エンジンの始動や動力補助を行うマイルドハイブリッド(48Vハイブリッド)を採用し、電動化を一気に進めてきたボルボ。今回は「B4/B5/B6」という3つのパワートレーンを搭載する3モデルに試乗して、それぞれの特徴とどんな違いがあるのかを検証してみた。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2021年1月号より)
コアバリューである「安全」に加え「環境」を強く意識し、電動化を推進
「キュルキュルキュルヴォーン」というエンジンをかける時の音は、新世代のボルボ車からは聞こえなくなった。スウェーデンのボルボ・カーズが「2019年以降の新型車はすべて電動車にする」と発表したのは2017年。そして今(編集部註:2020年)、その宣言どおり電動化が完了した。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
この電動車というのは電気モーターで駆動できるクルマを指すが、エンジンが搭載されていない電気自動車(BEV)の日本登場は2021年になるので、あと1年ほど待たなければならない。それでも今はすべてのモデルが「マイルドハイブリッド(MHEV、ボルボでは48Vハイブリッドと呼ぶ)」か、外部から充電できる「プラグインハイブリッド(PHEV)」搭載車になった。つまり駆動用にICE(内燃機関)しか搭載されていないモデルは、ボルボは新たに開発しないのである。
ボルボのこれからの目標は、今後5年間でBEVを5車種導入、2025年までに世界販売台数の50%をBEVに、残りをPHEVとMHEVにすることだという。また2040年までにクライメートニュートラル企業になることを目指しており、車両の電動化のみならず、開発、生産やサプライチェーンにいたるすべての企業活動において環境負荷を低減しサステイナビリティを推進するという。これまでのボルボのコアバリューである「安全」に加えて、「環境」を強く推進することが、ボルボのブランド価値
とユーザーにとっての価値を最大化できることだと考えている。
将来的にはどの自動車メーカーも電動化に向かうだろうが、ボルボはなぜいち早く全車電動化に踏み切ったのか。そしてなぜ全車電動化に踏み切れたのだろうか。
それはボルボの事業規模が全車電動化にチャレンジするにはちょうど良かったということもある。2020年はコロナ禍で少し落ち込んでいるが、2019年の世界生産台数は約70万台だった。
これが年間200万台、500万台、それ以上の規模だったら、電動化への設備投資だけでも大変な額になるし、サプライヤーも含めたパーツの供給体制を整えることも難しくなる。いい意味で小回りが効く経営ができる状態だったのだ。
もうひとつ思い切った理由は、時代の最先端にいることの重要性がXC90の発売以降わかってきたからだ。通常の5倍くらいの開発費をかけてできあがったXC90の評判が良く、その後のXC60、XC40、さらにそれらのバリエーションもユーザーからの理解を得て、販売台数を伸ばした実績がある。時代の最先端を走っていくことの重要さと同時に手応えも感じ、電動化に関しても思い切った戦略で進めていくことができたのだ。
燃費性能だけでなく静粛性を向上させた48Vハイブリッド
現在、ボルボのハイブリッド車はMHEV(48Vハイブリッド)とPHEVの2種類である。まず、この章では48Vハイブリッドの解説から始めよう。
48VハイブリッドはISGM(インテグレーテッド スターター ジェネレーター モジュール)が肝になる。エンジンのファンベルトのところに太めのベルトがかかり、スターターモーターとジェネレーター(発電機)の2つの役目を果たすモーターが組み込まれている。通常エンジン始動はスターターモーターが回ってピニオンギヤが飛び出し、フライホイールの外側のギヤに噛んでエンジンを回して始動する。
この時のギヤの音が冒頭の「キュルキュルキュル」なのである。ところがISGMではベルト駆動なので金属音はなく、かかった時のエンジン回転の急上昇もなく、ただただ穏やかに前からかかっていたような顔をして、派手な音や振動もなくブルルルッとエンジンが回っているのだ。
ISGMはクルマに乗り込んで最初にエンジンをかける時だけでなく、アイドリングストップからの再始動でも同じように静かにエンジンがかかる。
このISGMのモーターだけでタイヤを駆動することはなく、エンジンを回転させて通常のパワートレーンのルートでトルクを伝達している。その最高出力と最大トルクは10kW/3000rpm、40Nm/2250rpmである。これがどれくらいの力かというと高回転まで回る125ccのバイクぐらいの出力で、400ccガソリンエンジンのトルクである。エンジンに付属している電気モーターといっても侮れない力だ。
ISGMの役目はスターターモーターと駆動の補助、もうひとつは発電だ。48Vハイブリッド用に24セルのリチウムイオン電池を搭載しているから、アクセルオフの時にはエネルギーを回生してバッテリーに電気を溜め込むことができる。
電気モーターのメリットは回転数が低いところから太いトルクが出せるという点だ。ブレーキペダルを踏んで停止している時にエンジンはアイドリングストップしている。ここからブレーキペダルを放したらすぐにISGMはエンジンをかけると同時に駆動力を出すために力を発揮する。だからアクセルペダルを踏み込む時は、電気モーターの駆動力に加えてエンジンがこれから力を出そうというタイミングなので、この一連の作業がスムーズに行えるのだ。このモーターが48V(ボルト)で作動するので「48Vハイブリッド」と呼んでいる。
B4/B5/B6の3機種それぞれの持ち味を検証
各モデルに搭載されるエンジンは2L直列4気筒で、同じエンジンながら最高出力と最大トルクが異なる3タイプ(B4、B5、B6)を設定する。B4とB5はインタークーラー付きターボチャージャーを組み合わせ、高出力モデルのB6はこれに加えて電動スーパーチャージャーを備える。
それぞれの最高出力と最大トルクは、B4が145kW(197ps)/4800-5400rpmと300Nm/1500-4200rpm。B5が184kW(250ps)/5400-5700rpmと350Nm/1800-4800rpm。B6が220kW(300ps)/5400rpmと420Nm/2100-4800rpmとなっている。
今回試乗した48Vハイブリッド車は、XC40 B4 AWD インスクリプション、V60 B5 Rデザイン、そしてXC60 B6 AWD Rデザインの3車種。基本のハードは同じなのにインプレッションはそれぞれの持ち味が興味深かった。
今回、一番車両重量が重かったのはXC60の1940kgだったが、B6はパワーとトルク感が強いのが印象的だった。低速走行でアクセルペダルをオフにしている状態から急に床まで踏み込むと、ガツンというショックを伴うほど強烈なトルクが立ち上がる。これはちょっと乱暴なチェックだったが、B6のトルクの強さを見せつけられた感じだ。このトルクはターボチャージャーに加えて、低回転域でのレスポンスに優れる電動スーパーチャージャーをB6にだけ装着することで引き出している。
加速感を感じながらアクセルペダルをジワッと踏み込んでいくとトルクのつながりがスムーズできれいな加速ができる。まあこれが通常のドライビングなのだが、エンジンに力があるので、そのぶん、アクセルワークをスムーズに行う必要があるのがB6だ。重量が重いのに軽快に走れて気持ちいい。
その点ではXC40 B4はアクセルペダルの踏み方を気にせず一番スムーズに走れた。エンジンのパワーとトルクが3タイプのパワートレーン中では一番小さいものの、急にアクセル全開にした場合でも、そのあとに湧き出すトルクがそこそこなので加速感の段差が大きすぎないのがいい。
エンジンパワーは控え目でも、この車重(1750kg)には十分な力がある。アクセルペダルの踏み始めのところはISGMがカバーしてくれ、ターボチャージャーが立ち上がる前に電気モーターが後押ししてくれるのを感じる。この裏方のおかげで、アクセルペダルに遅れなくスムーズに加速できる。
ちなみに48Vハイブリッドは、エンジンに負荷がかかっていない時は気筒休止(1番と4番シリンダー)するが、これは注意していてもわからないほど自然に働く。さて、B6とB4の中間のB5はどうか、V60 B5で試してみた。
エコなだけではなく運転が楽しめるハイブリッド
B4から乗り換えると、B5はゆっくりアクセルペダルを踏み込んでいっても直後からB4よりトルクが太い感じがして、実際に加速もいい。とくにドライブモードをダイナミックに合わせると、エンジン回転数を常時2000rpm以上にキープし、8速ATのギヤを1段か2段低い方にして走るので、スポーツカー風なキビキビした走りができる。ハイブリッド車ということを忘れてしまいそうなプログラムだ。
B5はアクセルペダルの踏み始めから反応が良いのだが、急に踏み込んだ場合にはトルクの立ち上がりもそれなりに急になる。それでもB6ほど後から来るトルクは強烈ではない。
V60 B5撮影後も1週間ほど試乗することができたが、すっかり48Vハイブリッドに身体が馴染んでしまった。朝イチでエンジンをかける時も、アイドリングストップからの再始動でも、あのキュルキュルヴォーンがない。またアクセルペダルを踏み込んで加速する時もモーターが助けてくれるからトルクの立ち上がりは遅れることなく、スムーズな加速ができるので終始気持ちのいいドライブをすることができた。
V60は剛性の高いボディを持ったワゴンだが、重心位置が低くスポーティなドライビングにも適している。あまりハイブリッド車ということを意識しないで走れるところも美点だ。
48Vハイブリッドは通常のオルタネーターの代わりにISGM用のモーターが入り、二次バッテリーとしてリチウムイオンが追加されるが、これはそれほど大きなものではなく、重量もさほど増えない。そうなると48Vハイブリッドのメリットとデメリットを考えた時に、デメリットが少ない上にメリットの多さを強く感じた。
もうひとつ良かったのは、B4、B5、B6ともにあまりハイブリッドっぽくない点だ。エコに振りすぎて日常の走りで精彩を欠くようだと我慢の運転になるが、そんなことを感じさせないドライビングフィールが良かった。(文:こもだきよし/写真:永元秀和)
■ボルボ XC60 B6 AWD Rデザイン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4690×1915×1660mm
●ホイールベース:2665mm
●車両重量:1940kg
●エンジン:直4 DOHCターボ+スーパーチャージャー+モーター
●総排気量:1968cc
●エンジン最高出力:220kW(300ps)/5400rpm
●エンジン最大トルク:420Nm(42.8kgm)/2100-4800rpm
●モーター最高出力:10kW/3000rpm
●モーター最大トルク:40Nm/2250rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:フロント横置き4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・71L
●WLTCモード燃費:11.1km/L
●タイヤサイズ:255/40R21
●車両価格(税込):799万円
[ アルバム : ボルボ XC60 B5 R-デザイン はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
左右にレーンチェンジするようなシーンで揺すられる感じが無くなり一体感が出た。
腰高なイメージが払拭された印象がある。
もっとも、ガソリン、ディーゼル、ハイブリッドとキャラクターごとに味付けは変えているだろうが。