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池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第4回:狼の愛車、NSX】

国産初の本格的ミッドシップスポーツ、NSX

1980年代に吹き荒れた「スーパーカーブーム」の火付け役でもある『サーキットの狼』。その連載終了から10年後、成人誌である週刊プレイボーイで『サーキットの狼II モデナの剣』として、続編の連載が開始された。1989年から1995年までの6年間に渡って連載された同作品は、主人公である“剣・フェラーリ”を中心に当時のスーパーカーたちが描かれ、成人を迎えた「スーパーカー小僧」たちを魅了したのである。

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第4回:狼の愛車、NSX】

今回は、第II章『サーキットの狼II モデナの剣』の連載開始と同年の1989年に発表され、作中でも大きな役割を果たした「ホンダ NSX」にスポットを当て、作者である池沢早人師先生にお話しをお聞きしてみたい。

再登場する“風吹裕矢”の愛車選びは悩んだ

1989年から週刊プレイボーイで連載を始めた『サーキットの狼II モデナの剣』は、フェラーリの元テストドライバーでありモータージャーナリストの“剣・フェラーリ”が主人公。フェラーリの創始者であるエンツォ・フェラーリの隠し子的なイメージで描き、そのDNAにはイタリアの熱い血が入っているという設定なんだよね。

それだけにイタリアの伊達男の“剣”が女性と熱い夜を過ごすシーンも多かった。少年ジャンプとは違って連載するのは週刊プレイボーイだからね。大人の物語って内容だったけど、作中にはバブル当時のスーパーカーを続々と登場させた。

主人公の“剣・フェラーリ”は、当時のボクの愛車だったフェラーリ348tbに乗せることにした。初代『サーキットの狼』の時に愛車のロータス・ヨーロッパSPに主人公の“風吹裕矢”を乗せたんだけど、自分の愛車を作中の主人公に乗せるお約束は『モデナの剣』でも変わらなかった。

でも、ストーリーが進んでいく中で歳を重ねた“風吹裕矢”を登場させることを思いつき、どんなクルマに乗せようかと悩んだんだ。本当なら進化したロータスのミッドシップモデルが良かったんだけど、正直な話、1990年当時のロータスには魅力的なクルマが少なかった。

そして、悩んだ挙句に考えついたのがホンダ NSX。実は当時のボクはフェラーリ348tbを既に手放していて、その代わりに手に入れたのが発売されて間もない初期型のホンダ NSXだった。これは神の思し召しとばかりに、ミドルエイジになった元主人公である“風吹裕矢”の愛車として登場させることにしたんだ。当時は日本初の市販スーパーカーとして注目を集めていたから、“風吹裕矢”の再登場とNSXのコンビネーションは大きな話題になったことを今でもよく覚えているよ。

作中では“剣・フェラーリ”の348tbと、F1で活躍した後にアパレル業界で成功した“風吹裕矢”のNSXが筑波サーキットで対決するんだけど、最後は剣の348tbが裕矢のNSXに勝って世代交代する。内容的に周回計測タイムが遅いとカッコ悪いので、作中でのラップタイムは実車で計測したタイムをかなり脚色して描いていたのは・・・ここだけの話(笑)。

ボクが手に入れたNSXは1990年式だから、本当に初期のモデル。でも、完成度の高さは日本車ならではの素晴らしさだった。操縦性は素直でクセがない。今までフェラーリやランボルギーニ、ポルシェを乗り継いできたボクには“クセのなさ”は不満ではあったけど、運転が楽なクルマだったことには感動したね。

前方視界も良いから誰が乗っても安全に運転できる。ある程度の速度でコーナーに進入しても急激に挙動を乱すこともなく、リヤが振り出しても慌てることなく制御できる。コントローラブルというか大人しいというか・・・。

でもNSXは、エキゾチックなイタリアンスーパーカーや理詰めなドイツの鉄人たちに比べると刺激が少ないんだよね。乗っていて楽だけど興奮しない。ゴルフバッグが積めるトランクが付いていたり、操作系が快適なのは歓迎だけど、良く言えば「優等生」、悪く言えば「車高の低い普通乗用車」って感じかな。

実際にNSXを愛車にして思ったことは「スーパーカーは誰もが簡単に乗れちゃダメ」だってこと。スーパーカーは「クルマが乗り手を選ぶ」からこそ感動が生まれ、操る興奮が手に入るんじゃないかな。

その後、雑誌の取材でNSXのタイプRに乗るチャンスがあったんだけど、タイプRは最高に面白いクルマだったね。エンジンのレスポンスがソリッドで、軽量化されたボディがキビキビとした動きに貢献してくれる。シートやサスペンションがサーキット仕様になっていることもあり、走りのシャープさは格別だった。

このタイプRをベーシックなモデルとして発売していれば、NSXの評価はもっと高くなっていたと思う。ちなみに当時の新車価格は800万円(編注:MTモデル)。日本車では最高額のクルマだったけど、ライバルのフェラーリ348tbのことを考えればリーズナブルだったと思う。

そう言えば、1991年に雑誌の企画(編注:月刊自動車誌『REV SPEED』1992年2月号に掲載)でマカオGPのスーパーカーレースに左ハンドルのNSX(編注:北米仕様のアキュラ)で出場したことがある。練習走行時間なしのぶっつけ本番で走らなければならず、さらに前の晩にタクシーの運転手にお願いしてコースを回ってもらい、助手席から完熟走行をさせてもらった(笑)。

予選33台中19位からスタートして7位でフィニッシュ。ジャンプアップ賞をもらったのは嬉しかった。モナコで走ることがボクの夢なんだけど「東洋のモナコ=マカオ」で少しだけ夢が叶い、その相棒がNSXだったことは印象深いね。

HONDA NSX

ホンダ NSX

GENROQ Web解説:バブル期に生まれた国産スーパーカー

1989年、FFモデルを得意とするホンダが発表した日本初の量産型スーパーカー、NSX。翌1990年からデリバリーが開始され、その流麗なスタイルとMRレイアウトが大きな話題を呼んだ。

「our dreams come true/緊張ではない、解放するスポーツだ」のキャッチコピーと共に世に放たれたミッドシップスポーツは、セナ・プロスト時代に築き上げたホンダF1 GPマシンの実績と共にスポーツカーファンを熱狂させ、HONDAの名前を改めて世界中に轟かせることとなる。

ちなみにNSXのネーミングはホンダの新しいスポーツカー「NEW」と「SPORTSCAR」の頭文字に未知数を意味する「X」を組み合わせたもので、プロトタイプ時代には「NS-X」と表記されていた。

初代NSXは1990年9月14日からデリバリーが開始され、モデルチェンジを重ねながらも2006年1月までの16年間に渡って販売された。当初は1グレードのみが用意され、MTモデルが800万円、ATモデルは860万円に設定。オプションやオーダーなどの仕様変更も可能となり、贅沢な装備を配することで1500万円を超えるモデルも存在したという。

その美しいボディは世界初の「オールアルミモノコックボディ」を採用し、アルミ溶接を専門に行う工場に発電所を併設するなど、設備投資も大きなものとなった。当初、搭載するパワーユニットは2.0リッターの排気量を持つ4気筒DOHCエンジンが候補とされていたが、北米市場でのニーズを考えV型6気筒DOHCユニットへと変更。1989年に発表されたモデルには同社のレジェンドに搭載されるC27Aを改良したものが、1990年からの量産モデルにはC30A(NA1)と呼ばれる専用のエンジンがミッドシップに搭載された。

このC30A型エンジンは2977ccの排気量が与えられたV型6気筒DOHCにVTECを加えたNAとなり、MTモデルでは280ps/7300rpm、ATモデルでは265ps/6800rpmの最高出力を発揮。最大トルクは共に30.0kgm/5400rpmとなる。

また、1997年のマイナーチェンジでは平成12年排出ガス規制に合わせ、MTモデルの排気量を3179ccに拡大したC32B型へと変更。最高出力は自主規制値上限の280ps/7300rpmのままだが、最大トルクを31.0kgm/5300rpmへと向上し、組み合わせるトランスミッションも6速MTへと変更されている。

2001年には外観を中心にビッグマイナーチェンジが施され、リトラクタブル式ヘッドライトを固定式に変更。また、ボディ全体に細かな変更が施され、ボンネットやフェンダー、サイドスカート、テールエンドにも手を加えることで空力抵抗を軽減すると共に衝突安全性も向上されている。

NSXは1グレードのみの設定として販売を開始したが、1992年にはC30A型エンジンに手を入れ、バランス精度を高めたピストンやコンロッド、クランクシャフトを与えた「タイプR」を発売。レスポンスの良いエンジンと120kgの軽量化を図ったボディはシャープさを増し、サーキット走行を意識したモデルとして高い人気を博した。

また、1997年には従来のタイプRに相当する「タイプS-Zero」を加え、2001年にはタイプRの後継モデルとなる「NSX-R」へとスイッチ。そして、2005年には最後の特別モデルとしてSUPER GTのホモロゲーションモデルである「NSX-R GT」が限定5台で発売された。

1990年から2006年まで販売された初代NSXは1990~1997年までをI型「E-NA1型」、1997~2001年までをII型「GH-NA1/GH-NA2型」、2001~2006年までIII型「LA-NA1/LA-NA2型、ABA-NA1/ABA-NA2型」と区別し、大別して3つのモデルに分けられている。

ちなみにボディスペックは全長4430mm×全幅1810mm×全高1170mm(タイプR/タイプS:1160mm)、ホイールベース:2530mm、車両重量:1350kg(6速MT)/1390kg(4速AT)となり、1990年3月から2006年1月までに7394台のモデルが生産され、日本初の量産スーパーカーであるNSXの第1章は幕を閉じた。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

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