1990年、量産車として世界初オールアルミモノコックボディで登場した、ホンダの初代NSX。ボディパネルだけでなく構造部材もすべてアルミ素材とし、ホワイトボディはおよそ210kg、スチールに比べておよそ140kgもの軽量化に成功し、ピュアスポーツカーとしての運動性能向上に大いに貢献した。
この初代NSXを皮切りに、オールアルミモノコックボディの技術は、他のメーカーでも採用されていったが、大衆車まで普及したとはいえず、2022年現在は、オールアルミモノコックボディをウリにしたクルマは、ほぼ聞かなくなった。なぜアルミモノコックボディは普及しなかったのだろうか。
やっぱり初代NSXは偉大だった!? アルミモノコックがいまいち浸透しないナゼ
文/吉川賢一、写真/ホンダ、アウディ、BMW、ジャガー、ACM、ベストカーWeb編集部
初代NSXを皮切りに、欧州高級車メーカーが採用
ホンダ初代NSXのアルミボディ
アルミのモノコックボディの最大のメリットは「軽さ」だ。単純に金属としての比重をみれば、鉄7.8に対してアルミは2.7とおよそ3分の1の重さであり、同じ強度ならば鉄に対してアルミはおよそ3分の2の質量に抑えることができる。「軽さ」はクルマにとって正義。運動性能や燃費などに、さまざまなよい影響を及ぼしてくれる。
またアルミは成形や加工が容易で、複雑な形状を作りやすい。そのため複雑なモノコックボディの構造材として、剛性を上げたい部分は肉盛りをしたり、不要な部分は切削するなど、スチール(鉄)よりも剛性をコントロールしやすいというメリットもある。錆にも強く、リサイクル性も鉄と比べて極めて高い、という点も、クルマにとっては好都合であった。
ホンダは、レーシング用バイクをはじめとした高性能バイクに古くからアルミフレームを使うなど、アルミの扱いに長けていた。また、神戸製鋼所をはじめとする材料メーカーの協力も大きかったのだろう。バイクよりもずっと大きい4輪のスポーツカーをオールアルミ化する偉業を成し遂げた。初代NSXが登場した1990年以降、アウディやBMW、ジャガー、メルセデスといった欧州の高級車メーカーが、一部の車種へオールアルミモノコックを導入している。
オールアルミモノコックボディを採用した代表的な車種
アルミボディを全面に押し出した高級サルーン「アウディA8」(プロトタイプ)
●ホンダ 初代NSX(1990)
量産車として世界初オールアルミモノコックボディを採用。スチールに比べて約140kgもの軽量化を実現。サスペンションアームやメンバー、エンジンなどにもアルミを多用し、車両全体では約200kg軽量化
●アウディA8(1994)
オールアルミニウムボディのASF(アウディスペースフレーム)を採用。一般的なスチールモノコック構造と比較して約40%軽量化
●ホンダ・インサイト(1999)
オールアルミ製のモノコックシャシーを採用、外板はアルミと樹脂の複合材を使用
●アウディA2(1999)
アルミスペースフレーム、パネルもすべてアルミ製としたことで、最軽量モデルは約900kgで登場
●BMW Z8(1999)
BMWとして初のアルミスペースフレームを採用。ボディパネルもすべてアルミ製。サスペンションにもアルミを多用
●ジャガーXJ(2003)
リベットと接着剤で組み立てられたオールアルミのモノコックボディを採用。ホワイトボディは295kg、先代のスチール製のXJに比べて約40%もの軽量化を達成。なお車体のねじり剛性は約60%上昇
●メルセデス・ベンツSL(2011年)
フルアルミニウムボディシェルを採用。140kgの軽量化を達成
最大の障壁は製造コスト
ホンダ高根沢工場。アルミ生産のため専用の発電所を併設していた
だがオールアルミモノコックボディは、広く普及したとは言えず、国内メーカーでは、ホンダ以外のメーカーで採用されることはなく、トヨタや日産が部分的にアルミ構造体を入れ込んだ程度。オールアルミモノコックのデメリットが大きかったためだ。
デメリットのひとつはアルミの柔らかさだ。アルミはスチールに比べて柔らかい素材であるため、少しの衝撃でへこみや傷が付きやすく、慎重な取り扱いが必要だった。またスチールの融点(約1500度)に比べてアルミの融点(約660度)が低いため、溶接作業が難しく、マシン溶接が普及していない当時、精度を出すには熟練した技術が必要であった。
デメリットのふたつめはコストだ。アルミの生産や加工には多くの電力が必要。ホンダは、NSXのためにつくった高根沢工場に、アルミボディをつくる際に消費する膨大な電力消費を補うための発電所を備えた。それほどに大きな電力が必要だったのだ。
鋼材の進化で有用性が低くなった
自動車の素材の密度の違い(株式会社ACMホームページより)
しかし、オールアルミモノコックボディが普及しなかったのは、「ハイテン材」の登場も影響している。ハイテン材とは、鉄に混ぜる炭素含有量などを調節し、強度を高めた鋼材のこと。通常の鋼材の引張り強度の2倍から3倍の引張り強度をもつので、「高張力鋼材」ともいわれる。つまり、強度を保ったまま薄くできる=軽量化ができるのだ。近年では、3倍以上の引張り強度をもつ「超高張力鋼板」も登場している。
鉄をベースとするハイテン材は、コストが安く、プレス成型が容易で大量生産に向いている。つまりオールアルミモノコックボディでなくとも、近しい軽量化が狙えるようになったのだ。また鉄の弱点でもあった錆に対しても、耐腐食性を高めたハイテン材が登場しており、アルミでないといけない理由がなくなった。これが、近年オールアルミモノコックボディが登場していない理由だ。
ちなみに日産は、2018年に、「世界初、高成形性980MPa級超ハイテン材を採用拡大」することを発表している。自動車用鋼板として多く使用されている従来の590MPaハイテン材に近いプレス成形性や衝突時のエネルギー吸収性能を持ちながら、引張強度980MPa以上の高い強度を両立したとのことで、2018年にデビューしたインフィニティQX50のフロントサイドメンバーやリアサイドメンバーなどの車体骨格部材として、超ハイテン材を世界初適用(適用率27%)、今後発売する新型車にも採用拡大するとしている。
現在はアルミを適材適所に、軽量化よりコスト・リサイクル優先の傾向
現代の自動車は異素材の組み合わせで構成されている
現在の大衆車では、通常の鋼材とハイテン材を組み合わせたボディ構造が主流だが、高性能スポーツカーや高級車の世界では、アルミやハイテン材、カーボンなど、複数の素材を組み合わせた「マルチマテリアルボディ」が主流となっている。更に高額のスーパーカーになると、レーシングカーと同じようなカーボンモノコックボディも採用されている。
例えばR35型GT-Rでは、カーボンファイバーやアルミダイキャスト、ハイテン材という3種類の材料を採用している。剛性の欲しいストラットタワー部はアルミ製とし、ルーフやボンネットなど軽量化優先の部位はカーボン素材だ。また2代目NSXでは、アルミ合金の押出材を骨格に使い、アルミのプレス成形品や鋳造品、CFRP製フロアパネル、SMC(シート・モールディング・コンパウンド)製外板部品など、まさにマルチマテリアルなボディ構造としている。
このように、複数素材を適材適所に使い分け、必要な剛性と軽量化を達成すべく、設計されているのが現在のボディ設計だが、「リサイクル性」という観点でみると、ハイテン材でつくったボディの方が適している。今後は、さらに進化したハイテン材を利用したボディ構造が、主流となっていくだろう。
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みんなのコメント
そういう意味でアルミモノコックはちと無理がある。
また、修理が完璧に出来ないのもね、伸びちゃうもん。
クルマには向かないよね。
車の場合他の部品との影響で電位差腐食しやすい。
それ程良い材料とは思えない。