郊外や地方都市に住まうのであれば話は別だ。しかし東京あるいはそれに準ずるような都市に住まう者にとって、「実用」を主たる目的にクルマを所有する意味はさほどない。
そんな状況下で「それでもあえて自家用車を所有する」というのであれば、その際は何らかのアート作品を購入するのに近いスピリットで臨むべきだろう。
BMW最高のラグジュアリーを詰め込んだプレミアムSUV、X7の贅沢
このモデルは、排ガス規制の厳しくなった2016年を最後に生産が終わった。最後の1台が生産ラインから出荷される際は、多くの従業員や報道陣が見送った。すなわち明確な実益だけをそこに求めるのではなく、「己の精神に何らかの良き影響を与える」という薄ぼんやりとした、しかし大変重要な便益こそを主眼に、都会人の自家用車選びはなされるべきなのだ。
そう考えた場合におすすめしたい選択肢のひとつが、1948年からほぼ変わらない形状のまま2016年まで生産された英国産のオフローダー、先代のランドローバー ディフェンダーである。
2020年モデルとなる新型ディフェンダーが発表されるまで、1948年からのランドローバー・シリーズのエクステリアは引き継がれ続けていた。2007年、2012年にそれぞれマイナーチェンジはあったが、エクステリアの変更は細部のみだった。あまり数が走っている車ではないが、趣味人でもあるオーナー企業の若社長さんあたりが、まるで軍用車のような形状の四角いオフローダーを都市部で乗り回している姿を見かけたことはあるかもしれない。
あの四角いオフローダーこそが、先代のランドローバー ディフェンダーだ。
2012年に行われたマイナーチェンジでは、ハードトップやピックアップなど、様々なパッケージオプションが用意された。欠点をも愛おしいディフェンダーの前身となるクルマは、米陸軍などが使用していた「ジープ」を参考に開発されたモデルで、まずはその名もズバリ「ランドローバー」として1948年登場した。ボディにアルミニウムが使われた理由は「当時イギリスは(戦争の影響で)鉄が不足していたから」だという。
ランドローバーのシリーズIは1949年に英軍に制式採用された後にシリーズII、シリーズIIIと代を重ね、1983年からは「ランドローバー90/110/127」が登場。それぞれの車名となった数字は、それぞれのホイールベース(前後車輪間の距離)をシンプルに表したものだ。
ランドローバー・シリーズIIIと外観上の違いはほとんどなかったランドローバー90/110/127は、1989年に同門から「ランドローバー ディスカバリー」という新種のモデルが登場したことで、混乱を避けるため1990年に「ランドローバー ディフェンダー」へと改名。そしてエンジンや装備類などの細かな変更は当然ながらあったものの、基本となる部分や外観はおおむね変わらないまま2016年1月29日まで生産された。
以上が、先代ランドローバー ディフェンダーというクルマのかなり大まかな概略だ。
その先代ディフェンダーを「自家用車として使ってみましょうや」というのが今回の提案なわけだが、先代ディフェンダーの、1948年からおおむね変わっていないからこそのクラシカルな美しさ(だけ)を知っている人は、「おっ、それいいね!」と軽く言うかもしれない。
あまり変化しなかったエクステリアに対し、インテリアはディスカバリー3のパーツを流用するなどして、近代的なデザイン採用。徐々に利便性などを進化させていった。だが先代ディフェンダーは、そう簡単に「おっ、いいね」と言うのは少々はばかられる類のクルマだ。
まずは、遅い。
現在、市場で流通している先代ディフェンダーは主に2007年以降の最終に近い世代または2012年以降の最終世代で、エンジンはそれなりに現代的なもの(2.4Lまたは2.2Lのディーゼルターボ)に置き換わっている。
そのトルクは低回転域からかなりモリモリではあるのだが、2トンを超える旧式な車体をスムーズに加速させるには(2020年の視点からすると)十分とは言えず、最近のSUVのような俊敏な加速は望むべくもない。ある程度スピードが乗った後はおおむねノープロブレムなのだが、市街地でのダッシュ(というかごく一般的な加速)はやや苦手なのだ。
そして乗り心地もけっこうシビアである。
先代ディフェンダーの味わい深いデザイン、端的に言ってしまえば「カッコよさ」だけに引かれて購入した人は、旧式なラダーフレーム(本格オフロード車に用いられるはしご状のフレーム)と、前後リジッドサスペンション(1本の車軸に左右の車輪が連結している、古くは馬車にも使われていたサスペンション方式)がもたらす古くさい乗り味に「そんなつもりじゃなかった……」とつぶやくことになるかもしれない。
また高速道路での直進安定性も、お世辞にも優れているとは言えない。現代のビッと真っ直ぐ走ることが当たり前のクルマしか知らない人は、あまり真っ直ぐ走ろうとしない先代ディフェンダーの高速巡行に、最初のうちはとまどうだろう。
そういったクルマを「自家用車として使ってみましょうや」というのも我ながらかなりどうかと思う話だが、このあたりは考えようである。
苦労を楽しめる男になれ!「ほとんど毎日クルマは使いますし、土日なんかは家族と長距離を走ることも多いですね」という人に、先代ディフェンダーを勧めようとは思わない。
だが都市部に住まう男の大半は……とまでは言えずとも、その多くは、自家用車なんてものには「週末に少々乗るぐらい」である場合が多いはず。
であるならば、まずは先代ディフェンダーというクルマの造形的な魅力にホレ込み、そのうえで「乗るときには少々の苦労をしてみる」という生活だって決して無しではないはずなのだ。
もしもそれが「日常」であるならば、まるで何らかの苦行か真剣な筋トレを行うがごときのクルマを操縦するのは確かにつらいだろう
だが自家用車に乗ることが日常ではなく、ある程度の非日常であるならば――スムーズな移動にこそ貢献するものの、結論として無味無臭すぎる現代の一般的なプレミアムSUVあたりにわざわざ高いカネを出すより、先代ディフェンダーにてドラマチックな日々を送ったほうが素晴らしい……という考え方だってできるのだ。
もちろんこのあたりをどう判断するかは人それぞれであり、以上は筆者が勝手なゴタクを並べているに過ぎない。
だが「先代ディフェンダー的なるもの」を人生に求めている人の数は思いのほか多いことだけは、いちおう知っておくべきだろう。
ここまで述べてきたとおり「かなりカッコいいけど、いざ乗るとなると少々やっかいなクルマ」でもある先代ディフェンダーの中古車相場は、2016年モデルで900万から1200万円ぐらい。
誰も買わないような不人気車種であれば、中古車の相場がここまで上がることは決してない。
多くの男がすでに今、先代ランドローバー ディフェンダーにて「あえてのちょっとした苦労」を愉しんでいるのだ。味わっているのだ。
文・伊達軍曹 写真・ジャガー・ランドローバー 編集・iconic
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みんなのコメント
このデザインで全長4200ミリの2000cc4気筒あたり出してほしいな。
でかいのいやです。