デザイン、装備、価格、パッケージングなど、クルマが人気モデルとなるには、様々な要素が求められる。自動車メーカーは、「人気のモデル」を目指して、市場を注意深くリサーチし、多額の開発費を投じて、クルマを開発する。
しかしながら、ユーザーに受け入れられず、残念ながら一代限りで販売を終了してしまったクルマも多数存在する。今回はそんな一代限りで終わってしまったクルマを5台ピックアップし、その魅力を振り返る。
ノートオーラ誕生で再注目!! 小さな高級車はなぜ魅力的なのに成功できないのか
文:エムスリープロダクション/立花義人
写真:MAZDA、HONDA、SUZUKI、TOYOTA、ベストカー編集部
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一度は体感しておきたいロータリーエンジン車「マツダRX-8」
一気に高回転まで吹け上がるロータリーエンジンのフィーリングや、「シューン!」という独特の音は、多くのファンを魅了してきた。しかしその系譜も、2012年に生産終了となったRX-8で途絶えてしまった。
2012年に生産終了となってしまった、RX-8。孤高のロータリースポーツは、一度は味わっておきたい
RX-8はターボではなくNAを採用、かつ4名乗車がラクにできる観音開きの「フリースタイルドア」という独特のパッケージングで登場した。しかし、コンパクトでもハイパワーでもなく、手軽にチューニングもできないなど、スポーツカーを求める層には受け入れがたいデメリットが災いし、RX-8は「不人気車」のレッテルを貼られてしまうこととなる。
しかし、クルマとしての出来は素晴らしく、ほぼ新開発ともいえる13Bロータリーエンジンの気持ちよさ、シャシー剛性の高さやダイレクト感のあるハンドリングなど、スポーツカーとして評価できるポイントはいくつもある。そして2ドアより4ドアの方が使い勝手が良いのも確かだ。
不人気車ゆえに中古で安く手に入る。孤高のロータリースポーツを味わうなら、今が最高のタイミングなのかもしれない。
RX-8のフリースタイルドア。この観音開きのドアは2020年、MX-30によって復活した
独特のパッケージングと斬新なデザイン「ホンダエレメント」
観音開きのモデルをもう一台。ホンダ「エレメント」もまた、一代限りで終わってしまった名車だ。エレメントは、北米の若い世代を対象に開発されたクロスオーバーSUVであり、1800mmを超えるワイドで存在感のあるボディにスクエアなスタイリング、2.4L DOHC i-VTECエンジン、デュアルポンプ式4WDというメカニズムを備えたモデルだ。
20年近く前のクルマとは思えないデザイン。登場時期が違っていれば、違った結果となっていたかも
最も特徴的なのはセンターピラーレス構造と両側観音開きのサイドアクセスドアで、全て開けると開放的な雰囲気を味わえる。また、上下に分割開閉するリアゲートも使い勝手がよく、ベンチのように腰掛けて使うこともできた。
(日本では)やや大きめのボディサイズなのに後席ドアが独立して開かないことや、クセのありすぎるデザインなどが理由で販売は振るわず、2003年~2005年のわずか2年ほどで販売終了となってしまった。
センターピラーレス構造と両側観音開きのサイドアクセスドアは解放感バツグン。上下に分割開閉するリアゲートも使い勝手がよい
しかし車中泊や車内テレワークが注目を浴びる今、このパッケージングはかなり魅力的ではないだろうか。斬新デザインのおかげで古さを感じさせず、いまみても新鮮に見える。登場時期が違っていれば、違った結果となっていたかもしれない。
ファミリーじゃなくても欲しくなる「ホンダジェイド」
流れるようなルーフライン、キリッとした表情のフロントセクション、全体のバランスを取るかのように存在感を持たせたリアコンビネーションランプなど、どの角度から見ても美しいデザインのジェイド。
この流れるようなルーフラインがジェイドの魅力。低床ミニバンのパッケージングで、走りも非常に安定していた
それでいて3列シート6人乗り、立体駐車場に対応した全高、SPORT HYBRID i-DCDメカニズム、先進の安全運転支援システム「Honda SENSING」の搭載などスキのない作り込みで、完成度が非常に高いクルマだ。
ホンダが得意としていた低床ミニバンのパッケージングで、走りも安定していて乗り心地もわりと良かった。しかしながら、ファミリーカーとしては浸透せず、販売不振につき2020年7月で販売終了となってしまった。
確かに、3列シートの利便性ではハイトタイプのミニバンに敵わない。しかし一方で、ミニバン所有者でも3列目シートを日常的に使う人はそれほど多くないのではないか。多人数乗車=ハイトミニバンという常識から少し離れてみると、ジェイドの魅力の高さを改めて認識できるのでは? と思う。
「3列目が狭すぎる」と酷評されていたが、3列目ってそんなに日常的に使うものなのか!?
ブラッシュアップして売り出せばヒットするかも!? 「スズキツイン」
軽自動車として最小サイズの全長2735mmというボディの2人乗りモデルである「ツイン」。独特の丸っこいデザインや49万円~という低価格、市販軽四輪車初のハイブリッド搭載(こちらは139万円と割高感がある)も話題となったが、斬新すぎたのか、わずか3年弱で販売終了となってしまった。
ツインの原型である「Pu3コミュータ」は、第33回東京モーターショーで「ザ ベスト コンセプトカー」特別賞を受賞。期待されたクルマであったが、斬新すぎたのか、短命に終わってしまった
搭載されるエンジンは特にパワーがあるわけではない。しかしながら、車両重量560kg~と軽いことや最小回転半径が驚きの3.6mということもあり、その走りはキビキビと軽快そのもので、とにかく楽しい。
ダイムラーの子会社が手がける「スマート」が成功していることを考えると、2人乗りのコンパクト軽自動車というコンセプトは受け入れられない、というわけではないだろう。軽自動車を作るのが得意な日本だからこそ、ツインのように割り切ったモデルが一台くらいはあっても良いはずなのだが。
徹底的なコストダウンのため、ガラスハッチによってバックドアを代用していた
セダンに新たな価値観を加えた「トヨタプログレ」
「小さな高級車」というキャッチコピーで1998年に登場したプログレ。5ナンバーサイズのセダンでありながら、その中身はセルシオにも匹敵するこだわりの内装、かつ2.5L/3.0L直列6気筒エンジンのラインアップのみという本物志向のパッケージングで登場したクルマだ。
5ナンバーサイズと、狭い駐車場でも扱いやすいサイズでありながら、豪華装備を誇っていた
インパネやドアトリム、コンビステアリング、シフトノブなどは、木目「調」ではなく本物のウォールナットやバーズアイメイプル、サペリマホガニーを用意し、シート表皮には本革を採用。
その他にも、高級オーディオやレーダークルーズコントロールの搭載、全色5層コート塗装など、誰が乗っても「いいクルマ」と評価できる素晴らしい仕上がりのクルマだった。
しかしながら、カローラとほぼ同じサイズでありながらFR のため車内は狭く、クラウンと同価格帯であったこと、保守的なデザイン、セダン人気に陰りが出ていた時代であったことなど、残念ながら、プログレには不人気車になる要因が揃ってしまっていた。
しかしながら、日本の狭い道路でも扱いやすい本物志向のクルマ、という意味では価値ある一台といえよう。
この豪華な内装は、プログレ最大の魅力。2007年に9年の歴史に幕を閉じた
「売れないクルマ」はもう登場しない!?
近年、自動車メーカーでは、ビッグデータの活用や次世代アーキテクチャの導入により、開発費用を抑えつつ「売れるクルマ」をリリースすることが可能になってきている。ここで取り上げたような個性的なモデル、面白いコンセプトのクルマは、今後は、もう登場することはないのかもしれない。
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みんなのコメント
だからこそ、ジェイドみたいなスタイルの車の三列目シートは「室内空間の無駄使い」になるんじゃないのか?
ただでさえ背の高いミニバンよりも狭い(低い)荷室が、「三列目シートの存在」分狭くなってしまうんだから