1984年、無冠のマシン「288 GTO」誕生
フェラーリが308シリーズやモンディアールの進化に積極的だった頃、開発チームでは極秘にもうひとつの8気筒プロジェクトが進行していた。1981年、FIAはそれまでの競技用車両のグループ分けを一新し、グループ1~9というクラス分けから新たにグループA~Eというクラスを年間生産台数などをベースに設けることを決定。その新たなクラス分けに対応するモデルを開発することが、その開発チームに与えられた任務だった。
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その結果、フェラーリは、グループBの公認を得るために「288 GTO」を開発。1984年のジュネーブ・ショーで初披露した。GTOとはGTオモロガートの意であり、フェラーリは200台の288 GTOを生産し、グループB車両の公認を得ようと計画していた。
しかし、フェラーリの思惑とは異なり、すでにこの時点でグループBで競われる選手権は、4WD車が大勢を占めるWRC(世界ラリー選手権)のみとなり、スポーツカーレースはグループCで争われることが決定していた。つまり、288 GTOは闘う舞台を失ってしまったのだ。
実はセールス部門の発案でスタート
それから20年以上の時が流れ、筆者は当時フェラーリでチーフ・エンジニアの職にあった、ニコラ・マテラッツィ氏をインタビューする機会を何度も得ることになった。自然な流れとして、288 GTOについても話は及んだが、氏によれば「288 GTOは、最初からグループBを意識したモデルではなく、フェラーリとしては史上初めてセールス部門が発案して造られたクルマだった」と、真相を語ってくれた。
計画値を超える272台を販売
288 GTOのエクステリアデザインは、当時の308シリーズのシルエットを受け継いでいるようにも見えるが、実際に共通するパーツは非常に少ない。かつての250 GTOではフロントにあった3本のスリットはリアフェンダーへと移動し、放熱させる目的でデザインされた。
ミッドに縦置き搭載されるエンジンは、308シリーズのクワトロバルボーレ用(4バルブ)をベースとしたものだが、ツインターボによる加給と、それに伴うインタークーラーを増設し、400psの最高出力を発揮した。結果、305km/hの最高速度を誇るに至った288 GTOは、熱狂的なフェラリスタからのオーダーを多数集め、計画していた200台をはるかに超える272台を販売。これはフェラーリのセールス部門がカスタマーの趣味趣向を正しく把握していた証しだろう。
創立40周年を記念した「F40」
そして、288 GTOの成功はエンツォ・フェラーリにさらなる闘志を生ませることになる。1987年がフェラーリ社の創立40周年にあたることから記念モデルを発売したいと考えていたエンツォは、288 GTOよりもさらにスパルタンな限定車を開発するよう、マテラッツィに指示する。この時、二人の間で確認されたのは、それがある程度のスキルをもつカスタマーに限って販売すべきモデルであることだった。生産台数は、288 GTOの例からやはり300台ほどの限定で用意するのがベストだと、エンツォは考えていた。
その限定車こそが、1987年にフェラーリの本拠があるマラネロで発表された「F40」だ。当時、最先端にあった軽量素材を積極的に活用し、478psの最高出力を発揮する2936ccのV型8気筒ツインターボエンジンをミッドに搭載。トランスミッションは5速MTが唯一の設定となり、もちろん後輪を駆動する。驚異的なのはそのウエイトで、乾燥重量で1100kgを実現。この車重とターボパワー、そしてパフォーマンスに対してホイールベースの短さから、F40のアクセルを踏み込むことは一瞬、躊躇させるほど刺激に満ちた仕上がりで魅了した。ちなみに288GTOのエンジンは308クワトロバルボーレ用がベースだが、F40のそれはランチアのグループCマシン、LC2用がベースとなっている。
エンツォ時代の最終モデル
自らその発表会を主催したエンツォ・フェラーリは、翌1988年8月に死去。エンツォ時代の最終モデルとして話題も重なったことから、当初300台ほどの限定車にするという約束は果たされず、最終的に1992年までに生産されたF40の生産台数は1311台にまで及んだ。しかし、その過激なまでの性能により、クラッシュによって失われたF40は少なくない・・・。
【SPECIFICATION】
フェラーリ 288 GTO
年式:1984年
エンジン:90度V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:2855.08cc
最高出力:294kW(400hp)/7000rpm
最大トルク:496Nm/3800rpm
乾燥重量:1160kg
最高速度:305km/h
フェラーリ F40
年式:1987年
エンジン:90度V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:2936cc
最高出力:351.5kW(478hp)/7000rpm
最大トルク:577Nm/4000rpm
乾燥重量:1100kg
最高速度:324km/h
※すべてメーカー公表値
解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)
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