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いつまでも忘れられない、記憶に残るクルマの記事ってありませんか?

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いつまでも忘れられない、記憶に残るクルマの記事ってありませんか?

まさか自分がクルマのライターになろうとは。何となく楽しそうではあるけれど「ああなってはいけない」職業のような気がしていたのです。ですから、こうなってみると、楽しい日々である反面「人間低きに流れるさだめ…」などと思うこともしばしばです。

さてその昔、自動車メディアは雑誌が主流でした。月末なり月初なり、本屋さんに並ぶ自動車雑誌。それぞれにはカラーがあって、世界感(言葉にすると仰々しく、まるで各紙が自誌に陶酔していたかのような雰囲気になりますが、そういうものではなく、体裁というか流儀と申しましょうか。そういうカラーがしっかりと分かれていた、ということを申し上げたいのです)があったように感じたものです。今はWEB全盛。私の書かせていただいたものも、メインはWEBメディアで公開されます。

人生が10倍豊かになるクルマのイベントとは?今回はそんなお話をしたいのです

端的に申し上げて、私の書くものも含め「筆圧が弱い」気がしてなりません。例えばE38型のBMW7シリーズ。後期マイナーチェンジで若干エンジンが大きくなった記事。735が追加されたことに加え、740は4000ccから出力の額面は変わらないものの、4400ccへとスケールアップされました。それを世界で初めて、BMW製の星型9気筒エンジンを搭載してアルプス越えを果たしたクラシック旅客機「ユンカースJu52」に乗るコースが組まれた日本上陸前のドイツ試乗会の記事で、細かい排気量は失念してしまいましたが「数字は変わらないながらも400cc拡大されているエンジンはパワフルに感じられ、500ccどころか600cc、いや750cc拡大されたと言っても過言ではないほどなのである」と、妙に細かく表現されていたのが今も印象に残っているのです。

これに関してはバックナンバーがすぐ見られる方、正確な数値と文面を教えてほしいほど、懐かしく愛おしいテキストでありました。「過言ではない」は、実は過言なのであります。排気量という燃焼室容量は、厳密に400cc拡大されただけなのですから。しかし、そうすれば税金も高くなります。そしてカタログ上の数値は変わらないとくれば、購入を検討している人にとって必ずしも歓迎しないマイナーチェンジかもしれない。筆者はもしかしたら読者にそう思われるのではないかと、気にしたかもしれません。しかし、それをものともせず、2トンのボディをその飛行機がアルプスを越すがごとく、軽やかに感じさせることがこの表現。どのくらい大盛にできたかをテキストで表現するのにこういう言い方をしたのでしょう。しかし、V12の750の領域を侵食するまでではないもの、大いにトルクフルで素晴らしい「名車に仕上がっている」のです。

NAVIと土曜日のラジオ「サタデーウェイティングバー・アヴァンティ」の受け売りで成り立っていた当時のなかごみくんは、心の底からそう信じ込んだものでした。そしてドイツの黒い森の間を刺すように走り抜ける7シリーズが私の印象に強く残った記事でもありました。こういう記事、今以前にもましてお目にかかれなくなっているような気がするのです。途中で垂れてしまう。そして、クルマなんて言うものは、時にかっこつけたい人が、人の目を気にして乗るものであって、そこで魅了させることができているのだろうか?関わっている身として、とても自らの筆圧の弱さをふがいなく思うことばかりなのであります。

でも、一番強烈なのは一枚の写真です。カーグラフィックで、シトロエン・エグザンティアが日本で発売されるのに際して掲載した一番最初の国内試乗インプレッションの記事の一番最後の写真。秋に色づく落ち葉を舞い上げながら、茶色でしたかボルドーでしたか、ハイドラクティブ2サスペンションのV-SXではなく、コンベンショナルなシトロエンのハイドロニューマチックサスペンションを搭載した、価格的には下位に相当するSXのみに設定されていたカラーの個体をクルマの高さにぐっと落とした位置から颯爽と走り去る写真です。

それまでのシンプルなBXからやけに豪華になって、しかし高級車にその分なったことで、さらに遠い存在になってしまったような後継車種であるエグザンティア。デザインも最初見た目にはややエキセントリックに感じられました。しかし、モダンなフォルムでありながら、止まっているときに佇む姿勢は卵を温める鳥のようであり、実はシトロエンが旧来持ってきていた大きなキャビンも際立つのに対し、ひとたび姿勢を挙げて走り出せば、ややクルマ全体は前傾に見えるのに、むしろスタイリッシュに視線を惹きつける様な様を見せる。そんなエグザンティアの魅力にはすでにそれまでの記事・写真で執り憑かれていたのですが、最後のページでこの「去りゆくエグザンティア」を観たとき、これから発売開始というクルマの「去り行く様」に何かセンチメンタルな気持ちを抱いたものでした。そして「シトロエンは秋の季語」だという確信を覚えたのもこの時にほかなりません。

私はクルマを追いかけたいとは思いません。振り向きたいのです。このエグザンティアの写真はそんな示唆も含んでいますね。そして少しでもクルマの方を振り向いてくれる人が増えるように私は文章を書いていきたい。そんな風に思うのです。皆さんの記憶に残るクルマの記事とはどんなものでしょうか?

[ライター/画像 中込健太郎]

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