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SUVであっても変わらないロールス・ロイスの世界感

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SUVであっても変わらないロールス・ロイスの世界感

カリナンという名を聞いて、ビッグサイズの新型SUVではなく、巨大は巨大でもダイヤモンドのほうを思い出された方は、よほどの宝石マニアか英王室ファン、はたまたヒストリア好き、のいずれかに違いない。

幽霊の名前ではなく、ダイヤモンド。ロールス・ロイスにとって初めての4WDでありSUVである。ということは、見方を少し変えたなら、それはロールス・ロイス初の実用車、ファミリィカーだと言えなくもないだろう。だからこそ実体のある名前を選んだ、幽霊シリーズ(ファントム、ゴースト、レイス)に名を連ねることがなかった、と思うのは深読みのし過ぎだろうか。

“超”高級SUVの先駆者は輝きを失っていなかった──ベントレー ベンテイガV8試乗記

否、世界最大級のダイヤモンド(だった原石は今ではいくつかにカットされている)を、もし仮に手に取って直にその輝きを眺めることができたとしたならば、人間の化身などよりもよほど身体に障るに違いない。

いずれにしても、自らプロダクトを世界最大のダイヤモンド原石の名に重ね合わせるとはロールス・ロイスの揺るぎない自信の現れだと思うほかなかった。いつだってそうなのだけれども。

アメリカで初めて乗ったときは、さほど大きさを感じることがなかった。世界最大級のボディサイズをもつSUVとはいえ、その世界最大級クラス、エスカレードエクステンドやシボレーデューリーなどが、ワンサカと行き交うセレブリティ御用達の山岳リゾート・ジャクソンホールでは、道の広さと単純さとが相まって、日本人感覚のサイズ判断などできるわけがない、とは思っていた。

はたして、ロールス・ロイスの主催となるおそらく日本で初めてのメディア試乗会のスタート地点となったアマン東京のクルマまわりで目の当たりにしたカリナンは、まるでエントランスを塞がんばかりにデカかった。マイクロバスのようである。

せっかくなので、都内から軽井沢に向けて走るルートの前半を、ショーファードリブンで楽しんでみる。試乗に供されたのは後席セパレートの4シーターで、荷室との間にガラスパーテーションが備わっているという豪華仕様だった。

そもそもカリナンの荷室はボックスタイプになっていて、キャビンとは隔絶されている。ガラスパーテーションが入ったことで静粛性がいっそう高まるというよりも、エアコンディショナーの温度変化が抑えられることのほうがメリットらしい。

筆者などは断然この4シーター推しなのだけれど、現時点ではオーダーのおよそ7割が5シーターの後席ベンチシート仕様らしい。まぁ、ファミリィカーだと思えば当然だけれども。

とてつもなく静かだ。エアコンの吹き出し音すらきっちり静かにチューニングされている。乗り心地にちょっとゴツゴツとした感触があったのは、冬の軽井沢を目指すべく万が一に備えてスタッドレスタイヤを履いていたから。それでも極上の滑り出し。朝を急ぐ大手町の人たちに手を振りたいわけでもなかったけれど、ウィンドウを開けてみれば、そのモーター音がやけに大きく聞こえた。

後席でふんぞりかえりiPadでメールチェックなどしてみたが、高速に乗ってしまえばすぐさま、同業の務めるショーファーにはたいへん申し訳ないことにスヤスヤモード。どうやら新車のロールス・ロイスの香りは眠気を誘うものらしい(海外試乗会でもいつも爆睡するので)。

全ての乗用車を、物理的に見下している。バスやトラックとは同等の目線であるように思える。この優越感はいかんともし難く、何も自分がえらくなったわけでも、オーナーでもないのに、妙に晴れがましい。乗り込んだ人を独特の空気感で包み込み、時には気分を安らかに、そして時には揚々とさせてくれる。ハイエンドブランドに乗ることの意味を改めて垣間みた気がした。

行程の半分を過ぎたあたりで現実へ戻ることに。“テストドライバー”のオシゴトだ。もっとも、ロールス・ロイスをテストする機会など、この仕事をしていてもそうあるものじゃない。ガキのように喜び勇んでドライバーズシートに座った、という表現のほうが正しい。

大きなハンドルをつまむようにして握り、全身でその動きを確かめるかのようにゆっくりと右アシに力をこめていく。どんなクルマでも初めての個体ではそうするように心がけているけれど、慎重さはおのずと増している。

しずしずとパーキングエリアを動き出した。観光バスから降りてきた人たちが、キツネにつままれたような顔をして眺めている。ロールス・ロイスである(ということが誰でも分かる!)ということと、クロカン四駆であることの整合性がどうやら付きかねているようだ。不審車を見るような視線さえ感じる。

高速クルーズは快適のひとこと。運転支援などに頼らずとも、車線の走りたいあたりを実に上手くキープする。否、それができて初めて、運転支援は成り立つ。真っ直ぐ走らせられない国産車にいくらアシスト機能を付けても上手くはいかない。

軽井沢インターを降りると、大好きなワインディングロードがある。交通量も少なかったし、ちょっと元気に走らせてみた。ちなみにカリナンにはドライブモードセレクターなどといったご主人様に余計な手間をかける仕組みはない。あるのは実質“どこでもボタン”(オフロード用)だけである。

12気筒エンジンのありあまるパワー&トルクで駆け上る、なんてステレオタイプな表現では収まらないほど、快活に峠をこなす。同じ12気筒エンジンでもファントムとは違って、力強さの息が長い。ファントムより重く、最大トルク値も低いに関わらず、だ。SUV専用のトルクを重視したパワートレーンセットになっている。

ハンドリングも車両の絶対的な高さと重さを上手に制御するもので、先程来、後席でふんぞりかえっている同業さえそこに座っていなければ、もっと果敢に攻めてみても楽しめたはず。実際、ジャクソンホールの高速グラベル走行では、大いにはしゃいだものだった。

同じようなことを、奥軽井沢の林道を走ったときにも思った。残念ながら雪は無く、ぬかるみ時々アイシーといった具合だったけれども、“どこでもボタン”さえ押しておけば、路面の変化など無かったかのように走破してくれる。たとえこの先どんな路面環境に出くわしても走りきる自信が芽生えるのだ。究極のサバイバルツールであろう。

ゴールも間近。入る道を間違えて、とてつもなく細い山道を抜けていくハメに。道へとはみ出す木々でボディが擦れやしないかと心配しつつも、カリナンならどこだって行けてしまえる気がした。でかいのに一体感があるからだった。

カリナンで山道やオフロードを真剣に走り込む人など、そうはいないだろう。でもそれは、スーパーカーで最高速トライをする人がほとんどいないことと同じ。オフロードだろうがサーキットだろうが、実際に極限でのパフォーマンスが可能である、ということがハイブランドの価値を生んでいる。

カリナンがもし、カタチがSUVというだけでナカミはゴーストそのままだったとしたら?一時は売れるかも知れない。そのうち忘れ去られて、ブランドの歴史に瑕をつけ、ブランドの未来の価値を減じることになる。

ロールス・ロイスにSUVが要るかどうかの議論もまた、さほど重要ではない。極論をすれば、今、世界の金持ちが必要としているからである。そして、ロールス・ロイスがSUVを造ったならば、それは世界最高のSUV性能と機能を誇るものでなければならないというだけのこと。

その答えがカリナンだ。

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