アストンマーティンが初のSUVである「DBX」を発売すると聞いたとき、「アストンまでもがSUVブームに便乗したのか……」と、軽く失望した向きもあったかもしれない。かくいう私も、どの程度の完成度を実現できるのか、少し心配に思っていたのが正直なところである。
心配したくなる理由はいくつかあった。
好調のアストンマーティン、その秘密は妥協なき“美”の追求。 東京オートサロン2020リポート【第19弾:アストンマーティン 後編】
現在、アストンマーティンのチーフエンジニアを務めるマット・ベッカー氏はロータスでキャリアを積み重ねてきた生粋の職人。彼が移籍してきたおかげで、最新のアストンマーティンはどれも足まわりがシャキッとしたが、それはあくまでもグランドツアラーやスポーツカーに限った話。
いっぽうのSUVではグランドツアラーやスポーツカーとは比べものにならないほど高い快適性や静粛性が要求されるが、この領域におけるベッカーたちの手腕は未知数。したがって、総合性能の点でライバルと互角のSUVを作り上げられるかどうか、正直いって不安だった。
アストンマーティン初のSUV「DBX」。ボディは全長5039mm×全幅2050mm×全高1680mm。もうひとつ心配だったのがアストンマーティンという自動車メーカーの規模である。2018年度の彼らの生産台数は6000台強。このスケールで、自分たちの得意分野とは大きく異なるジャンル、つまりSUV市場に参入するのは大きなリスクが伴う。しかも、彼らにはエンジンなどのコンポーネント供給を受けるメルセデス・ベンツ以外にアライアンスを組むパートナーがいない。この点でも、完成度の高いSUVを作りあげられるかどうかには疑問を覚えずにはいられなかった。
ボディ剛性と快適性の高さにびっくり!今回、私が招かれた試乗会は、製品版のDBXではなく、今年4月頃と見込まれるデリバリー開始に向けて、開発の最終段階に入ったプロトタイプを使ったもの。
このため、ステアリングやエンジン制御のソフトウェアはまだ開発途上で「厳密な評価に耐えられるものではない」との説明を受けた。ただし、車両自体はウェールズに新設された専用工場で組み立てられたパイロット版なので、走りの基本性能は見極められるとの由。なお、試乗会場は中東のオマーンで、舗装された一般道、高速道路、そして未舗装の固く引き締まったダート路などを走った。
搭載するエンジンは4.0リッターV8ツインターボ。「DB11」や「ヴァンテージ」に搭載されているものとおなじである。Dean Smithタイヤ(ピレリP Zero)サイズは、フロント285/40 YR22、リア325/35 YR22の前後異形。Dean Smithギアセレクターは、ほかのアストンマーティンモデルとおなじくスウィッチタイプ。舗装路を走り始めてすぐに感じたのが、ボディの剛性感が際立って高く、足まわりの動き方にあいまいさがほとんどないことだった。
とりわけ、“サスペンション・ブッシュ”と呼ぶゴム・パーツやタイヤのよじれなどに伴う「足まわりの頼りなさ」が認められなかったのは驚き以外のなにものでもない。また、着座位置はSUVの常で比較的高めながら、コーナリング時などのボディの動き方に腰高感がまったくといっていいほど認められなかったのも意外だった。
最高速度は291km/h。Dean Smithプロトタイプをしめす複数のステッカー。こうした印象を指摘すると、助手席に腰掛けたマット・ベッカーからこんな答えが返ってきた。「ライバルの足まわりを解析した結果、サスペンション取り付け部の局所剛性とサスペンション・ブッシュの硬度をある一定の比率にすると、快適性と操縦性を高い次元で両立できることが判明しました。この考え方をDBXにも応用しています」
このため、サスペンションを固定する部分のボディ板厚を特別に厚くし、フロント・サスペンションには“ストラットタワーバー”と呼ぶ補強材を二重に張り巡らせるなどして高い剛性を確保したという。そのうえでサスペンション・ブッシュの硬度を最適化して快適性と操縦性の両立を図ったようだ。
結果としてステアリング系の剛性感も際立って高く、フロントタイヤがしっかりと接地している様子が確実に伝わってくる。しかも、SUVにありがちな「どこか遠くのほうにタイヤがついている」感覚が薄く、路面の状況がダイレクトに伝わってくる点も印象的だった。
最高出力は550ps/6500rpm、最大トルクは700Nm/2200~5000rpm。Dean Smithそれでいながら快適性も良好。直径2~3cmほどの砂利が敷き詰められたオフロードを60~70km/hのペースで走ってもゴツゴツとしたショックはほとんど伝わってこなかったほか、ボディもフラットな姿勢を崩さないので極めて快適。
そんなときにキャビンが思いのほか静かなことにも軽い驚きを覚えた。ベッカー氏が「私にはまだ小さな子供がいるので、家族で出かけるときに車内で大声を出さなければいけないようなクルマでは困ります。そこでDBXは車内の静粛性にもかなり気を使って開発しました」と、述べた。
トランスミッションは9AT。Dean Smith今回は舗装路のワインディングロードを走るチャンスは得られなかったが、滑りやすいダートコースでわざとテールを滑らせようとしてもリアタイヤはしっかりと路面を捉えて放さず、極めてスタビリティの高いコーナリングを披露した。
スタビリティコントロールの作動状況はメーターパネル内の警告灯を表示するソフトウェアが未完成だったために判然としなかったものの、スタビリティコントロールが効いているとすればその作動は極めてスムーズと考えられるし、もしもスタビリティコントロールが作動していなかったのならリアサスペンションのグリップレベルは驚くほど高いと賞賛すべきだろう。
日本仕様の価格は2299万5000円。Dean Smithひと目でアストンマーティンとわかるスタイリングはSUVのなかでも際立ってエレガント。東京でおこなわれたスネークプレビューで実車を見たときは、「シンプルでずいぶん控えめなデザインだなぁ」と、感じたものの、オマーンの強い陽射しの下で見るとワイドなフロントセクションがアグレッシブな表情を醸し出していて、なかなかスタイリッシュと感じた。
今回は限られた条件での試乗となったが、これだけ骨太な骨格が与えられているのであれば、今後の開発次第でこれまでにない上質な走りを楽しめるラグジュアリーSUVに仕上がることだろう。
文・大谷達也
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