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ポルシェ・ケイマンは、「718」に進化して何が変わったのか?

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ポルシェ・ケイマンは、「718」に進化して何が変わったのか?

ボクは最近、ポルシェ718ケイマンを買った。

ボクがこれまでに乗ってきたポルシェはボクスターS(986)、911カレラ(997)、ボクスター(981)の3台で、モデルこそ異なれど、水冷となってからはおよそ3世代すべてのスポーツモデルを乗り継いだことになる。そして今回ケイマンを購入したわけだが、ガレージに収めたのは「初」となる。

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ケイマンが登場したのは2005年、「987」世代においてだ。その後2013年に981世代となり、2016年に「”718”ケイマン」として名称新たに再デビューしている。※モデル名は718だが、コードネームは981から982へと変更されている

718世代におけるケイマンの特徴は、大きく分けて2つある、と考えている。ひとつは「718」という名称が与えられたこと。そしてもう一つは「ターボ化」されたことだ。

今回は、それらについて考えてみたい。

”718”の持つ意味とは

今回、ポルシェはケイマンとボクスターに対し、「718」という呼称を与えた。それと同時に、ケイマンとボクスターとの間に設けられていたデザインやパフォーマンス的な差異を取り除いている。

それまではパフォーマンス的にケイマンのほうが「上」で、加えてアグレッシブなデザインが与えられていたのだが、718となってからは「718のクーペモデル」がケイマンで、「718のオープンモデル」がボクスターだという扱いに変化した。

なお、名称に用いられる「718」とは、もともとポルシェ550の後継モデルとして1957年に誕生したレーシングカーだ。水平対向4気筒エンジンを車体中央に搭載した(つまりミッドシップだ)クルマで、数々の勝利をポルシェにもたらした。

そしてポルシェは、そのレーシングカーの名称を今回ケイマンとボクスターに与えている。なぜか?ボクは、これには以下の理由があると考えている。

まず、今後ポルシェは「ピュアスポーツカーの中核」をミドシップに移行させるのかもしれない、ということだ。

ポルシェといえば911だろう。そして911はスポーツカーのメートル原器、と言われるほど素晴らしいクルマだ。リアエンジン特有のトラクションを活かした加速は、他のなにものにも代えがたい。

だが、運動性能を考えると、リアエンジンはミドシップには敵わない。

これは重量配分や制約の点から「どうしようもない」事実であり、ここにポルシェはジレンマを抱えている。ポルシェはニュルブルクリンクにおいて7分切りを達成したスーパースポーツの「918スパイダー」を発売しているが、このパフォーマンスはミドエンジンでしかなしえなかったことは明らかだ。

ポルシェは、長年リアエンジンを続けてきたからこそ、リアエンジンの利点も、そうでないところも知り尽くしている。そして、運動性能を考えると「ミドシップしかない」のはわかっているが(そしてミドシップの優位性も理解している)、911からリアエンジンレイアウトを取り除くことはブランドイメージ上「不可能」だ。

よってポルシェは、今後911をリアエンジンのまま「グランドツーリング」方向へと向かわせ、代わりに718を「ピュアスポーツ」へと転じさせるのではないかと考えている。

ちょっと無茶な話だと思うかもしれないが、ポルシェはボクスター、そしてケイマンについて、987世代までそれらを「プロムナードカー」つまり公道を走って楽しむクルマであり、サーキットを走るのは911の役目だとしてきた。※”プロムナード”とは、散歩という意味である

そして、意図的にケイマンのパフォーマンスを「911未満」に抑えるという、涙ぐましい努力もしてきたという事実もある。

だが、981世代からその風向きも変わってきた。
ケイマンSが911カレラよりもサーキットにおいて優れたタイムを出すことを公式に認めたのである。

そこへ来て、「プロムナードカー」とポルシェが定義してきたケイマンとボクスターに対し、ポルシェを代表するレーシングカーのひとつ、「718」の名を与えた。
これを下剋上と言わずしてなんと言おうか。

長い時間がかかったが、ボクスターとケイマンは「プロムナードカー」から「レーシングカーと並んで語られる存在」となったのだ。

こういった「流れ」を見る限り、ポルシェは718シリーズを、シンプルで軽量な「ピュアスポーツ」として認知させようと考えているのだと思えてならない。

そして、今後911を超える運動性能を与えるためのエクスキューズとして、往年のレーシングカー「718」の名称を選んだのだろう。

参考までに、ポルシェは「スポーツモデル」に対しては「911」「718」といった、3桁の数字を与え、5ドアモデルには「パナメーラ」「マカン」「カイエン」といった”名前”を与えるという方針を決定し、両者の間には一線を引くことにしている。

ターボ化の理由とは?

そして718世代にとって、もうひとつの特徴は「ターボエンジン化」だ。

ポルシェのクルマは高い運動性能を誇るが、他のライバルたちがターボエンジンを採用する中、数字的に見劣りしてきたことは否めない。はっきりいうと、価格の割に馬力が低かったのだ。

現在ポルシェは多くの地域で販売され、新興国における顧客の中にはポルシェのヘリテージを理解しないまま、単なるブランド品として購入する顧客もいるだろう。そういった顧客がポルシェのスペックを見たとき、「割高」に感じるであろうことは容易に想像できる。

そこでポルシェは、911ともどもボクスター、ケイマンについても数字的に見劣りしないよう「ターボ化」に踏み切ったのだろう。

ただし、911のように「フラットシックス(水平対向6気筒)をターボ化」したのではない。2気筒削り、「フラット4(水平対向4気筒)」化したうえでターボ化したのだ。

これには様々な理由があると思われる。コストや燃費、エミッションの問題が頭に浮かぶが、ボクが考えるのは「重量」だ。

718世代は、自然吸気エンジンを積む981世代に比べ、50キロほど重量が重い。ターボチャージャーや、それの補機類の影響があると考えているが、これがもし「フラットシックスのままだったら」もっと重くなっているのは間違いない。

そうなると、軽量なレーシングカーであった「718」のイメージとは相反することになるし、そもそもの運動性能もスポイルされる。

加えて、911との差別化という観点からも「フラット4」の採用に踏み切ったのではないかと考えている。

そして、登場以降、ずっと水平対向6気筒エンジンを採用してきたボクスター/ケイマンのエンジンをフラット4へと変更すること、つまり「ダウンサイジング」を納得させるために用いたのが、「水平対向4気筒エンジンを搭載し、成功を収めた」718のネーミングなのではないかとも考えている。

つまり様々な要素が絡み合っての「718化」であると考えているが、ボクはこの変化については肯定的だ。

ちなみにこのターボ化によって、排気量は2982ccから1988ccへとダウンしているものの、エンジン出力は従来の265馬力から300馬力へと向上し、トルクは300Nmから380Nmへと増強された。さらにポルシェによると、燃料消費量は14%も低下しているという。

ポルシェは「燃費向上のないパワーアップは行わない」としているが、そのための手段が今回のターボ化であるとも考えられる。

718ケイマンを実際に運転した印象については、あらためて述べる機会を設けたい。

[ライター・撮影/JUN MASUDA]

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