走りを極めたホンダのスパルタンモデルといえば、「タイプR」だろう。
初代NSX以来、刺激的な走りを楽しめるタイプRが多くの車種に用意され、今も最新のシビックにタイプRを設定している。
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が、そこまでハードに味付けじゃなくても、というファンは少なくない。そういった人たちのために開発され、送り出されたのグレードが「タイプS」だ。
そして、2019年夏、ホンダは10年ぶりにアキュラの高性能モデルである「タイプS」のコンセプトカーを発表!
タイプRの影に隠れ、ともすれば地味な存在ながらNSXやプレリュードなど数々のモデルに設定されたタイプSは、“タイプRにはない魅力”を備えている!!
文:片岡英明
写真:HONDA、編集部
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復活を遂げたタイプSコンセプトはFRスポーツ!?
米国ホンダが2019年8月に発表したアキュラ タイプSコンセプト
公開された最新のアキュラ タイプSコンセプトは、アキュラのブランドコンセプトで、現行のNSXから掲げるようになった「Precision Crafted Performance」(正確に、緻密に作られたパフォーマンス)を引き継ぐものだ。
ベースとなるのはTLX(日本名:レジェンド)の次期モデルで、正式発表のときに復活させる「タイプS」のプロトタイプだと思われる。
力強いウエッジシェイプと伸びやかなファストバックのシルエットだから2ドアクーペだと思うだろう。が、よく見ると、ヒドンピラーを備えた4ドアクーペだ。
フードが長く見えるし、ブレンボ製の4ポットブレーキキャリパーが前輪の後ろ側に配されていることから後輪駆動の可能性が高い。
操る楽しさに満ちたFRのスポーティモデルなら、新たなファン層を開拓できそうだ。この方式なら、エンジンは縦置きのV型6気筒ターボを期待できる。
フロントマスクはアキュラらしいダイヤモンド・ペンタゴングリルに4眼のジュエルアイLEDヘッドライトの組み合わせとした。だが、これまでのアキュラにはないスポーティなルックスで、グリルからはメッキの縁取りもない。
バンパー左右の大きなエアインテークは、NSXと似たデザインだ。これから先の2年で、アキュラは2機種の「タイプR」を出すと公表している。新たな「タイプS」伝説が始まるのを楽しみに待ちたい。
歴代タイプS「ベストの1台」は?
1996年に発売された5代目プレリュードの最上級グレードとして設定された「タイプS」
これまで日本で発売された「タイプS」は、インテグラ、アコード、S2000、初代NSX、そしてプレリュードの5車種だ。
なかでも筆者が最高の「タイプS」だと思うのは、1996年秋にベールを脱いだ5代目プレリュードである。ベースとなった「SiR」が積む2.2Lの直列4気筒VTECエンジンは200psだった。
これに対しタイプSは、圧縮比を10.6から11.0に高め、ポート研磨を行うとともにVTECの味付けも高回転型に変えている。最高出力はリッターあたり100psを超える220psで、トランスミッションも5速MTだけと割り切った。
エンジンは軽々と7000回転オーバーまで回り、レスポンスもシャープだ。5000回転を超えてからは音色が変わり、6000回転からは刺激的な加速を見せつけた。
しかも実用域のトルクも不満のないレベルにあるから街中の走りも苦にならない。燃費もよかった。また、ショートストロークの5速MTも気持ちよく狙ったギアに入る。
シャシー性能も非凡だ。ハブベアリングやアームなども補強しているから剛性が高い。しかもデフの直後にトルク再配分機構を追加し、外輪に大きなトルクを与えて曲がりやすくするATTS(アクティブ・トルク・トランスファー・システム)も標準装備。
だから意のままの気持ちいい走りを存分に味わうことができた。運転がうまくなったように、狙ったラインに正確に乗せることができる。
最後のプレリュードはデートカーブームが去ったため渋めの評価となっている。だが、タイプSは痛快なFFスペシャルティカーだった。運転するのが楽しいだけでなく日常使いも難なくこなす。
2台目はNSX タイプS
1997年発売のNSX タイプS。イメージカラーのイモラオレンジ・パールは現行モデルでも2018年の改良で復活した
NSXに追加設定されたタイプSも、タイプRに迫る魅力を備えた名車だ。
タイプRの販売が打ち切られ、ファンは残念がっていたが、ホンダは1997年2月のマイナーチェンジでNSXに「タイプS」を設定。エンジンは3.2LのV型6気筒DOHC・VTECとなり、5速MTは6速MTに進化した。
また、タイプSだけでなくサーキット走行を意識したエアコンレスの「タイプSゼロ」も用意している。
タイプSは200ccの排気量アップとクロスレシオの6速MTを手に入れたことにより、力強い走りに加え、フレキシブルな走りも実現した。
飛ばしたいときは7000回転まで無理なく使い切ることができ、渋滞した道路状況でも扱いやすいのだ。軽量ボディだから、加速も軽やかである。
また、チタン削り出しのシフトレバーを備えた6速MTは、5速の時代よりシンクロも強力になったし、変速レスポンスも鋭くなっているから変速するのが楽しい。
サスペンションに専用チューニングを施し、BBS製の鍛造アルミホイールを履いたタイプSは、バネ下重量が軽く、ミッドシップだから意のままの気持ちいい走りを無理なく引き出せる。
マイナーチェンジ後のNSXは、軽量化させながらボディやサスペンションをしっかりと補強した。
また、パワーステアリングも改良されたから操舵フィーリングも見違えるほどよくなっている。制動能力も素晴らしい。タイプRよりコントロールしやすく、運転がうまくなったように感じられるのがタイプSのいいところだ。快適性も高かった。
ベスト3のラストはS2000 タイプS
2007年に追加設定されたS2000 タイプS。エンジンが2.0Lから2.2Lへ替わり、マイルドになったという評価も多いが、扱いやすさと総合性能は極めて高い
S2000の最終モデルに登場したタイプSも魅力的なスポーツグレードだ。
2005年のマイナーチェンジで2Lの直列4気筒エンジンに換えて海外向けに使われている2.2LのDOHC・VTECエンジンを搭載。ドライブバイワイヤを採用し、出力制御システムも変更、サスペンションのセッティングも見直している。
この後期モデルをベースに2007年秋に登場したのがタイプSだ。精悍なエアロパーツを身にまとい、サスペンションも専用としている。
従来の2Lエンジンは9000回転まで実用になったが、2.2Lはマイルドな性格だ。高回転のパンチも失せた。が、もともと素性のいいエンジンで、7000回転までは軽やかに回る。
しかも常用域のトルクは大幅に増え、シフトダウンしなくても街乗りを無理なくこなす。全域にわたって扱いやすくなり、同乗者も快適になった。
もちろん、俊敏なハンドリングは健在だ。オープンでもボディ剛性は高いし、サスペンションもシャキッとしているから狙った通りに意のままのコーナリングを楽しめる。
トラクションコントロールは解除できないが、十分すぎるほどスポーティだ。郊外の道では爽快なオープンエアも楽しむことができる。
「硬派じゃないけど間口が広い」タイプRにはないタイプSの魅力
「タイプR」ではないもうひとつのスポーツモデル、アコードに設定されたユーロR(2002年発売)
硬派の「タイプR」と比べると「タイプS」は間口が広い。多くの人がスポーティな走りを楽しむことができるのが最大の魅力だ。
これはアコードとシビックに設定された「ユーロR」にも言える美点である。テクニックに応じて気持ちいい走りを楽しめ、その気になればサーキット走行もこなすことができるのだ。
また、快適性の高さでも「タイプR」を凌ぐ。デートや街乗りからサーキット走行まで使うことができる許容度の高さがある。
無理なく維持していけるのも長所のひとつだ。それなりにパーツ代はかかるが、「タイプR」より維持するのはラクだった。今の車より軽量だからパーツの負担も小さい。
ただし、気持ちいい走りの「タイプS」は新車のときでも少数派だった。だから中古車になっても手に入れるのが難しくなっている。これが悩みどころだ。
となれば、テクニックを磨くのに最適な「タイプS」の復活を熱烈に期待したい。
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