■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
先日、観音開きドアが大きな特徴のマツダの新型SUV「MX-30」に試乗した。クーペルックをしていても車高は1550mmと低いわけではない。マツダのスタイリッシュなSUV「CX-30」(1540mm)より、むしろ10mm高いのだ。観音開きのドアは開口部を大きく取れることによるメリットがいくつもある。チャイルドシートを設置しやすく、そこに子供を乗せやすかったり、高齢者やハンディキャップを持っている人など何らかの手伝いが必要な人たちをファローしやすかったりする。「MX-30」の場合、フロントドアは82度まで開くから、リアドアを開閉しない時でも使いやすいのだ。
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ただ良いことばかりでもない。後席に乗った人が降りたい時にはフロントドアを開けなければならず、そのためには運転席だと電動でノンビリとスライド&リクラインさせなければならない。助手席はヒモを引いて、一発でシートがスライド&リクラインするが、ガードレールなどがあるところでは降り難かったりする。また、後席に乗せた荷物を素早く取り出したい時もフロントドアを開けなければならない。
観音開きドアのクルマは欧米でも戦前から造られていて一長一短あるのだが、チャレンジした開発陣には拍手を送りたい。
機械として優れているか? ★★★★ 4.0(★5つが満点)
日本仕様は2.0L、4気筒ガソリンのマイルドハイブリッドエンジン「e-SKYACTIV G」による2輪駆動版と4輪駆動版。2021年1月には、すでにヨーロッパで発売されているEV版が発売され、2022年にはマツダのお家芸であるロータリーエンジンをレンジエクステンダー(発電機)に用いたバリエーションも発売される予定だ。156馬力のe-SKYACTIV Gは低回転域から十分なトルクが発生していて、加速に不満はない。アクセルペダルを踏み込んでいっても、静粛性や滑らかさなどが大きく破綻することもない。
ただ、2輪駆動版で路面の小さな段差や舗装のつなぎ目などを越える時のショックが目立つのは惜しかった。4輪駆動版は2輪駆動版よりも手応えが増すのは好ましいのだが、タイヤが上下動したり、サスペンションで吸収し切れない路面からの振動がフロアを揺すっているのが伝わってきていた。
これが軽減されると、印象はグッと向上すると思う。「CX-3」から採用されている2色使いのヘッドアップディスプレイが見やすいのも長所のひとつ。トランクも真四角で深さもあり、使いやすそう。
商品として魅力的か? ★★★★ 4.0(★5つが満点)
個性派SUVとして、マツダの既存の「CX-5」や「CX-30」などとは違う顧客を掴みそうだが、疑問符が付かないわけではない。「CX-3」や「CX-30」などでも同じことを感じたのだが、世界的にも新しいエクステリアデザインに挑み、新潮流を導き出すことに成功しているのに、それとは対照的に古臭い部分が残されていて、とても一台のクルマとは思えないほどのチグハグ感が著しいのだ。
具体的には、プラスチックの針を持ったタコメーターと燃料残量計、水温計など。速度計と運転支援デバイスはそれらリアルメーターの中間部分のデジタル画面を切り替えて表示しているが、中途半端で古臭い。全面デジタルパネルのメーターにすれば、タコメーターはもっと省スペースで表示できるし、残量計や水温計なども小さなインジケーターで済ませられる。そのスペースを、ドライバーインターフェイスで最も重要な運転支援デバイス用に割くべきだ。
「MX-30」の運転支援デバイス(ACCとLKAS)の表示は大きく見やすいものだが、ナビゲーションや音楽再生などを表示しても構わない。インパネ上部のナビ画面は細長く、視線移動を伴うので、あまり見やすくない。燃料の残量や水温などよりもドライバーに表示すべきものはいくらでもあるのだ。
運転中にドライバーに伝える(ことができるようになった)情報の質と量は近年になって飛躍的に向上&増加している。それは、ドライバーの運転行為というものが「走る・曲がる・止まる」の運転操作だけではなくなってきていることを表している。
「メーターはCX-30と同じものを使わなければならないという社内的な理由から採用しました。私も可能なら、デジタルパネルを採用したかったです」
と、チーフデザイナー氏も嘆いていた。コストカットはユーザーから見えないところでやってほしい。マツダは「運転の楽しさ」や「意のままに運転できるクルマ」を開発することに一所懸命だ。
それは大変い素晴らしいのだけれども、時代の移り変わりに伴ったドライバーとクルマの関係性の変化をデザインやドアなどだけでなく、インターフェイスや操作部分にも反映してみたらどうだろうか。「MX-30」はとても魅力的なクルマに仕上がると思う。EV版やレンジエクステンダー付きEV版なども予定されているので「MX-30」には引き続き注目していきたい。
■関連情報
https://www.mazda.co.jp/cars/mx-30/
文/金子浩久(モータージャーナリスト)
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