万葉集が“国書”なら、軽乗用車は“国車”である。日本の軽乗用車規格の成立は戦後まもない、1949年に遡る。当時は全長2.80m以下、全幅1.00m、全高2.00mという、いまではちょっと想像もつかないヘンテコなサイズだった。排気量は4サイクルが150ccで、2サイクルが100ccと決まっていた。2輪と3輪、4輪の区別もなかった。それが『三丁目の夕日』に出てくる360cc時代を経て、さらに衝突安全性云々もあって徐々に大きくなり、現在に至っている。
日産の新型「デイズ」は2019年3月28日に販売開始された、その国車の1台である。令和元年のジェントルマンたる者、最新の国車を語れないでどうする?
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【主要諸元(ハイウェイスターX プロパイロットエディション)】全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1640mm、ホイールベース:2495mm、車両重量:860kg、乗車定員:4名、エンジン:659cc直列3気筒DOHC(52ps/6400rpm、60Nm/3600rpm)+モーター(2.0kW/40Nm)、トランスミッション:CVT、駆動方式:FF、タイヤサイズ:155/65R14、価格:156万7080円(OP含まず)。新開発のパワートレーンとプラットフォーム初代同様、2代目となる新型デイズは日産と三菱自動車の合弁会社「NMKV」が開発を主導し、岡山県倉敷にある三菱自動車の水島製作所で生産される。三菱版は「ekシリーズ」として独自のエクステリアをまとって販売されるのも従来通りである。ただし、初代が三菱の設計・開発だったのに対し、2代目は日産が厚木にある同社のテクニカルセンターで行なった。三菱ekシリーズのデザインは、三菱のデザイナーが厚木に通って細部を詰めたという。
ハイウェイスターのフロントグリルは専用デザインのクロームタイプ。ご存じのように、軽乗用車は税金と保険が優遇される日本独自の規格である。数度の改変を経て、現在は排気量660cc以下、全長3400×全幅1480×全高2000mm以下、定員4名以下、貨物積載量350kg以下とされている。枠があるから、いずこも同じ、という見方もできるけれど、枠があるからこその知恵較べという見方もできる。
いずれにせよ、群雄割拠の軽カー市場において、日産は初代デイズの投入以来、10%前後のシェアを獲得している。新型デイズの第1の使命はこのシェアを維持・拡大することにある。ちなみに軽乗用車の車名別ベスト・セラーNo.1は、ここ数年、絶対王者として君臨しているホンダ「N-BOX」で、これにスズキ「スペーシア」などが続く。
なお、新型デイズをベースとする新世代デイズルークスの登場は、初代同様、デイズの1年遅れ、ということは2020年春になると予想される。
360°カメラ(インテリジェント アラウンドビューモニター)はオプション。360°カメラの映像は、ディスプレイ付自動防眩式ルームミラー(グレード別設定)でも確認出来る。日産の調査によると、軽のファーストカー比率は2013年の32%から2017年には43%にまで増えている。趣味やレジャーにも使われることも多くなってきている。その理由にまでは踏み込んでいない。筆者なりに考察すれば、庶民の倹約志向とハードウェアとしての軽カーの質の向上がこのような結果を生み出している、ということだろう。庶民はファーストカーとしてリッパな軽乗用車を求めているのである。
軽乗用車初の「SOSコール」をメーカーオプション設定。急病時や危険を感じたとき、SOSコールスウィッチを押すと専門のオペレーターが、警察や消防への連携をサポートするという。また、万が一の事故発生時は、エアバッグ展開と連動し、警察や消防へ自動通報される。という需要の変化を念頭に入れた上で、新型デイズの開発にあたっては、初代デイズへの改善要望が洗い出された。それが、1)加速(出足・加速)、2)荷室(大きさ・使い勝手)、3)小物入れ(使い勝手)の3つで、これらを改善すべく、パワートレーンとプラットフォームが新開発された。
さらにその上で、自社の先進技術を通して、軽での長距離移動を、より安心・快適・便利なものへ変革しようと考えた。この場合の「先進技術」とは、後述する自動運転アシストの「プロパイロット」を指す。軽にも、やっちゃえNISSANの自動運転アシストが搭載される日が到来したのである。
意外とマジメな印象筆者が試乗したのは、このプロパイロットを搭載した、デイズ・ハイウェイスターXと同ハイウェイスターGターボの2台で、どちらも駆動方式は2WDであった。
新型デイズには、パワートレーンが全部で3種類ある。660ccの直列3気筒自然吸気エンジン+CVTが基本で、これに“S-HYBRID”なるマイルド・ハイブリッドを組み合わせた仕様、さらにターボを装着した仕様である。駆動方式には2WDと4WDの設定がある。今回試乗したのは、マイルド・ハイブリッド仕様とターボだった(ともに2WD)。
マイルドハイブリッド仕様のパワーユニットは659cc直列3気筒DOHC(52ps/6400rpm、60Nm/3600rpm)+モーター(2.0kW/40Nm)。“ハイウェイスター”というサブネームは日産ではおなじみの、J(和風)ロックンロール・テイストの内外装を意味する。とはいえ、デイズの場合はハイウェイスターのほうがモデル数も多ければ、実際の販売台数も多いことが見込まれている。ということは、Jロックがデイズのデファクトということになる。
ハイウェイスターのヘッドランプはLED。実物はだけど、意外とマジメな印象を与える。試乗したデイズ・ハイウェイスターXと同Gターボは、それぞれ自然吸気とターボ仕様の最高級グレードで、ともに上下7眼LEDヘッドライトを装備する。宇宙人の目みたいなのをベーシックカーにつけちゃうのだから、わがニッポンはさすが技術立国である。ボディ色はオプションで6万4800円の2トーン・カラー。屋根をマスキングしてから塗らないといけないからタイヘンめんどうな作業を要する。水島製作所のひとたちもがんばっている。ターボだからといって特別な羽がついていたりはしない。抑制がきいていて、立派で高そうに見える。実際、前者の車両本体価格は156万7080円、後者は164万7000円もする。日産「マーチ」や「ノート」が買えちゃうのである。それなのになぜマーチやノートを買わないで、国民が軽を選ぶのかというと、維持費をなるべく低く抑えたいからだ。
軽乗用車とは思えぬほどクオリティの高いインテリア。オプションの「プレミアムコンビネーションインテリアパッケージ」を選んだ場合(3万2400円高)、インパネはレザー調になるほか、エアコン吹き出し口にはブラックピアノ調の加飾が施される。インテリアは? というと、運転席まわりは、革巻きのステアリングホイールが奢られ、9インチのモニターやソフトタッチのエアコンのスイッチが採用されていて、同じ日産のマーチやノートよりもリッパに思えるほどの質感を実現している。助手席側のドア周辺がのっぺりしていて、ちょっとさみしい印象を与えるのは、限られた予算をコクピット周辺に投入し、加飾パネルをやめちゃったからだ。全高が1640mmもある恩恵で、室内は広々としている。スーパー・ハイト・ワゴンほどムダに広くない、と筆者は思う。
「プレミアムコンビネーションインテリアパッケージ」のシートは合皮皮革×トリコットのコンビタイプ。試乗車のシートは、さらにオプションのヒーター機能付きだった(2万4840円)。65mmプラスの2495mmにまで拡大されたロング・ホイールベースの恩恵で、とりわけ後席居住空間が広がっている。日産の最高級車フーガ並みの広さだそうである。おそらくフーガより天井が高い分、広々している。
荷室は135mm拡大されて収容力をアップし、運転席まわりには小物入れがたくさん用意されている。小物入れのフタはどれもプラスチッキーだけれど、軽なので、と割り切ればストレスがない。
エントリーグレードを除き、エアコンはオートタイプ。操作はタッチパネル式だ。驚くべきは静粛性である。いまや軽自動車でこんなに静かなのか、と驚嘆する。パワートレーンは新開発の660cc直列3気筒エンジンと新開発のCVTに、S-HYBRIDなるマイルド・ハイブリッドを組み合わせている。静粛性のためにエンジンそれ自体の剛性を上げている。おかげでエンジンの発する音に濁りがない。最高出力は52ps/6400rpm、最大トルクは60Nm/3600rpmで、車重は870kg。
マイルドハイブリッド仕様は、減速時の運動エネルギーで発電してリチウムイオンバッテリーに充電。蓄えた電力は、エンジンの補助駆動力にしたりすることで、ガソリンを節約するという。S-HYBRIDはリチウムイオン・バッテリーを運転席の下に配置することでエネルギー回生の効率を上げている。信号待ち等でアイドリング・ストップしても瞬時にエンジンが再始動し、発進加速時には電気モーターが加勢する。電気モーターは最高出力2kW(約1.5ps)/1200rpm、最大トルク40Nm/100rpm と数値的にはたいしたことないけれど、発進時にはそうとう利いているように思う。さほどがんばらなくても、横浜本牧埠頭あたりの交通の流れについていける。
搭載するトランスミッションはCVT。なお、自動運転技術「プラパイロット」搭載モデルのパーキングブレーキは電動式。CVTを段付きにして、シフトアップしているようなフィーリングを与えていることも、新しい工夫だ。フルスロットルを続けていると、レッドゾーンの6500rpmまでまわっては一旦500rpmぐらい下がって、また回転をあげる。ヴウウウウウンッとうなって、一拍おいて、再びうなる。そこにリズムが生まれる。車速はほとんど変わらないけれど、小さなエンジンががんばっていることも実感できる。がんばっているひと(ひとじゃないけど)は責められない。
メーターパネルは、インフォメーションディスプレイ付き(カラー)。タコメーターは全車標準だ。乗り心地は快適志向で、乗員にやさしい。スプリングはソフトで、コーナーでは大きくロールする。そこで活躍するのがウレタン製バンプラバーで、ロールしてから先がゆっくり動く。だから、ロールしても安心感がある。
じつは筆者の家には数年前に購入したホンダ「N-ONE」の自然吸気(NA)仕様がありまして、ウチのN-ONEより、最新のデイズは静かで乗り心地がよくて、なによりステアリングがしっかりしていることに筆者は感心した。
駆動方式はFWD(前輪駆動)のほか、4WDも選べる。ターボ仕様は、最高出力64ps/5600rpm、最大トルク100Nm/2400~4000rpmとパワーもトルクに余裕が生まれる分、静かになるかと思いきや、結局その余裕がある分、加速してしまう。首都高速だと風切り音が大きくなり、NAモデルと静粛性の印象はあまり変わらない。
足まわりはNAと同一の設定だけれど、ターボの方がちょっぴり硬いような気がした。NAのタイヤがブリヂストンで、ターボがダンロップだったという、銘柄の違いによるもの、かもしれない。NAのハイウェイスターXもオプションの15インチを装着していたからサイズはおなじである。
もちろんターボの方が加速に余裕がある。でも、高速道路での使用を重視しないのであれば、ターボじゃなくてもいいんじゃないの、というのが筆者の感想である。
プロパイロットの凄み最後に自動運転アシストの「プロパイロット」について。軽自動車として初めて、0~100km/hの範囲で走行時の車間および操舵制御を搭載している。首都高速上でこれを試してみると、ちゃんと先行車を追いかけていく。だけど、坂道は鬼門だった。なにぶん小排気量エンジンゆえ、低回転時のトルクが不足して、のぼりで先行車に引き離されちゃうのだ。
プロパイロット装着車の場合、アクセル、ブレーキ、ハンドルの操作をクルマがアシストする。フロントに搭載するカメラによって白線を検知、走行車線の中央を走るよう、ハンドル操作をアシストする。だから軽はダメなんだ、と申しあげたいわけではない。そこを我慢して待っていると、1500rpmぐらいから回転をあげて、加速し始める。そういう姿を筆者は誠実に思い、愛おしいと感じたのである。さすが国車である。
プロパイロットのメインスウィッチは、ステアリング・スポークにある。プロパイロットの作動状況は、メーターパネル内のインフォメーションディスプレイに表示される。せっかく横浜まで来たので、このあと、「リーフ」に試乗した。パフォーマンスと航続距離を向上させて、2019年1月早々に発表された「リーフe+」を筆者は未体験だった。ある意味、「技術の日産」を象徴するこの電気自動車はいま、どうなっているのか?
2019年1月に追加されたリーフの新グレード「e+」は、ベースモデルに対し、航続可能距離が大幅に伸びた(WLTCモードで322kmから458km)。“e+”という名称は、エネルギー密度が増したバッテリーと、よりパワフルなパワートレインに由来している。最高出力は110kW(150ps)/3283~9795rpmから160kW(218ps)/4600~5800rpm、最大トルクは320Nm/0~3283rpmから340Nm/500~4000rpmへと大幅にアップ。航続距離は約40%も向上している。
問題は、車重が1490~1520kgから1670~1680kgへと、200kg近くも増加していることだけれど、カタログ上の一充電走行距離は、WLTCモードで322kmから458km へ、従来のJC08モードで400kmから570kmに延びているのだから、よしとすべきかもしれない。走行状況よって、仮に半分しか走れなかったとしても、300km近い航続距離を持つとなれば、さらなる普及が期待できる。
ただし、筆者は日産本社から首都高速横羽線にあがってベイブリッジを渡り、大黒線をぐるっと1周しただけなので、航続距離云々についてはゴニョゴニョと御茶を濁すしかない。
リーフ e +もプロパイロットを搭載する。リーフのメーターパネルは、大型インフォメーションディスプレイ付き。ゆえに、プロパイロッドの作動状況も見やすい。今回、申しあげたいのは運転アシストとEVの相性のよさである。トルクがいきなり出てくる電気モーターの特性が、状況の変化によって頻繁な加減速を要求する運転アシストの制御にピッタンコだからである。ましてリーフe+はトルクが増強されている。
リーフには、ステアリング、アクセル、ブレーキ、シフト、さらにパーキングブレーキまで制御する自動駐車システム「プロパイロット パーキング」も搭載する。駐車する場所をインパネ上部のモニターで設定したあとは、センターコンソールのスウィッチを押し続けるだけ、自動で指定した駐車場所に移動する。「プロパイロット パーキング」使用時は、ステアリング制御も自動だ。駐車完了すると、自動で電動パーキングブレーキが作動し、かつ「P」レンジに入る。じつに静かでヒュウウウウイ~ンと走ることはいまさら申し上げるまでもない。だけど、筆者はこれをいかに描写するかの段になって頭を抱えた。それがどんな音を発して、どんなふうに振動して、どんなふうに走るのか、ということが、自動車については長年語られてきた。EVは音がしない。いまさらだけど。
リーフe+なんて、ギアだかモーターだかの音は若干しているにせよ、ギアだかモーターだかの音であって、それはヒュウウウイ~ンとかしか書きようがない。あとは風切り音である。ロードノイズとかタイヤの発する音とかは路面の変化によってあるかもしれない。だけど、ひゅーひゅーという風の音を描写して、なにが楽しいでしょう。
現行リーフは、コーナリング安定性向上システム「インテリジェント トレースコントロール」を搭載する。これにより、コーナリング時に4輪それぞれのブレーキを制御するため、より滑らかで安心感の高いコーナリングを実現したとうたう。車内の状況や天候に左右されずクリアな後方視界が得られるデジタル・ルームミラーも選べる。2020年から5G(第5世代移動通信システム)が始まると、クルマの自動運転は飛躍的に進歩するといわれている。ホントの自動運転が当たり前になる。EVとかプロパイロットとか、それらを含めた日産の先進技術を総括するワードであるところの「ニッサン インテリジェント モビリティ」は、もちろんほかのメーカーのも含め、やがて自動車の乗車中に自動車そのもののことを考えるのではなくて、それ以外のことを考える余裕をつくりだすわけである。
「やっちゃえNISSAN」で始まった先進技術は味わうだにおそろしい。もっとも、GT-Rがいますぐ生産中止になるわけでなし。運転の歓びを与えてくれるスポーツカーはスポーツカーとして生き残るはずである。AI時代の人間はヒマだから、スポーツ人口はますます増えるだろう。内燃機関を積んだ中古車がいますぐ消滅するわけでもない。
それに、リーフe+のようなクルマが目指しているのは、ようするにパーソナル電車なわけである。電車にだって新幹線から「TRAIN SUIT 四季島」、都電までいろいろあるのだから、パーソナル電車にもいろいろ出てくるに違いない。
2010年に販売開始されたリーフは、グローバルでの累計販売台数が40万台をさる2019年3月に達成している。「やっちゃえNISSAN」の次はなにか? 2020年はもうすぐそこである。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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