家族向けのクルマ=ミニバンなのは確かだが、ここ数年で増えているのが3列目シートを備えたSUVだ。今回はその中から「マツダ・CX-8」に試乗した。東京~名古屋の往復で得た確かな手応えとは?TEXT●今 総一郎(KON Soichiro)
「最近、ミニバンが欲しいんだけど、どう?」
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久しぶりに再会した大学時代の友人が発した言葉に、一瞬だが確実に、ボクは反応が遅れた。
それまでお互い良い気分でお酒を飲み交わしていたのだが、その不意打ちに酔いが覚めてしまった。
「近々、結婚するの?」と聞いても、友人は「いや、そんな予定はないよ」と答えた。
ますます分からないが、ともかく、何かしらのアドバイスをせねば。
「確かにミニバンには良いところが沢山ある。例えば、アルファードとヴェルファイアの乗り心地は格別だし、セレナe-POWERの電気自動車さながらの先進性、ステップワゴンの“わくわくゲート”の使いやすさ、小柄なボディから想像できないほど多機能なシエンタやフリードなども見事だ。ユーザーのニーズを的確に汲み取り、それをカタチにする。日本人らしいきめ細やかな気遣いがミニバンの美点だ」
ボクは続けた。
「けれども、いいかい? 乗り降りしやすいスライドドアも、快適な2列目シートも、大量のカップホルダーも、独身男にはオーバースペックだ。心を抉り、孤独と焦りで発狂することになるだろう。それよりもマツダのCX-8はどうだい?」
夢のような10連休の直前に取材で名古屋へ行くことになったのだが、移動手段は新幹線ではなくクルマだった。片道だけで約300km、時間にして約4時間。スタッフと荷物を含めると社用車のミニバンが候補に挙がったが、あいにく先約があり、別のクルマを手配しなければならなかった。スペースだけでなく、快適性や燃費、さらに「全車速追従機能付きのクルーズコントロール」も付いていればなお良し。そんな条件で検討したところ、CX-8が良さげだった。
全長:4900mm×全幅:1840mm×全高:1730mmと堂々としたボディは、艶っぽいボディラインや鮮やかに輝くソウルレッドが織りなす上品なオーラに満ちている。その姿はファミリーだけを強く連想させるわけではなく、仕事もプライベートも確固たる信念がある男っぽさに溢れている。にも関わらず、ミニバンと同じく3列目シートを備えており、乗車定員は6名(もしくは7名)。2列目シートは6人乗りだと左右独立となる。
人だけでなく、荷物も載せられる空間を確保
多くのミニバンでは3列目シートを使っていると、荷室の奥行きは30cmもないほど狭く、背もたれの傾斜もあり、手持ちのリュックが置けるかも怪しい。しかし、CX-8は3列目を使っていても荷室の奥行きは約50cmはある。3列目を倒せば大人4名(7人乗りの場合は5名)+旅行用の荷物が収まるほどの容量がある。それに荷室の床下には深さ307mmの収納も用意されている。
120km/hでの巡行も涼しい顔でこなすディーゼル
さらにうれしいことにCX-8には低燃費と大トルクを両立したディーゼルエンジンが設定されている。ディーゼルの場合、車両重量は軒並み1700kgを超えるが、最大トルク(45.9kgm)が発揮される2000rpmよりも低い領域から力強さに溢れており、それこそ一歩目から重さを感じさせないほど軽やかにスッと動き出す。ディーゼルで指摘される騒音と振動も、車内にいる限りは不気味なほど静まりかえっている。
以前、CX-5を借りた時、給油口の蓋を開けると大きく「レギュラー」とシールが貼られていた。不特定多数が乗る広報車での給油ミスを防ぐためだが、そのとき乗っていたのはディーゼルのCX-5だった。車内に微かに響く振動と音はディーゼル特有のものだったし、タコメーターのレッドゾーンがディーゼルの数値だった。ただでさえ見逃しそうなシールの貼り間違いだったが、もし同じことが今回のCX-8で起きたなら気付ける自信はない。それほどに違和感がない。
そんなディーゼルの本領は高速道路で発揮された。新東名高速道路の新静岡IC~森掛川ICの約50kmの制限速度が120km/hへと試験的に引き上げられているが、その速度域に至ってもCX-8は苦しい表情を見せずに淡々と走り続けた。
クルーズコントロール中に前にクルマが入ってきても、自然な感覚で減速をこなす。90km/hで走る大型トラックを90.0000001km/hで追い越しをかける大型トラックには当然ながら苛立ちを覚えるが、トラックの小競り合いは古代ローマにおけるコロッセオの余興のようなものと思えばいい。 必死に戦う様を楽しんだのち、進路が開けば怒涛の大トルクでそれらをまとめてねじ伏せる。何事もなかったかのようにCX-8は120km/h巡行に復帰できる。加速性能も申し分ない。
長距離乗っていても疲れないシート
走行距離が増えるとお尻や腰に疲れが溜まってくるが、CX-8は明らかに疲れが少ない。弾力のあるクッションのおかげと思ったが、そもそも座った瞬間から妙に姿勢がピタリとハマる感覚があった。どうやら構造そのものが体幹を支えるように出来ているという。路面からタイヤを通して伝わる衝撃もサスペンションやボディで抑え込まれ、シートを伝う頃には95%は和らげられている。
快適性はもちろん、G-ベクタリングコントロールプラスによる車両制御がもたらす手の内に収まる操作感、そして東京~名古屋の往復(+α)で約770kmを走っても燃料はまだ1/4も残っていた(燃費は満タン法で14.9km/L)。見た目も華やかだ。乗れば乗るほどに自分の選択は間違っていないという手応えを感じた。
肝心の価格も先進安全装備が備わる「PROACTIVE」ならディーゼルで369万3600円(FF)~392万5800円(4WD)で、2.5Lガソリン(自然吸気)なら325万6200円、2.5Lターボなら374万2200円。ナッパレザー仕立てや2列目シートの中央に置かれる大型のアームレストなどインテリアの質感にこだわりたければ、「Lパッケージ」を選ぶと良い。ディーゼル&4WDの最上級グレードでも446万400円だ。機能性とマツダの国内における最上級SUVであることを含めても想像より2割は安い。
そんなことを話したところ、友人の表情が良くない。
「やっぱり、ミニバンがいいの?」
「違うんだ、ボクが欲しいのは“ミニワン”なんだよ」
「ミニワン?……、MINIのONEか!!」
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