トランスミッションは日々進化を続けている。ATはメルセデスベンツとFCAが9速ATをリリース、トヨタとアイシンAWがレクサスLC、LSに10速ATを採用し、GMとフォードも手を組んで縦置き用10速ATを開発、ホンダも横置き用10速ATを登場させている。
いっぽう、CVTも日産とジヤトコが共同開発した副変速付きCVTは、数値が大きいほど性能がいいとされるレシオカバレッジの数値が8.7に広がり、レクサスUXのダイレクトシフトCVTも7.56と8速ATに迫るなど確実に進化を続けている。
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しかし、まだまだCVTはATに比べ、つながりがギクシャクしていてATのほうがいい……、CVTはアクセルを強く踏み込んでも、音が騒がしくてなかなか前に進まない……といった意見のほか、CVTに対する不満が多いのに、なぜ日本車はCVTばかりなのか? という不満も聞かれる。
ここで改めて、なぜ日本ばかりがCVTを採用するのか? AT、CVTそれぞれの長所と短所について迫ってみたい。
文/高根英幸
写真/ベストカーWEB編集部
■多段式となって燃費性能と走りの両面で高い性能を誇るAT
レクサスLC500、LSに搭載されているトランスミッションは10速AT
今や2ペダルでもさまざまな構造の変速機が登場している。昔ながらのATとCVTに加え、DCTやAMT、さらにはEVという選択肢もあり、しかもこれは1ペダルでの走行も可能にしている先進性を誇る。
なかでも日本で主流と言えるのは、遊星ギアを使った多段式ATとCVTだ。どうして日本ではこの2形式が主流になったのかというと、それは日本の交通事情とものづくりに対する姿勢がマッチした結果だったからだ。
まず多段ATは、変速が滑らかという美点が光る。これは変速時のクラッチの切り替えを電子制御で緻密に制御できるようになったからだ。
DCTが2つのクラッチを切り替えて使うのが瞬時に変速ができる秘訣であるが、実はATはもっとたくさんのクラッチを内蔵している。
プラネタリーギアユニットは中心のサンギアと外周のリングギアの間にプラネタリーギアがある3つの歯車の組み合せで、入力側のギアに対し、残る2つのギアのどちらで出力するか、クラッチで切り替えることにより変速を実現しているのだ。
多段ATの変速が滑らかなのは、各ギア用に用意された湿式多板クラッチを精密に制御して、2つのクラッチを調整しながらトルクの途切れをなくしているからだ。つまりDCTと同じことを多段ATは各ギアで行なっているのだ。
アイシンやジヤトコ、ドイツのZFといった変速機メーカー、それにマツダやホンダ、メルセデスベンツといった独自に変速機を開発し生産する自動車メーカーが、多段ATを進化させてきた。
写真はレクサスLC500に搭載されている10速AT。9速ATはメルセデスベンツやFCA、10速ATはレクサスLC500とLSに搭載されている
発進時の滑らかさはトルクコンバーターによるもので、ここはCVTも同様のメリットといえる。昔はATのことを通称トルコンと呼んだが、これは変速機自体ではなくMTではクラッチに相当する部分で、トルクコンバーター自体も徐々に伝達効率が高まるため、一種の変速機といえる。
トルクコンバーターは、流体クラッチとしてクルマを滑らかに加速させるだけでなく、ATフルードの流れを利用してエンジン回転と引き換えにトルクの増幅を行なう。
空回りしているように見えて、そのオイルの流れが次の回転を助け、加速を滑らかに力強いものにしているのだ。もちろん空回りの損失もあって、それは熱に変わるためATFにはクーラーが必需品なのである。
こう書くとトルクコンバーターの損失が大きいのでは、なんて思われるかも知れないが、最近のトルコンにはロックアップクラッチという直結機構が内蔵されている。
発進後はすぐにロックアップクラッチが締結されて、ATはダイレクトに駆動力を伝え、加速時にはまた半クラッチのように締結を緩めてエンジン回転を上昇することを助けて、スムーズな加速を実現しているのだ。
■高コストで重い8速、9速といった多段ATは高級車しか採用されない
そんな美点だらけのATだが、難点がない訳ではない。遊星ギアユニットは、平行軸歯車と比べ、高い加工精度が要求される。昔の3速、4速ATと比べれば相当に効率が高く、スムーズでダイレクト感の高い走りを実現しているのは、変速機メーカーのエンジニアたちの努力の賜物だ。
さらに多段化によりプラネタリーギアユニットを3段も組み合わせている8速以上の多段ATは、軽量化にも余念がないが、それでもMTやCVTと比べて重量が嵩むのは避けられないことだ。
つまり多段ATは緻密で複雑、実はエンジンよりも精密さが求められる機械だ。だからこそ多段ATは一定以上の高級車にしか搭載されていない。つまり高コストと重量、サイズが受け入れられるようなクルマにしか採用することは難しいのだ。
●各メーカーのATはどこで作っている? サプライヤー/内製状況
トヨタ:内製/アイシンAW/アイシン精機、日産:ジヤトコ、ホンダ:内製、マツダ:内製、三菱:アイシンAW、ダイハツ:内製、スズキ:内製/アイシンAW/アイシン精機
■CVTはオランダで生まれ、欧州ではほぼ絶滅した変速機
コンパクトカーだけでなく大きく重いSUVにも採用されているCVT
現在CVTの主流となっている金属ベルト式の無段変速機は、そもそもオランダのヴァンドーネが発明したもので、フィアットと富士重工はいち早くモノにした自動車メーカーとして知られているが、実際にはトラブルも多く、一度は見捨てられかけた経緯がある。これは駆動力の断続に磁性体を使った電磁クラッチを使ったことも原因だった。
しかし、前述の通り、日本のエンジニアたちはトルクコンバーターとCVTを組み合せ、さらに制御を工夫し、加工の精度を高めることで完成度を高めてきた。
ほかの変速機メーカーがサジを投げた状態であるのに対し、日本の自動車メーカー、変速機メーカーは諦めることなく開発を続けた。
それはCVTの変速ショックのない加速とレシオカバレッジ(ローギアからトップギアまでの減速比の幅)の広さが、日本の道路事情に合っていると思われたからだ。
日本と比べ、ゴーストップが少ない欧州では、CVTのメリットは武器になりにくい。何よりラバーバンドフィールと呼ばれる、まるでMTのクラッチが滑っているようなCVTの加速フィールは、ドライビングが好きな欧州のユーザーには毛嫌いされた。
小排気量エンジンで発進時は減速比を大きくして出足を良くして、巡航時は減速比を小さくしてエンジン回転数を抑える。CVT自体の伝達効率は悪いが、小さいエンジンで加速と燃費を両立させるには都合がよいため、カタログ燃費や市街地での燃費向上に貢献できるのだ。
■矛盾だらけのメカニズムを技術力で解決した日本のCVT
レクサスUXに搭載された発進用1速ギヤの付いたダイレクトシフトCVT
CVTは自己矛盾に満ちたメカだ。ベルトで駆動力を伝達するためににはガッチリとベルトをプーリーで挟み込まなくてはいけない。
けれども強烈に挟んだ状態が良いのかと言うと、プーリーからベルトが離れる時には滑りが発生するし、そもそもプーリーとベルトを構成するエレメント(金属コマ)との間にも潤滑油が無ければ焼き付いてしまう。
だからちょうどいい塩梅でベルトを挟みつけて変速を行ない駆動力を伝え、ベルトがプーリーから離れる時には潤滑により抵抗や焼き付き、かじりを抑える必要があるのだ。
そのほかの変速機が、変速比を変える機構(ギアの切り替え)と駆動力を伝える機構(歯車)が独立しているのに対し、CVTは変速比を変える機構がそのまま駆動力を伝える摩擦伝達なのだ。
ギアによる噛み合い伝達は、伝達効率が98%以上であるのに対し、摩擦伝達は、伝達効率を高めようとクランプ力を強くするとフリクションロスが大きくなるし、油圧もたくさん必要になるから油圧損失も大きくなる。
さらにプーリーにかけるベルトの半径が小さくなるとプーリーを広げるために油圧を下げながらベルトをクランプしなくてはならなくなる。さらにベルトの屈曲性の問題もあって、さらに効率が悪くなってしまう。
だからトヨタは発進専用のギアを組み込み、減速比を抑えたCVTを組み合せた変速機を作り上げたのだ。
●各メーカーのCVTはどこで作っている? サプライヤー/内製状況
トヨタ:内製/アイシンAW、日産:ジヤトコ、ホンダ:内製、マツダ:アイシンAW、三菱:ジヤトコ、ダイハツ:内製、スズキ:ジヤトコ
■チェーン式CVTは強度と屈曲性に優れるが、静粛性が難点
チェーン式を採用するスバルのリニアトロニック。一部車種にはアクセルを踏み込まない「低開度」時は、滑らかな無段階変速。ドライバーがぐっと踏み込みアクセルが「高開度」になると、自動的にステップ変速に切り替わり、エンジン回転がぐっと伸びてリニアな加速が味わえるオートステップ変速切り替えモードを用意。また300ps/40.8kgmのWRX S4やレヴォーグの2Lターボにも耐えうる設計
チェーン式CVTは、実はベルト式CVTとは似て非なるモノだ。何故なら、まず駆動力の伝達プロセスが違う。ベルト式CVTは、エレメントと呼ばれる金属コマをベルトで束ねており、金属コマをプーリーが締め付けて、その先のエレメントを押し出すことで駆動力を伝える。
つまり、プーリー間にある金属コマは積み重ねられて一本の棒のようになり、プーリーを押す力になって駆動力を伝えるのだ。
それに対し、チェーン式は引っ張ることで駆動力を伝える。しかもプーリーとチェーンの接点となっているのは、チェーンのリンクを形成するピンの両端という小さい面積だけ。
だからCVTでもチェーン式はピンをプーリーが挟み込む時にノイズが発生するため、静粛性が問題になる。しかしチェーン式はリンクを重ねて幅を増やすことで、金属ベルト式より大きなトルクを伝達できる。
スバルがチェーン式CVTを開発したのは、縦置きの変速機で無段変速という独創的なメカにこだわったからだ。水平対向エンジン同様、スバルのアイデンティティとして確立するためだ。
そもそも金属ベルト式のCVTはベルトの屈曲性が低いため、一定以上のプーリー径が必要になる。
センタートンネル内に変速機を収める縦置きでは、金属ベルト式のCVTは搭載が難しい。アウディが採用したのも同様に縦置きだったからだ。
■CVTとATは一長一短!
大排気量車にはCVTは向かないといわれるが……
CVTとAT、どっちがいいとはひと口には言い切れない。伝達損失から言えばATの方が優れているが、コストや燃費を考えればCVTも負けないくらい性能を高めている。
CVTは小型車用の燃費優先変速機であるのに対し、多段ATはある程度のサイズ容量をもった高級車向けの変速機という棲み分けが進む。
4速、5速のATはその中庸的な存在だが、日本ではコストが安く燃費のいいCVTがカバーする領域を広げているのが現在の日本の変速機事情と言える。
しかし今後、変速機はモーターと組み合わされる電動化が進み、ワイドなレシオカバレッジは必要なくなってくる。
ATの多段化は収束され、CVTは姿を消していくことになるだろう。その反面、EVにも3、4速の変速機が搭載される時代が到来するのである。
■いいAT、CVTの指標であるレシオカバレッジとは?
本企画で何度も出てきた言葉、レシオカバレッジ。最後にこのレシオカバレッジとはなにか、これまで聞いたことがなかった、という人のために、説明しておきたい。
レシオカバレッジとは、変速機の変速比幅(適用可能な変速比の範囲)とも呼ばれ、最も低速のギア比を最も高速のギア比で割って求める値だ。
この値が大きいほど、エンジンが低回転のままで走ることができる車速の幅が広いことになり、燃費が良く、静粛性に優れるという評価につながる。CVTの場合は、最も低速(ロー)のプーリー比を最も高速(ハイ)のプーリー比で割った数値になる。
4速ATで4程度、6速ATで6程度、8速ATでは8程度、9速ATでは9.8、10速ATでは8.23となっている。CVTは一般に5.5~6程度。 巻末で各社の主な車種のレシオカバレッジを紹介しているので、いいトランスミッションの指標としてみてほしい。
CVTの場合、変速用プーリーの大径化の制約があるため、多段ATよりも変速比の幅を広げられなかったが、日産とジャトコが2009年に実用化したCVTは副変速機をつけて、乗用車としては当時最も広いレシオカバレッジを7.3とし、後に8.7にまで広がった。
いっぽう、トヨタは2018年12月、レクサスUXに採用したダイレクトシフトCVTは、CVTに発進用1速ギヤを組み込み、ベルトをハイ側に設定できたことで、レシオカバレッジ7.5を実現した。
つまり副変速機と発進用1速ギヤを組み込むことで、発進、加速時にはギア比をロー側へシフトし、 力強い駆動力を得ることと、高速巡航時にはギア 比をハイ側へシフトし、静かで燃費の良い走りを両立させている。
このレシオカバレッジの数値が大きいほど、いいAT、CVTなので、参考にしてほしい。ちなみに過去の車種の数値を比較してみると進化の幅がわかるだろう。
■主なAT搭載車のレシオカバレッジ
●レクサスLC、LS:8.232/10速AT
●アルファード3.5:8.201/8速AT
●デリカD:5 2.3Lターボ:7.801/8速AT
●クラウン2Lターボ:6.709/8速AT
●レクサスRC F:6.709/8速AT
●スイフトRS-t:6.812/6速AT
●ロードスターS:6.079/6速AT
●スイフトスポーツ:6.018/6速AT
●デミオ1.5L XD:5.934/6速AT
●CX-5 XD:5.812/6速AT
●レクサスRX 2Lターボ:5.428/6速AT
●フィアット500X:9.812/9速AT
●ジープチェロキー:9.812/9速AT
●ベンツCクラス:9.156/9速AT
●ベンツEクラス:8.908/9速AT
●BMW X2:8.201/8速AT
●プジョー3008:8.199/8速AT
●ボルボXC40:7.801/8速AT
■主なCVT搭載車のレシオカバレッジ
●レクサスUX:7.555/CVT
●ノート1.2L:7.284/CVT
●スイフト1.3L:7.284/CVT
●インプレッサスポーツ1.6L:7.031/CVT
●フォレスター2.5L:7.031/CVT
●セレナ2L:6.960/CVT
●エクリプスクロス1.5Lターボ:6.960/CVT
●エクストレイル2L:6.960/CVT
●シビックセダン:6.531/CVT
●ステップワゴン1.5Lターボ:6.531/CVT
●ヴォクシー2L:6.454/CVT
●WRX S4:6.442/CVT
●C-HR 1.2ターボ:6.263/CVT
●カローラスポーツ1.2Lターボ:6.263/CVT
●ヴェゼル1.5L:6.191/CVT
■主な過去の車種のレシオカバレッジ(順不同)
●LFA(2010年):4.064/6速AT
●NSXタイプT(2004年):3.360/4速AT
●BP5 レガシィツーリングワゴン2.0GT(2003年):4.425/5速AT
●アルテッツァAS200(1998年):3.356/4速AT
●カローラII 1.4L(1997年):2.810/3速AT
●マークIIグランデ(1995年):3.820/4速AT
●レパードJフェリー(1993年):4.013/4速AT
●S13シルビアK'S(1992年):4.013/4速AT
●EF7 CR-X Si(1990年):3.468/4速AT
●マーチターボ(1990年):2.286/3速AT
●R32スカイラインGTS25(1989年):5.558/5速AT
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