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ニューモデル 2019.5.21

ロールス・ロイスの劇的コンバージョン 世にもエレガントな働くクルマ

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もくじ

ー アメリカで見つけたシルバーシャドー
ー 意外と多い、ロールス・ロイスのコンバージョン・ピックアップ
ー オリジナルのエレガントさを保持
ー 努力の結晶といえるこだわりの数々
ー 最初で最後のピックアップ
ー 番外編:まだまだあるコンバージョン・ピックアップ

    究極のロールス 「シルバースピリットI エンペラーステイト・ランドレー」とは

アメリカで見つけたシルバーシャドー

非常にエキゾチックな雰囲気を漂わせるクラシックモデルを、日常の道具に生まれ変わらせた人物がいる。今回紹介するのは、ロンドンの東、エセックスに拠点を置くスペシャリスト「クラーク・アンド・カーター社」が最近手がけた、ロールス・ロイス・シルバーシャドーだ。

アイデアの種は1950年代、このクルマのオーナーである、アンソニー・バンフォード卿がまだ少年だった頃に遡る。彼は当時、ベントレーの工場があるクルーという街で、メカニックがロールス・ロイス20/25を商用車にして乗っているのを目にしたという。その記憶は、若きエンスージャストにとって忘れることのできない記憶になった。それから60年を経て、究極ともいえるレースパドックのサポートカーが誕生することになる。

このプロジェクトは、農機具や建設機械を製造する英国JCB社のトップを現在務めているアンソニー・バンフォード卿が、アメリカで改造が施されたシルバーシャドーを見つけた、2014年に始まった。「バンフォード卿が見つけたクルマが、われわれのワークショップに届いた時は驚きました」 とクラーク&カーター社のスティーブ・クラークは振り返る。

「白く塗装されたシルバーシャドーは、強引に改造されていました。鉄砲を収納するガンラックや、ドリンクキャビネットが備え付けられ、フロアには毛足の長いパイルカーペットが敷かれていました。しかも、バンパーは手荒く切断され、ボディサイドのパネルは古いクライスラー・タウン・アンド・カントリー調の木製パネルに交換されていたんです。あそこまで手が加えられていると、別のクルマをベースに初めから改造した方が遥かに簡単です。もっとも、シルバーシャドーのボディを切るなんて、普通なら罪悪感を感じますが、既にこのクルマは切り刻まれていたので、さほど心は痛みませんでした」

意外と多い、ロールス・ロイスのコンバージョン・ピックアップ

これまで、ロールス・ロイスを商用車などに改造する事例はいくつかあった。しかし第一次世界大戦中にシルバーゴーストを装甲車に改造した事例ほど、伝説的なものはないだろう。過去に英国本誌でも紹介している。実はロールス・ロイスをピックアップに改造した数が最も多いのは米国。最も古く状態の良いロールス・ロイス・ベースのピックアップトラックは、1940年代にスプリングフィールド社が製造したシルバーゴーストで、オレンジ農家を営んでいたリンドリー・ボスウェルが所有していた。

新車として輝いた時代を過ぎた、美しく設計の施されたファントムIIシャシーは、様々な商用車へと転用されている。英国ウェールズでは霊柩車になり、スイスでは消防車に改造。英国の貴族は第一次大戦以前のクルマをウッディなシューティングブレークに改造して、狩猟に用いる道具を運んだし、インドでは20/25をジープ風のクルマに改造し、クリケットチームのメンバー移動に用いられた。その他、運送会社やアイスクリームメーカーなどからも、目立つ広告塔として重宝がられていた。一方で1940年代になると、古いロールス・ロイスをスクラップ置き場から救うため、特注のボディーワークはシャシーから外して、ガレージで修復するひとも少なくなかったようだ。

その後、モノコックボディが採用されると、商用車目的での改造は難しくなったものの、企業の宣伝利用に対する需要は変わらなかった。1984年、シャンパン醸造元のクリュッグは、ランスのぶどう畑での作業とパリでのプロモーション目的に、1979年型シルバーシャドーをパネルバンに改造する。クルマ後部には2台の冷蔵庫が搭載されていた。

他方で、葉巻たばこで財を成したミラードWニューマンが1969年シルバーシャドーを改造してエステートにするなど、米国でのロールス・ロイスのコンバージョンも需要はなくならなかった。何しろ米国はピックアップトラックの国。V8エンジンを搭載したフラッグシップモデルを貨物用のクルマに改造するのは、自然な流れだったともいえる。1970年代のステータスシンボルが中古車になりバーゲンプライスが付くと、車体後半を切り落とし荷台を取り付けることで、究極の「リムジン・トラック」を生み出した。中にはピックアップにするだけでなく、さらに車高を上げてオフローダーにするひとまで現れたほど。

オリジナルのエレガントさを保持

ロールス・ロイスとベントレーのレストアを専門とする、クラーク・アンド・カーター社の場合、米国の改造手法よりも、現役時代のクルマとしての価値を尊重しているところが良い。ロールス・ロイスのデザイナー、ジョン・ブラッチェリーの造形を巧みに残している。シルバーシャドーの改造車を見ると、フロントドアより後ろの部分はかなり大胆に切り落とされ、金属のボディパネルが追加されていることが多い。しかしクラークは、ボディ後半も、サルーンの形状を活かすことに決めた。

リアウィンドウは前方に移され、非常に明るく風通しのいい、グラスエリアをもつキャビンを構成している。リアドアがあった部分には、オリジナルのシルバーシャドーが備えていた美しいボディラインのまま、新しい金属製のパネルが接合されている。

ピックアップの荷台部分と開閉するテールゲートは、かなり難しい作業だったとクラークは話す。「リアセクションは軽量で扱いやすいアルミニウムを採用しました。古い改造車では、リアバンパーの造形で苦労している場合が多いようです。わたしたちはスペアパーツを取り寄せて、テールの両端部分にバンパーを残すことにしました。また後ろ姿をクリーンに見せるために、ナンバープレートをテールゲートより下の部分に取り付けています。バンパーの下には牽引フックが付いているのですが、取り外し可能なカバーで隠してあります」

仕上がったクルマの完成度はディティールまで素晴らしい。シルバーシャドーのオリジナルとなるテールライトが美しく収まる、リアフェンダーから流れるようなフィン状のスタイリングは、非常に美しい。荷室部分やテールゲートの上端にはメッキ仕上げのフレームが囲い、見事なサイドビューを作っている。まるでイタリアの美麗なパワーボートのようにすら思える。グッドウッド・フェスティバルで、古いフォードGT40のレースカーを積んだトレーラーを牽引する、夢のような姿が目に浮かぶ。

ボディは光の当たり方で明るさが変化する、チューダーグレイという濃い目のシルバーグレイに塗られ、天然木の荷室の雰囲気を引き立てている。ホワイトリボンとメッキのホイールキャップは、新車当時と変わらない味わいを醸し出す。クロームメッキのトリムがフロントからテールまでボディサイドを貫き、ジョン・ブラッチリーが手がけたエレガントなデザインとのマッチングも良いと思う。

努力の結晶といえるこだわりの数々

車内も美しくリフレッシュされた。濃い目のスレートグレーのレザー張りに内張りやシートは張り替えられ、ヘッドライニングは黒。まるで高級クラブの内装のようだ。深い木目パネルで設えられたダッシュボードの下に、唯一モダンな雰囲気を放つ、パイオニア製のステレオユニットが納まっている。シートの後ろには、レースパドックでクルマを離れても安全なように、セキュリティボックスが備わっている。すべての造作品質が素晴らしい。

荷室の収納ユニットの設計にもかなりのこだわりがある。「ビリーとブライアンという、JCB社のヒストリック・レースチームのメカニックにアドバイスを仰ぎました。スタイリッシュなだけでなく、サポート車両として充分な実用性も備える必要がありました。シンプルに仕上げたかったのですが、結局かなり複雑になりましたね」 とクラークは説明する。

その完成度の高さは、特注家具メーカーの職人ですら驚くだろう。左側の固定ボックス内には、サルーンのラゲッジスペースに納まっているものと同じ、ロールス・ロイス純正の工具とジャッキが入っているが、美しく配置され、しっかり金具で固定されている。反対側のボックスはレースチームのツールボックスやレーシングウェア、小さなスペアパーツなどを運べるように設計されている。中央のボックスのパネルは取り外しが可能で、リアアスクルなど大きなスペアパーツも積載できるようになっている。

荷室の仕上がりはヨットのようだが、実際、英国南部の沿岸地域、ドーセットから取り寄せた木材を使用しているという。リアサスペンションも、重い荷物も運搬できるように手が加えられ、調整式のスプリングが取り付けられているが、荷室を削らないように配慮されている。残りのメカニカルな部分は標準のシルバーシャドーのままだそうだ。

クラーク・アンド・カーター社で施工を担当したシーン・シトックは、荷台で用いる金物を探すためにインターネットでかなりの時間、検索を繰り返したという。しかし、結果的に同社の工場で制作した部品も少なくない。ボックスユニットは堅牢さを高めるために硬いチーク材で制作され、オイルで保護されている。見とれるような木工の数々は、コリン・カットモーア社にて制作された。クラークのふたりの息子も制作に関わっている。スチュアートがボディのコーチワークを行い、ジェイミーが組み立てを行った。完成したクルマはクラーク・アンド・カーター社の努力の結晶といえるだろう。

最初で最後のピックアップ

オーナーのアンソニー・バンフォード卿は完璧主義者のようで、このコンバージョンをより完璧なものにするために、他にも細かいオーダーがあった。テールゲートに飾られた「PICK UP」のエンブレムは、オリジナルのシルバーシャドーのエンブレムと同じデザインで特注。トノカバーのキャンバスに打ち込まれた固定用のスタッドは、金属色のままだったのが気に入らず、黒色のものに打ち直してある。二重構造のトノカバーは使わない時はキャビンの背後に丸められるが、レザー製のストラップで固定できるようになっている。

実際にドアを開けて乗り込もうとすると、思わず顔がほころぶに違いない。豪奢なキャビンに腰を掛け、遠くでささやくスムーズなV8エンジンで走り出せば、車体後半がトラックに生まれ変わっていることは忘れてしまうだろう。

路上での乗り心地は素晴らしく、トロリと滑らかなパワー感に非常に軽量なステアリングフィール、ヨットのようにフワリとコーナーで向きを変える走りっぷりは、名作映画のリメイク版のように心地よい。ジャズピアニストのミシェル・ルグランの旋律を聴くのに、シルバーシャドーをドライブしながら以上のシチュエーションはあるだろうか。エセックスの郊外の道を走らせると、沿道のひとの視線が楽しい。ロールス・ロイスの象徴でもあるパルテノングリルを見送るも、クルマのリアセクションを見るやいなや、スマートフォンを取り出し写真を撮影し始める。

このシルバーシャドーのピックアップはJCBヒストリック・レースチームの素晴らしい装備のひとつになった。グッドウッド・フェスティバルの会場に行けば、目にする機会もあるだろう。レースパドックのガレージに半分隠れる状態で駐車されている状態なら、ミントコンディションのシルバーシャドーだと思うはずだが、回り込んで見れば、最高にカッコいいレースのサポート車両だと気づき、釘付けになるに違いない。

しかし、クラーク・アンド・カーター社のスティーブ・クラークは、コンバージョンに費やした時間と手間には、相当に参った様子。恐らく同社にとっては、これが最初で最後のピックアップとなるのかもしれない。

番外編:まだまだあるコンバージョン・ピックアップ

コンバージョン・ピックアップトラックの中で間違いなく一番のエキゾチックさを備えているのが、モンツァ・サーキットとイモラ・サーキット用に作られた、5台のマセラティの消防車ではないだろうか。ベースになったのはクアトロポルテで、ボローニャを拠点にする消化器の専門企業、CEAエスティノリ社によって1973年に製造された。もちろん高圧放水機も搭載していた。イタリアの高速サーキットで活躍した5台だったが、その内の1台は活動途中で壊されてしまう。生き残った4台はエンスージャストの元へと引き取られ、ヨーロッパ各地へと散らばった。

ポルシェをベースにしたピックアップトラックも何台か存在しているが、最もカッコ良いのは、1972年にカリフォルニアの伝説的なレースカーの開発者、ディック・トラウトマンが生み出した914ベースの2台だろう。1台は標準のクルマがベースで、オペル・マンタのテールライトにタルガトップを備えいた。もう1台はワイドフェンダーに6気筒を搭載した914/6がベースで、レースのサポート車両目的で制作された。

またデンマークでは、スポーツカーに課せられる高額な税金から逃れるため、928GTSをピックアップに変更する事例が見られた。コペンハーゲン周辺では、写真の被写体として名物になっていた時もある。イタリアの跳ね馬も、コンバージョンからは逃れられない。2014年にスーパーカー・ワークショップがフェラーリ412を改造し、約1mの長さの木製の荷台を取り付けた例がある。

ほかにもポニーカーの専門点を営むビル・シェパードによる、フォードGT350風のマスタングもある。しかし、ジェリー・ハサウェイがボンネビルのサポートカーとして改造した、シトロエンSMの美しさにはかなわない。ロサンゼルスを拠点にするチームで、ボンネビル・ソルトフラッツ(塩類平原)のレコードホルダーでもある。

ピックアップトラック化されたSMが牽引するのは、ハイドロ・サスペンションを搭載した車載トレーラー。そのトレーラーには、320km/hを超えるスピードレコードに挑戦する、完璧に仕上げられたシトロエンSMのレーシングマシンが載せられた。すべての車輪にはアルミニウム製のムーンディスクが取り付けられている。この特別なシトロエンのペアは、カリフォルニアのマリン自動車博物館に展示されている。

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(AUTOCAR JAPAN ミック・ウォルシュ)

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