2021年から研究を開始し、2023年より実証実験に
日産が現在行っている実証実験のメディア向け取材会を実施した。それが「自動車用自己放射冷却塗装」だ。
日産がラディクール社と2021年から共同開発している塗装となる。太陽光を反射するだけでなく、熱エネルギーを電磁波として放射することで、塗装自体が冷却されるのが特徴だ。すでに建築用途としては実用化されているが、自動車用の塗装用途は、これまでなかった。
建築用途の放射冷却塗装は、自動車用と比べると、塗膜が厚く、またクリアトップコートの使用も想定されていない。そのため、日産は、エアスプレーでの塗布、クリアトップコートへの親和性、日産基準の品質などの開発を進めてきたという。
その結果、塗膜は開発当初の120μm(0.12mm)から大幅な薄膜化に成功。一般的な自動車用塗装に使うエアスプレーでの塗装が可能となり、羽田空港で使用されている車両(NV100クリッパーバン)を用いて、2023年11月より1年間の予定で実証実験を進めている。
実験開始から半年を過ぎた現状では、塗装の欠けや剥がれ、塩害などの化学変化への耐久性、色の一貫性や修復性にも問題ないことを確認。自動車用の塗装としての耐久性に、現状では問題ないというのだ。
熱を電磁波として放出することで冷える
「自動車用自己放射冷却塗装」には、自然界に存在しない物理特性を、人工的な構造で実現する素材「メタマテリアル」が採用されている。
具体的には、塗装内に「光を反射する」のと「熱を電磁波として放出(=放射冷却が起こる)する」という2つの人工物質を含んでいる。熱を電磁波として放出する物質は、塗装の熱を波長8~13μmの電磁波に変換して放射し、それによって自身の温度は下がってゆく。
晴れた冬の夜間から早朝にかけて起きる放射冷却と同じ現象を人工的に発生させているのだ。放出された電磁波は、最終的に地球外に放出されるので、大気圏内の空気を温めることはないとか。温暖化を促進するものではないのは安心なところだ。
電磁波への変換は、温度が高いほど活発になり、低いと小さくなる。そのため、冬場は変換が小さく、ほとんど温度変化しないという。つまり、夏場だけ有効になるのだ。また、塗料に使う材料にレアメタルなどの高額なものがないため、コスト的にもそれほど高くならないという。
光を反射するだけでなく、自分が冷えてゆく素材であり、夏場だけ有効で、しかも高くはない。なんとも、都合の良いところの多い特性を持っている塗料と言える。
優れた冷却機能を実感し、期待は高まる
実証実験の取材では、「自動車用自己放射冷却塗装」を塗布された車両と、そうでない通常車両との比較が行われた。
車両は、業務に使われているNVクリッパーバンと、BEVの「サクラ」の2種類だ。どちらもホワイトの車両となるが、よく見ると「サクラ」はノーマルがホワイトパールなのに対して、「自動車用自己放射冷却塗装」はソリッドのホワイトであった。
さっそくボンネットに触れてみれば、明らかに温度が異なっていた。機材を使って温度を測ると、ノーマルは48.3度なのに対して、「自動車用自己放射冷却塗装」は40.9度。48.3度は長く触ってはいられないが、40.9度ならば人肌プラスアルファといった感覚だ。ノーマルのグレールーフはさらに熱くなっていた。確実な効果を実感することができたのだ。
効果のほどは実感できた。そうなると、次は実用化が気になるところ。
ところが、まだまだ課題はいくつも存在する。まず、欲しいのはカラーバリエーションだ。今のところ、最も大きな効果が望めるホワイトのみ。しかし、量産化を見据えて、カラーバリエーションの増加は検討中だという。とはいえ電磁波をカットする金属片の入ったメタリック系は難しいとか。
そして最大の課題は、塗装の厚みだ。現状では、現状では60μm(0.06mm)ほどが限界だという。現在の量産車の塗装は20μm(0.02mm)には届かない。
そのため、量産車ではなく、手作業で塗装される特装車が最も実用化に近いという。どちらにせよ、効果的な素材なだけに、一刻も早い実用化を期待したい。
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