ゆっくりと自動車博物館を見て回りたい、でもどこにどんな博物館があるのかわからない、という人も多いことだろう。そこで今回は神奈川県座間市にある「日産ヘリテージコレクション」を紹介しよう。事前申し込みが必要だが、入場は無料。知る人ぞ知る、博物館だ。(Motor Magazine 2017年1月号より)
日産の80年あまりの歴史が一堂に会した姿は圧巻
「日産ヘリテージコレクション」は日産自動車の80年あまりの歴史を見ることができるスペース。新型車の開発、試作、設計製作を行う日産の生産技術の拠点である座間事業所内に併設され、1930年代の生産車から歴代のレースカーまで、日産のオンロード、オフロード両面の歴史を物語る車両など約400台の記念車を所蔵し、うち常時約300台を展示している。
現行車につながるものや技術的革新をもたらしたもの、モータースポーツで活躍したもの、歴史上エポックメイキングなものなどをはじめとする記念車を、日産の歴史を物語る貴重な財産として大切に保管しているのだが、車両の約70%は走行可能な状態を維持しているというのも凄い。
日産自動車の座間事業所内に併設されているということもあって、公式サイトから応募フォームにより事前申し込みが必要だが、入場料はなんと無料。アクセスはあまり良くないが、行ってみる価値ありだ。
場所は神奈川県座間市広野台2-10-1、不定期で休館日があるので、開館日は要確認。駐車場も用意されているので、クルマで行くのもいいだろう。では早速、日産ヘリテージコレクションを紹介しよう。
プリンスとの合併を機に日産は大きく飛躍していく
まずは1960年代に焦点を当てて見て行く。1960年当時の日産車は小型車のブルーバード、中型車のセドリック、スポーツカーのフェアレディというラインナップだった。
そこから大きく動いたのが66年のプリンスとの合併。資本自由化を前に日本の自動車産業を守るという動きの中での出来事だったが、日産はスカイラインとグロリアというモデルに加え、プリンスのエンジニアリングまでも手にするのだった。そして、65年にVIPカーのプレジデントを、66年に大衆車のサニーを登場させ、さらに68年にはローレルを加えることで一気にフルライン体制を確立していく。
一方で60年代はスカイラインスポーツが皮切りとなって、ミラノ詣で、イタリアンデザインが流行する。日産で見れば63年の410型ブルーバードと65年のセドリックがピニンファリーナ、ダイハツでは63年のコンパーノがヴィニヤーレ、マツダでは66年のルーチェがベルトーネ、いすゞでは67年のフローリアンと68年の117クーペがギアといった具合だった。60年代当初はアメリカンデザインが主流だったが、次第にヨーロッパ調デザインが小型車を中心に主流となって行った。
そんな中、410型ブルーバードに異変が起きる。ピニンファリーナのテールデザインが「尻下がりでカッコ悪い」との評判が立つのだ。トヨタのコロナと熾烈な争いをしていた日産としては無視できぬ問題。そして遂にマイナーチェンジを機にヒップアップを果たす。結果は成功となるがピニンファリーナとしては忸怩たるものがあったに違いない。
日産にとって60年代はスポーツイメージを確立した時代でもあった。スポーツカーのフェアレディは1500から1600へ、そして67年には2000へと発展。2000の最高速は205km/hとトヨタ2000GTを5km/h上回り国産最速となる。この流れは次のフェアレディZで確固たるものとなる。
また、ブルーバードにはエンジンチューンによってSSやSSSを設定。スーパースポーツセダンたるSSSは“スリーエス”の呼称とともに憧れの車となった。そして67年の510型の登場でスポーツセダンとしての基盤を築くこととなったのだった。
そこに拍車をかけたのがプリンスから譲り受けたスカイラインだった。合併によってS54型GT-Bが、続いて69年には“ハコスカ”のGC10型GT-Rが登場。ツーリングカーレースを席巻し、“日産=GTスポーツ”さらに“技術の日産”というイメージを確たるものとする。
日産ヘリテージコレクションの数ある展示車を眺めていると、今に繋がる日産のベースは60年代にあったことに納得させられる。こうした歴史を見出せるのも自動車博物館を訪ねる楽しみのひとつである。(文:河原良雄)
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