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似て非なるアメリカの自動車ブランド、フォードとキャデラックの原点は兄弟車だった

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似て非なるアメリカの自動車ブランド、フォードとキャデラックの原点は兄弟車だった

アメリカ自動車黎明期の戦いのドラマ

 1908年にリリースした”T型”が歴史的な大ヒット作となり、アメリカを含む世界でNo.1メーカーとなってゆくフォード。その後シボレーとの販売戦争に敗れてトップの座はGMに明け渡すことになるものの、アメリカではビッグ2の存在として自動車業界をけん引してきました。高級車部門は同門のリンカーンに任せ、数多くの実直な乗用車を生みだしてきたフォード社。ロータス・フォードやフォードGTでF1GPやメーカー選手権に挑戦してきた印象も強いものです。

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 一方のキャデラックは、世界的にも屈指の高級車として認知された存在。リアに羽根の生えた50年代終わりから60年代序盤にかけてのエルドラド、67年に登場した2ドア・クーペのフリートウッドなど、華麗なデザインで多くの人々を魅了してきましたが、同時に様々な技術革新も実践しています。また、ツーリングカーやスポーツカーでレースにも参戦。単なる高級車ではなく高機能/高性能な1台としてその存在を示してきたのです。

 今回は、そんなフォードとキャデラックが、実は兄弟車だった、という歴史ストーリーを紹介することにしましょう。

先行したフォードT型をシボレー猛追

 1903年に最初のモデル、フォードA型を完成させたフォードはB型からS型まで改良進化を続け、07年には集大成となるT型を完成。翌08年の10月には市販をスタートさせています。

 T型で最も特徴的だったのは、大量生産することを前提に設計・開発が進んできたこと。さらに工場の生産現場でもベルトコンベアを導入し、新たな大工場を新設。大量生産によってコスト低減できたことで、一部の富裕層だけでなく、より多くの市民がクルマを保有できるようになったことも事実です(写真のT型は、オハイオ州キャントンにあるキャントン・クラシックカー博物館で撮影した15年式の個体)。

 そんなT型のヒットによりフォードは全世界のトップメーカーに名乗りを上げることになりました。フォード社の創設者であり、T型の生みの親でもあるヘンリー・フォードは、”より安価により多くの人々にクルマを供給する”、つまりはT型フォードの販売台数を伸ばすことであると考え、ムダな装備を省き、塗色も黒のみとするなどコストダウンを最優先しました。

 やがてある程度、クルマが市場に行き渡る頃になると他人と同じでは満足できない消費者心理が芽生えてきます。そこを突いたのがシボレーであり、フォードは敗れて王座を明け渡すことになってゆくのです。(写真の14年式シボレーはミシガン州スターリング・ハイツの GMヘリテイジ・センターで撮影した“Baby Grand”)

キャデラックは高級志向でさらなる高みに

 一方のキャデラックは、03年に第1号のA型をリリース。その後はGMの一員となりますが、シボレーがフォードのT型を打ち負かしたことで、GMはトップメーカーとなっていきます。多くのメーカーによる“連合軍”だったGMは、構成しているメーカーそれぞれのキャラクターを設定してゆくのです。

 最上位のクルマを標榜してゆくキャデラックには高級車の頂点を目指しながら、様々な先端技術も投入。1915年には量産エンジンとして初となるV型8気筒エンジンを搭載したモデルを投入したのです。

 さらにキャデラックは1931年に世界初のV型16気筒搭載モデルを販売。セルモーターやパワーステアリング、エアコン、前輪独立懸架など、今日に繋がる技術の多くを世界で初採用したことも見逃せません。(V8の15年式Type51とV8エンジン、V16の31年式Series 452AはともにGMヘリテイジ・センターで撮影)

 ちなみに、V型8気筒を高級車だけでなく大衆車にまで広めたのはキャデラックではなくフォード。T型の後継モデルとなったA型は直列4気筒が標準でしたが、ライバルの多くが直列6気筒を搭載するようになると、フォードではさらに多気筒化したV8の開発が決断されました。

 そして、”アーリー・フォードV8″として今も語り継がれる傑作エンジンが完成。これをA型の後継となったB型に搭載して発売すると瞬く間にヒットし、結果的にV8が広く行き渡ることになったのです(32年式のV8フォードとエンジンは、インディアナ州オーバーンの初期型フォードV8基金博物館で撮影)。

普通車と高級車の棲み分け対決はなかった両社

 戦後、ヘンリー2世(ヘンリー・フォードの孫)が経営権を継承したフォードは戦後モデル「フォード・カスタム・デラックス」を49年に発売。そのヒットによって、一時はクライスラーにも抜かれ赤字経営に陥っていたフォードは回復を果たします。

 54年に発売した2座スポーツカー「サンダーバード」も、ライバル共々スポーツカー市場で苦戦していましたが、58年には4座仕様にチェンジ。

 64年にはポニーカーと呼ばれるマスタングを投入して新たなマーケットを切り開いていきました(下写真/左)。そして85年には、トーラスがトップセラーの座を獲得するなど、元気を取り戻すことになってゆきます(同/右)。(49年式フォード・カスタム・デラックスと62年のマスタング・コンセプト、86年式のトーラスはヘンリー・フォード博物館で撮影。ブルーの58年式サンダーバードはジョージア州トッコアの館で撮影)。

 一方のキャデラックは戦後も高級車路線を邁進。戦後すぐに戦前モデルの再生産を始めましたが、47年には早くも戦後モデルが登場、以後も各シリーズが戦後モデルに置き換えられていきます。

 50年代には、最上級パーソナルモデルのエルドラドがテールフィンのついた5代目へと移行。華麗なボディデザインはテールフィンの時代の名車として今にも語り継がれています。

 同時に往年より、新機軸/新技術を盛り込むことに長けていたキャデラックの伝統も踏襲されており、67年に登場したエルドラドの8代目ではフルサイズ初の前輪駆動を採用。これは前年にオールズモビル・トロネードで初採用となった技術を流用したものですが、米国内でも2番目、高級車としては初めての採用だったのです。

(白い49年式のクーペ・ドゥビルと、赤い59年式のエルドラド・ビアリッツ・コンバーティブル、黒い67年式のフリートウッド・エルドラドは、ミシガン州スターリング・ハイツの GMヘリテイジ・センターで撮影)。

フォードはSUV、キャデラックはダウンサイジングへ

 フォードが昨年、SUVや商用車を重視し、小型乗用車の生産を縮小する方針を打ち出したことは記憶に新しい。今後、主力となるSUVのF-350“Super Duty”などのライバルは、GMではシボレーの”シルバラード”などとなり、ダウンサイジングを進めて小型乗用車に力を注ぐとされているキャデラックとの直接対決は見られそうにありません。

(シルバラード(写真左)とF-350“Super Duty”(同右)のツーショットと、キャデラックの CT6-Vは、ともに今年6月、シボレー・デトロイトGPが開催されたデトロイト市内のベルアイル公園内の特別展示で撮影したもの)。

 こうして振り返ってみたフォードとキャデラック、両者の歴史には兄弟車どころか、気になる接点さえ見当たらないのです。ところが実はその歴史の最初、ともに1903年に発売した名前も同じA型に大きな接点があったのです。

 ヘンリー・フォードはエジソン電灯会社在職中に、ガソリンエンジンを搭載したクォドリシクル(4輪自転車)を個人で製作するほどの技術を持っており、1899年に設立されたデトロイト・オートモビル・カンパニーにチーフエンジニアとして招聘されていたのです。

 しかしフォードは常に『大衆車を作りたい』と願っていたので、他の経営陣と衝突し、僅か3年で退社。1903年には自らの名を冠した、現フォードの前身であるフォード・モーターカー・カンパニーを設立するのでした。一方、フォードが去ったデトロイト社は、フォードの助手だったヘンリー・マーティン・リーランドによってキャデラック・モーター・カンパニーに改組されることになった、というわけなのです。

 そして1903年、フォードとキャデラックは、同じA型と名付けた乗用車を発表。この2台は、スタイリングからメカニズムまで、多くの類似点を持っていることはよく指摘されてきましたが、それも当然の話で、デトロイト・オートモビル・カンパニー時代に、フォードとリーランド、2人のヘンリーが協力して開発を続けていたモデルがベースになっているからなのでした。

 フォードのA型とキャデラックのA型。それぞれ最初に登場させたクルマは、基本設計が同じ、いわゆる兄弟車。T型に代表される“大衆車”のイメージが強いフォードと、ひたすら高級車路線を突っ走ってきたキャデラック。双方の原点が同じクルマだったのは実に興味深いものでした。

 2人乗りのフォードA型はヘンリー・フォード博物館で撮影。4人乗りのキャデラックA型はミシガン州ヒッコリー・コーナーズのギルモア博物館キャンパスにあるキャデラック・ラセール・クラブ博物館研究所で撮影したもの。

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