「プラスチックごみ」問題がヤバい。特にヤバいのが「海洋プラスチックごみ」「マイクロプラスチック」だ。そして、これらの問題には、実は自動車界も大きく関係しているという。
プラスチックごみの海洋生物への被害はさまざまだ。「ごみをそのまま飲み込んでしまう」、「廃棄されたプラスチック製の漁具に絡まる」、「体内に入り込み蓄積されてしまう」…などが挙げられる。
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そのまま死に至ってしまう場合もあれば、長い時間をかけ海洋生態系そのものを破壊することにつながっていく場合もある。2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)では、「2050年に海洋プラスチックごみの量が海にいる魚を上回る」という衝撃的な予測も出た。
さらに昨年10月には、人間の排泄物からプラスチックが発見されたことも報告されている。被験者のなかには日本人も含まれるという。
日本のプラスチック生産量は中国、アメリカに次ぐ世界3位。プラスチックごみの約半分を占める容器包装用のごみ発生量は人口ひとり当たり世界2位。言うまでもなく、日本もこの問題の当事国だ。
※本稿は2019年1月のものです
文:ベストカー編集部/写真:Adobe Stock、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年2月26日号
■日本での本当のリサイクル率、実は7%
一方で「日本はリサイクル率が高いのでは?」と思う読者も多いだろう。実際、廃棄されるプラスチック(廃プラ)の有効利用率は84%と公表されており、世界有数の高さを誇る。しかし「この数字を鵜呑みにしてはいけない」と、WWFジャパン・プラスチック政策マネージャーの三沢行弘氏は警笛を鳴らす。
「有効利用率84%とされているうちの57.5%は廃プラを燃やし、その際の熱を活用する“サーマルリサイクル(熱回収)”で、これはリサイクルではありません。そのほかに単純に燃やしてなくしているだけのものが全体の9%あり、これら原油由来のプラスチックを燃やすことでCO2が発生し、地球温暖化対策に逆行しています」
本当の意味でのリサイクルとはマテリアルリサイクル(再生利用)とケミカルリサイクル(再生して化学原料として使用)を指す。しかし、それは有効利用率84%のうちの27%に過ぎず、さらにその大半は「資源」という名目で東南アジアを中心とした他国に輸出している。日本国内でリサイクルされている廃プラは、わずか7%しかないのだ。
しかも輸出される廃プラの約半分は中国に行っていたが、2017年末に中国は輸入を停止。このため国内で廃プラをどう処理するかが喫緊の課題となっているのである。
「廃プラの国内でのリサイクルは、コストや技術的な障害でなかなか進んでいません。例えば回収されたペットボトルがそのままペットボトルに生まれ変わる割合は1割程度しかありません。また、リサイクルで新たなプラスチックの原料となる、プラスチックのペレット(細かい粒)の自然界への漏れ出しも懸念されます。結局は、使うプラスチックの量を減らすのが一番の対策なのです」(三沢氏)
プラスチックごみ対策には3Rと呼ばれる3つの方法がある。リデュース(総量を減らす)、リユース(再利用)、リサイクル(再生産)で、そのなかで最も現実的な策はリデュースということなのだ。
なかでも廃プラの45%以上を占める“容器包装用”を中心に利用総量を減らすことが重要だ。容器包装用プラスチックとはスーパーのレジ袋や食品容器などで、これらの多くは一度きりの使い捨て用に利用されている。
レジ袋の有料化や課税を実施している国は127カ国にも達し、ヨーロッパやアフリカ諸国を中心に61カ国で製造、輸入を禁止している。また、マクドナルド、コカコーラ、スターバックスなどの著名企業が使い捨てプラスチックの削減目標を発表しており、日本でも「すかいらーくホールディングス」が’20年までに全世界店舗でのプラスチック製ストローの廃止を打ち出している。
意識が高まっているのは確かだが、まだスタートラインに立ったばかりなのだ。
■クルマの廃プラは意外と少ないが
クルマの影響はどうなのか。日産によれば、乗用車1台分のプラスチック使用量は平均12.2%と意外と少なめ。また、クルマの部品のリサイクル率は99%といわれており、廃プラ総量のうち輸送部門(クルマ以外も含む)の占める割合は4.4%と少ない。
しかし、だからといって無視していいものではないし、99%のリサイクル率のなかで、こちらも燃やしてCO2を排出するサーマルリサイクルが大部分を占めているという問題もある。なぜプラスチック部品の再生利用が進まないのか? 日産の環境部門担当者はこう説明する。
「現時点では経済性が見合わないからです。リサイクルする部品を人手で取り外す(人件費がかかる)、破砕処理した混合物のなかから目的とするプラスチックを選別する(選別コストがかかる)、原料をプラスチック再生工場に運ぶ(物流費がかかる)、また、異物を除去したうえで再生プラスチックを製造するにもコストがかかります。さらに、再生プラスチックはまだ供給が不安定という課題もあります」
ただし、コストがかかるからといって、再生利用に消極的なわけではない。同じく日産担当者の説明。
「設計面では、プラスチック材料の規格を統合し、リサイクルしやすいように配慮しています。また、部品から素材を取り外しやすいよう締結方法にも配慮するなど、課題解決に向けた技術開発を関連する企業の方々と進めています」
また、原油由来ではないバイオマスプラスチックの開発も進んでおり、日産ではリーフの内装表皮材に一部使われている。
■いま、世界は「タイヤの粉塵」に注目している
実は、クルマ関連ではタイヤもプラスチックごみの問題を抱えている。
「日本ではあまり知られていないのですが、微少なマイクロプラスチックの主要発生源がタイヤの摩耗粉塵であるというデータが欧州で発表されています。空気中に舞ったマイクロプラスチックが最終的に海に入り、それが海洋生物の体内に蓄積されている可能性があります。マイクロプラスチックには有毒物質であるPCBが吸着されやすい特性があり、これも大きな懸念材料なのです」(三沢氏)
天然ゴムを使えばマイクロプラスチックは発生しないが、コストが跳ね上がるだけでなく、天然ゴムの持続的ではない大量採取は森林破壊に繋がる。タイヤ業界も難しい対応を迫られているのだ。
昨年秋、英国のエレン・マッカーサー財団が提唱する“ニュープラスチックエコノミー”に賛同し、“グローバルコミットメント”に署名した世界285の企業や政府が共同宣言を行った。
バーバリー、ダノン、コカコーラ、ペプシなど著名な企業が2025年までにプラスチックごみの削減と循環経済に取り組むことを宣言したものだが、これに署名することはプラスチック問題に真摯に取り組む意志を確認するひとつのバロメーターになるという。
「一般消費財メーカーが中心ですが、フィリップスなど耐久消費財メーカーも参加しています。しかし、世界の自動車メーカーやタイヤメーカーは一社も署名していません。業界からこういう取り組みに参加し、持続可能なビジネス構築に主体的な役割を果たしてほしいと願っています」
と三沢氏は言う。
この件に関して自動車メーカーの見解はどうか。
「世界のプラスチックごみの約半分は包装によるものであり、“グローバルコミットメント”にもあるように、不要な包装をなくす、シングルユースのプラスチック包装や容器を削減するなどの取り組みが重要であると考えます。自動車業界はその類のプラスチックはほかの産業に比べて少なく、弊社は参加していませんが、その対策は積極的に進めています。また、プラスチックを含む廃棄物の削減、バンパーやASR(自動車残滓(ざんし))のリサイクルにも取り組んでいます」(日産担当者)
日産は2022年にクルマに使用する原料のうちの30%を新規採掘資源に頼らない材料に代替し、2050年には70%に削減するという長期ビジョンを掲げている。持続可能な社会を作るのはやはり技術だ。これからの動きに注目したい。
【番外コラム】 マイクロプラスチック タイヤ業界の見解は?
タイヤの摩耗粉塵がマイクロプラスチックの主要発生源になっていることについて、日本自動車タイヤ協会(JATMA)に見解とその取り組みを聞いた。
* * *
おっしゃるとおり、日本ではあまり知られていませんが、欧州を中心にマイクロプラスチックの主要発生源としてタイヤの摩耗粉塵が挙げられています。
ただし、タイヤの摩耗粉塵を含むマイクロプラスチックの調査研究はまだまだ不充分で、実態(環境中にどれだけ存在するか、どこに存在するか、ヒトの健康や環境に悪影響があるのかなど)は、明らかになっていないのが現状です。
そんななかでもタイヤ業界では、世界主要タイヤメーカー11社(日米欧韓)がメンバーとなっている、WBCSD (持続可能な発展のための世界経済人会議)のTIP(タイヤインダストリープロジェクト)という組織が、タイヤに関連する諸事項(特に環境対応)に関する取り組みを行っており、重要案件のひとつとしてタイヤの摩耗粉塵に関する実態調査を以前から実施しています。
現時点では、我々JATMAおよび、会員各社が独自に摩耗粉塵の排出量を減少させるための取り組みを行っているというわけではありませんが、TIPでの独自調査だけでなく、各種研究機関の調査等の情報収集を行い、しかるべき対応ができるような体制を整えています。
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