快適なクルーズ 山道でも楽しめる
今回の舞台はサントロペだ。わたしはこれからマクラーレン初のグランドツアラーであるGTに乗り、英国まで戻る約1600kmの旅をする。ラグジュアリーさや快適性、洗練性だけでなく、マクラーレンらしいパフォーマンスや運動性能を兼ね備えているのだろうか。
視界が良好に保たれており、サントロペの狭く凹凸だらけの道でも、このマクラーレンは不自由なく走ることができる。そしてオプションのノーズリフトにより、巨大なスピードバンプを超える際にもカーボン製パーツを擦らずに済む。非常に柔軟で快適でありながら、ステアリングの感触も良好だ。
さてサンロトペを出て、ある程度の交通量があり流れの速いフランスの典型的なD級路に来た。攻め込むような道ではなく軽く流すところであり、すべての設定をコンフォートにしているが、非常に快適だ。非常に速いクルマではあるが、ドライバーを急かすようなことはなく日差しを浴びながらフランスの美しい景色を眺めるような走り方にも対応している。
次は郊外の峠を走ってみよう。素晴らしいコーナーが連続する最高の道路だ。マクラーレンはこんな道でこそ真価を発揮する。搭載する4L V8ツインターボは他のモデルのそれよりも圧縮比が高められ、ターボの完成も小さくなっている。これにより扱いやすく、カドが丸められた印象だ。
620ps/64.3kg-mを発生するこのエンジンは2000rpm以下ではおとなしいが、3000rpmを超えるとまさに離陸しそうな勢いを見せる。最高に華麗なサウンドとは言えないものの、明確な存在感があり、良い仕事をしている。組み合わされる7速DCTはシフトアップもダウンも非常に素早いものだ。
全体的にカドが取れた印象に
ブレーキは街乗りでは効きすぎるようだったが、こんな道には最適だ。鋳鉄製のディスクでも制動力は十分だろう。シャシーもカドが取れた印象で、スポーツモードでは路面によくなじみ、凹凸を舐めるように走ってくれる。魔法の絨毯のようではないが、適切な硬さだ。
マクラーレンによれば、このクルマのおよそ3分の2が新開発であり、その大部分がボディワークにあるという。特にオプションで用意されるこのブロンズの塗装は美しく、わたし好みだ。もっとも注目すべき機能は、マクラーレンが初採用したプロアクティブ・ダンピングだろう。これは路面状況に反応するだけでなく、アルゴリズムにより次に起きることを予測してダンピングを制御する。
フロントには150Lの荷室が用意され、リアには電動パワーゲートの下に420Lが用意されている。このフロアはNASAが開発したという素材で覆われており、非常に強固で傷や錆にも強いそうだ。ボディのベントから入った空気が荷室下部に流れることにより、ハードな走りをしても荷室内は40℃程度までに抑えられるという。
ステアリングもややソフトになり、マクラーレンらしい気合いの入り方は少しばかり影を潜めている。しかし毎日使えるクルマでありながら、コミュニケーション性は高く、接地面で何が起きているかはしっかりと伝わってくる。公道ではスポーツシリーズよりも扱いやすいだろう。
巡航時の静粛性ではベントレーに及ばず
600LTや720Sほど刺激的ではないが、それゆえ疲れにくくハードな走りを長時間続けられるだろう。しかしスーパースポーツらしい要素もあり、アストン マーティンDB11やベントレー・コンチネンタルGTなどよりも軽量ゆえ山道ではそれらの追随を許さない。
2日目はランスを出発し、高速道路でのクルージングを行う。すでに5,6時間走っているが、快適なシートのおかげもあり疲れ知らずだ。欠点をあげるとすれば、やや大きめの風切り音だろう。距離が長くなればなるほど、ベントレーの静かさが恋しくなる。山道ではDB11やコンチGTを大きく上回るが、長距離クルーズではこの2台にかなわない。ただしその差は大きくはなく、何を求めるかのバランス次第だろう。
1つ感心したのは、高速走行での燃費の良さだ。こんなクルマで燃費を気にするのも野暮だが、おとなしい速度でクルーズする限りは10km/Lから12km/L程度の燃費を実現する。これは600ps超のV8ツインターボとしては良い数値だろう。そして内装の質感も高く、おしゃれで高級なGTらしい雰囲気を醸し出している点も好感が持てる。
英仏海峡に到着し、1時間半列車に揺られ英国に到着した。オービスと道路工事に阻まれたM20を走るのは、大陸を駆け抜けた48時間とは打って変わった退屈さだ。しかしこんな渋滞の中でも、山での思い出が薄れることはない。
詳細は動画にてお楽しみいただきたい。
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