「ストレートでわれわれはタイムを失っている。彼らはストレートでコンマ5秒速い」
これはレッドブルやマクラーレンやトロロッソのドライバーたちのコメントではない。F1第11戦ドイツGPの予選後にこの衝撃的な発言をした主は、過去4年間最強のPU(パワーユニット/エンジン)を有し続けてきたメルセデスのチーム代表を務めるトト・ウォルフだ。これは決して、冗談でも大げさな発言でもない。
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この直前に開かれたルイス・ハミルトンの記者会見で、ハミルトンは「ぼくたちはストレートでコンマ3秒失っている」と語っていた。その直後に開かれたウォルフの会見で、ハミルトンの発言について感想を尋ねられたウォルフは「もう少し正確に言えば、コンマ5秒だ」と語ったのだ。
それを物語るのは、ドイツGPの予選結果だ。トップ10のうち5台がフェラーリPUを搭載するマシンだった。これに対して、メルセデスPUはなんとわずか2台。ハミルトンがQ1でトラブルに見舞われていなければ、Q3に進出しただろう。
しかし、その場合に脱落することになるのはQ2で10番手のセルジオ・ペレス(フォース・インディア)のため、どちらにしてもメルセデスPU搭載マシンの数は変わらなかっただろう。
じつはドイツGPの2週間前に開催された第10戦イギリスGPでも、予選でフェラーリPU搭載マシンがトップ10のうち5台を占めていた。しかし、フェラーリ勢は1台もイギリスGPで新しいPUを投入していない。一番新しいPUをフェラーリ勢が投入したのは第7戦カナダGP(フェラーリ)と第6戦モナコGP(ハース、ザウバー)だ。
■田辺豊治ホンダF1テクニカルディレクターの見解
なぜ、ここに来て、フェラーリ勢はパワーアップしてきたのか。
ホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターは興味深い見解を示した。
「あくまで想像ですが、1基目と2基目のPUには大きな違いがあったわけではなく、使い方の違いじゃないかと」
どういうことか? 田辺TDはこう続ける。
「たとえばですが、1基目のPUは安全圏内でいろんな使い方で走らせみて、予定のマイレージに達したところでPUをバラしてみたら、もう少し行けるんじゃないかということがわかった。そこでベンチで信頼性を確認したうえで、よりパワーを上げた使い方をしてきたのではないでしょうか」
田辺TDによれば、予選モードにも『松竹梅』があるという。
つまり、これまでフェラーリ本家が『竹』を使い、カスタマーチームが『梅』モードだったのに対して、2基目からは本家が『松』を使い、カスタマーチームが『竹』を使用してきたのではないかと推測できる。
しかも、それをまずモナコGPでカスタマーチームで試して、問題ないことを確認したうえで本家がカナダGPで2基目を投入し、グランプリによって使い方を変えていると考えると、ここ数戦のフェラーリ勢の快走も納得がいく。
今週末の第12戦ハンガリーGPはパワー感度が低いため、PUの性能差は出にくいだろうが、夏休み明け緒戦の第13戦ベルギーGPと次の第14戦イタリアGPは一年で最もパワー感度が高い連戦となる。
メルセデスの今後の開発は、シーズン後半を占う大きな鍵となりそうだ。
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