカーとして登場。
初期モデルは全体的に軟派な部分があり賛否両論あったが、最近登場した2019年モデルは見た目こそボディカラーくらいしか変わらないものの、NSXらしいスポーツ性が増しており、今後一層の熟成を期待したい。
●現行シビックタイプR(2017年)
日本では7年ぶりに復活した現行シビックには、イメージリーダーとなるタイプRも登場当初からカタログモデルとして設定された。
現行シビックは先代モデルと異なり、はじめからタイプR化が想定されていたこともあり、タイプRでも車体の性能は余裕あるものを備え、先代モデルに続き2L FFニュル最速の座に返り咲いた。
なお、現行シビックタイプRも先代モデル同様イギリス製のため、工場閉鎖による今後の動向が非常に気になるところだ。
■平成も、令和も ホンダのスポーツスピリットは受け継がれてゆく
平成が終わろうとしている今、これまでのホンダスポーツを振り返るとともに、最新のホンダスポーツにも改めて触れてみた。
ホンダのスポーツカーといえば、かつては価格を抑えながらも本格的な走りを楽しませてくれるクルマが多かったが、近年はスペシャル度を増し、価格も特別になってきた感がある。
しかし、それはスポーツカーがこれまで以上に貴重で特別な存在となり、普通のクルマとは一線を画すものになった世界のトレンドに、ホンダも合わせていると理解するべきだろう。
平成が終わって次の世代になり、そして、また次の世代になっても、かたちを変えてホンダはスポーツカーを作り続けてくれるはずだ。
心震わせる音を聞かせてくれる純ガソリンエンジン車はもう無理かもしれない。だがPHVでも、あるいはEVでも、ホンダのスポーツカーは全身で「ホンダらしさ」を主張してくれるに違いない。
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