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なぜミシュランは開発拠点を日本におくのか?

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なぜミシュランは開発拠点を日本におくのか?

ミシュランというと、グルメガイドを想像するひとも多いかもしれない。しかし、そもそもは、1889年にフランスで創業したタイヤメーカーである。タイヤ・メーカーとして”快適な旅”の実現に心を砕いていたので、旅行ガイド、さらにグルメガイドにも注力してきた。

『ミシュランガイド』は1900年に創刊した。広まり始めたばかりのドライブ文化を、より安全で楽しいものにするべく、ミシュランガイドが生まれた。誌面には、市街地図のほか休憩のためのガソリンスタンドやホテル、そして自動車修理工場なども掲載されていた。しかも、当時は無料で配布されていた。本業のタイヤでは、世界で最初にラジアルタイヤ(現在、乗用車のほぼ100パーセントがラジアルタイヤ装着)を商品化したのはミシュランだ(1949年)。

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世界初の市販用ラジアルタイヤ「ミシュランX」(1949年)の宣伝用イラスト。モータースポーツにも、歴史的に深いかかわりを持ってきた。現在は、電動フォーミュラ・カーのレース「FIAフォーミュラE」の公式サプライヤーでもある。また、FIA世界耐久選手権やFIA世界ラリー選手権などでも活躍している。

ミシュランは現在、電動フォーミュラ・カーのレース「FIAフォーミュラE」の公式タイヤ・サプライヤーである。性能や乗り心地、安全性など、タイヤが果たす役割は大きい。タイヤを替えたら、乗り味ががらりと変わって驚いた経験を持つひとも少なくないのでは?

自動車メーカーもミシュランを高く評価していて、たとえばスポーツカーへの装着率も高い。例をあげると、トヨタ「スープラ」の直列6気筒搭載のトップモデル「RZ」と、ダイレクトな楽しさをもつ直列4気筒モデル「SZ-R」がミシュランの「パイロットスーパースポーツ」を装着する。さきごろのマイナーチェンジでスポーツ性能が飛躍的に向上したレクサス「RC F」も、「パイロットスポーツ4S」装着する。私がこのところ試乗する機会に恵まれたスポーツカーや高性能スポーティモデルのうち、ほかにもアルピナなどが、ミシュランタイヤを装着していた。

新型スープラの上級グレードのタイヤは、ミシュラン製だ。新型スープラのうち、直列6気筒搭載のトップモデル「RZ」と、ダイレクトな楽しさをもつ直列4気筒モデル「SZ-R」がミシュランの「パイロットスーパースポーツ」を装着する。数少ない本国以外の開発施設私のミシュラン原体験は、就職してすぐ購入したルノー「5」とシトロエン「GS」でのものである。装着していたのは「MX」と「XZX」というベーシックタイヤだった。グリップ力がセリングポイントではないけれど、ふわふわっとした乗り心地への貢献度は低くないと聞いていた。

「XZX」は1975年末に登場した。従来の「ZX」に対し、滑りやすい路面での排水性とグリップ力が大幅に向上したタイヤだった。考えれば、タイヤの評価として”ふわふわとした”と、表現されるのはユニークだ。とはいえ、そういうユニークさが好きだった。また、地図やグルメのガイドブックという、いまでいうところの“ライフスタイル事業”を100年以上続けてきている点も、ほかのタイヤメーカーにはない特徴で、ミシュランに対し好感を持ってきた。

群馬県太田市にある「日本ミシュランタイヤ 太田R&Dセンター」は、フランス本国、北米に次ぐ同社の研究および開発拠点だ。かつて日本にも生産工場があったが、いまは撤退。それでも、日本国内に約600人の従業員を抱えている。なかでも、群馬県・太田市にある研究開発部門では約300人が働いているそうだ。けっして小さくない規模だ。

日本ミシュランタイヤで取締役副社長兼研究開発本部 本部長を務める東中一之氏。ミシュランリサーチアジア入社後、長年、材料研究に従事していた。2013年には日本人初の技術開発系の現地マネージャーも務める。2018年より現職。大阪府出身、1969年7月1日生まれ(50歳)。ミシュランは何をやっているのか? 日本ミシュランタイヤ株式会社で取締役副社⻑兼研究開発本部 本部⻑を務める東中一之氏を訪ね、日本を中心としたミシュランのいまを、昔からのユーザーの立場で訊いた。

−−ミシュラン・ガイドは読んでいても、ミシュランがタイヤを作っているのを知らないというひともいるし、いっぽうで、タイヤは知っていても、ミシュラン・ガイドを知らないひともいるでしょうね。

「まったく相反するようでいて、ミシュラン・ガイドとタイヤは根っこのところでつながっています。タイヤメーカーとしてのスタートは1889年で、1900年には旅行ガイドを出しています。くわえてミシュランは、1970年代まで、フランスの道に道標を設置していました。どちらも、快適な旅を考えてのことです」

インタビューをおこなった太田サイトの会議室には、古い宣伝用ポスターが多数掲げられていた。−−ミシュランは、“輸入車に装着されて日本に入ってくるもの”と、思っているひとも少なくないようですが。

「トヨタ スープラやレクサスRC F、スバルWRX STI タイプRA-Rなどにはミシュランの高性能タイヤ、パイロットスポーツが純正装着されています。日本の自動車メーカーに以前、”タイヤでクルマの性能がこんなに変わるなんて”とホメられた経験もあります。(スポーツタイヤではないけれど)『プライマシーLC』では、”ガラスの上を走っているぐらい静かだ”とも言われました」

スバル「WRX」の限定モデル「タイプRA-R」も、ミシュランのタイヤを装着している。−−メーカーの立場からみて、評価される最大の理由はどこにあると思いますか。

「トータルバランスではないでしょうか。たとえば燃費性能だけを追究するなら簡単ですが、スパイダーチャート(レーダーチャート)が全方位的に大きくなる(諸性能がまんべんなく上がる)ように開発しています。私たちのテストドライバーは、メーカーの評価ドライバーとも仕事をして、そのひとがいちばんいいと思うものを知ったうえで、それより良いものを提案しようと努力しています」

−−日本の太田市に数多くの研究開発担当者がいるのはなぜでしょうか。

「ミシュランは仏・オーベルニュ地方のクレルモンフェランに本社があり、そこから10kmほど離れたラドゥにグループのテクノロジーセンターを置いています。世界中にさまざまな拠点を持ちますが、研究および開発拠点はラドゥ以外に、北米と日本(太田サイト)のみです。太田サイトでは、乗用車用のタイヤに限られますが、ウィンタータイヤの開発や静粛性能の研究を担っています」

太田サイトには、静粛性を研究するための半無響音室もある。写真に映る複数のマイクは、タイヤノイズ測定用のマイクだ。−−そういえば、かつて某輸入車メーカーの雪上試乗会で、ミシュラン「X-ICE 3プラス」について「日本の道を研究し、開発した、日本の雪に合うタイヤ」と紹介されました。

「ミシュラン製品は、日本の道を含め世界中の道で試験され、世界中の道に合うよう作られています。だから、日本の道でも高いパフォーマンスを発揮します。また、日本市場はミシュランにとってたいへん重要です。スタッドレス・タイヤは、日本がイニシアティブをとって開発して、世界で通用する高性能のものを出しています」

−−テストをやっているんですね。

「はい。とくに北海道でのウィンターテストはすごいですよ。夜間におこなうんです。17時ごろ出発して山の中腹にあるテスト場に集まり、朝の2時ごろまで実走行テストをおこないます。山間のコースをヘッドライトだけで走るんです。昼間やらないのはなぜかわかりますか? 日光や気温などの条件で、雪道の表面状態がころころ変わってしまうからです」

東中氏は、インタビュー中「タイヤでクルマの性能は変わる」と、たびたび話していた。−−レースからのフィードバックもタイヤにとって重要であると思います。いまF1のタイヤはピレリがサプライヤーになっていますが、かつてはミシュランでしたね。一時期、2020年シーズンをめどにF1に復帰する意欲も見せていましたが。

「18インチという新レギュレーションは好ましいですが、2020年シーズンだけ13インチのタイヤを作る必要があるなど、再考すべき事柄がいくつか出てきたのが、不参加の理由になりました。ただし、EVの特性が研究できるフォーミュラEや、SUPER GTのGT500クラスなどに供給しています」

1898年に誕生したミシュランのマスコット・キャラクター「ビバンダム」。−−ミシュランはつねに一般ユーザーとおなじ目線で製品を開発することが大事であると考えているようですが。

「実際の使用状況とまったく異なる環境で開発してもあまり意味はないでしょう。ミシュランのポリシーとして、テスト・ドライバーは高速周回路を走るとき、ヘルメットや耐火服も着用しません。理由は、”一般人が着用していないから”です。つねに使用者と同じ感覚で製品を作っています」

ミシュランは、企業指針のひとつに「私たちは製品を供給することを選択した市場に、ベストな品質の製品とサービスをベストな価格で顧客に提供していかなければならない」と、さだめている。東中氏の話から、ミシュランが日本市場を重視しているのがわかったし、研究・開発拠点としても日本が重要であるのがわかった。日本発の技術によって、世界で販売されるミシュランタイヤの性能が向上していると思うと、なんだか誇らしくなった。日本ミシュランのさらなる発展に、大いに期待したい。

文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)

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